その156
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─ミート公爵家、お屋敷─
「なんだお前達は、誰の命令で動いている? ここがミート公爵のお屋敷だと知っているのだろう?」
屋敷の門前に配置されていたミート公爵領の領兵である門番が声を張り上げる、我らも国軍の鎧を来ているとはいえ、門を守る兵であればこの対応は当然の事だ。だが…
「我らは王命により推参した。この書状に書いてある通り、これは勅命である! これに逆らう者には国家反逆罪を適用するものとする! 反逆の意志があるならば抵抗するが良い、国王陛下に従うのであれば開門せよ!」
そう宣言し、陛下から頂いた命令書を見せつける。
この命令書には国王陛下の印が押されている。これに逆らうという事は即ち国家に逆らうという事、仮にも公爵領に勤める兵であれば知らないわけがない。
この国においての国家反逆罪、それは罪人から3親等まで全員処刑という厳しい物だ。本人から数えて1親等が両親、兄弟、妻、子供。
2親等が祖父母と兄弟の配偶者、妻の両親、妻の兄妹、そして孫。
そして3親等が曽祖父母、兄弟の配偶者の両親と兄弟、妻の兄妹の配偶者と子、そして曾孫。
この国に存在する法による最大級の罰、これには貴族も平民も関係は無い。
つまり、いくらミート公爵に仕えているからと、忠義を全うしなくても仕方がないと思わせる程の罰則だ。さすがにこれには領兵もたじろぎ、コソコソと相談を始める。
「我らの任務はミート公爵の捕縛である! そうやって時間稼ぎやミート公爵に知らせを入れる者は勅命に逆らったと判断する。早く開門せよ!」
さすがにこの宣言に顔色を変え、門が開かれる。
「では1人は道案内でついてきてくれ、残った兵はこの屋敷にいる全ての兵を1ヵ所集まるよう指示を出せ! それでは出撃!」
道案内の兵がなかなか優秀で、最短ルートで公爵の執務室へ向かい、その扉を叩き開ける。
しかし公爵は… 執務室であろう事か情事の真っ最中であった。恐らくあれが使徒様の仰られてた拉致された冒険者の女性なのだろう、とても同意の上での行為とは思えない。
「な、なんだ貴様らは! ここが誰の部屋か分かっているのか!」
「もちろんです公爵閣下、王命により貴方を拘束します。言い訳は国王陛下の御前でどうぞ、では… かかれ!」
部下達が殺到し、力尽くで公爵を縛り上げていく。もちろん襲われていた女性への配慮も忘れない、近くにいた公爵家のメイドに言いつけて保護し、別部屋に連れていって着替えさせるよう頼む。
その足で公爵夫人と跡取りの長男、その他兄弟を捕縛して作戦は滞りなく完了した。
縛り付けて簀巻きにしたミート公爵を部下2人が抱え上げ、1階へと降りて来る。他にも公爵夫人と跡取り息子も王宮へ連れていかなければいけない、部下に指示して捜索させておき、改めて公爵の執務室へと向かう。
「なんだこの書類は、適当すぎるだろ」
公爵の机の中にあったミート公爵領内での犯罪記録、その処分などが書かれた書類を見つけて読んでみたものの… 犯罪者の数はものすごく多いのだが、犯罪内容がひどすぎた。
やれ公爵家の庭に生えていた草をむしったから犯罪奴隷にしたとか、公爵家の馬車の前を横切ったから犯罪奴隷にしたとか… 子供でももっとまともな物を書くぞ?
しかし、こうも容易く犯罪奴隷を量産していたとは… ある意味これは証拠として使えそうなので押収する事にする。ヤバイ… これは1人でやる仕事じゃない、誰か応援を呼ばなければ。
こうして、ミート公爵家の捕縛は滞りなく終了したのだった。
─ミートの町、大広場─
「てめぇ! よくものうのうと生きていられるな! これでも食らいやがれ!」
「ぐわぁ! 痛ぇな、それに臭い!?」
大広場に集まった住人や、迷宮を攻略しに来ていた冒険者… その人達にギルドマスター達の所業を大きな声で伝えた所、被害に遭った者の身内や仲間などが声を張り上げ、近くの商店から安価で… それももう食べられないレベルで傷んでいるジャガイモを購入してまで投げつけている。
所謂ジャガイモパーティが開催されていた。ミートの町はとても良く整備されていたので、広場には石ころ一つ落ちていないので、ジャガイモをぶつけるに至ったのでしょう。ですが…
「物を投げるのは自重してください、それに食べ物を投げるのも良くありません。よく考えてください? この散らばったイモを掃除するのは誰ですか? もちろん投げた人がやるんですよ? こんなことで無駄な時間を取られるのは嫌じゃないですか?」
「む、むむ… 確かに」
ふぅ、どうやら落ち着いてくれたようですね。
しかし、確かに被害者の身内の方であれば、自身の手で制裁を加えないと気が済まないというのも理解できます。
「さて、ギルドとしては今後どのように考えていますか?」
一緒に来ていた受付嬢さんに声をかけてみます。
「ギルドとして… ですか。確かにギルドの上層部が行った事ですので、ギルドとしても大々的に断罪と行きたい所なのですが、現状ではやはりギルド本部へ問い合わせてからでないと何とも言えません。勝手に処罰すると、私達まで罪に問われてしまいますから」
「そう…ですよね。組織というのはこういった場合足枷が多くて困りますね」
とりあえずこの場では保留という事にして、ギルドマスター達はしばらくの間晒し者にしておきましょうか。
好きに使ってくれと言われて配備された騎士様達にはこの者達を見張ってもらい、怒りに任せて住人たちに殺されてしまわないようこの場をお任せしましょう。
「ではミルフィ、私達は少し休憩と行きましょう。少しお話もありますし」
「お話… それはお帰りになるという話ですか?」
「それも確かにありますね、でも、ミルフィと2人でゆっくりお話がしたかった… という気持ちの方が大きいですよ?」
「そ、そうですか」
とりあえず先日泊った宿に行き、同じように2人部屋を借りてベッドの上に座り込む。
「とりあえず、突然でしたが帰還の目途が立ってしまいました。個人的にはミルフィをしっかりと仕込んでいきたいと思っていたので正直言って残念です」
「私もです。もっとお姉様と一緒に居たいと思っていました… いつかは帰ってしまうというのは分かっていましたが、こんなに突然だとは思いませんでした」
「まぁ突然といいますが、30日も猶予があるなら良い方だと思いますよ? 突然今すぐ… とかじゃなくて安堵もしています」




