その133
誤字報告いつもありがとうございます。
朝です!
クックック… 右腕が疼くぜ!
ふぅ、まさか私がこのようなセリフを言う時が来るなんて思いもしませんでした。
そうなのです、今私の右側にはミルフィが寝ています! 私の右腕を枕にして!
これはもう疼くという段階を通り越して完全に痺れていますね… 全然感覚がありません、更に言えば感覚が無いのに凍っているのではないかというくらい冷たくなっている気がします。
ともかく、とりあえず現状から脱出しましょうか。ミルフィの体温を感じながらダラダラするのも悪くは無いんですが、冷たくなっている右腕が心配です。
静かにそーっと腕を抜き取り、ベッドから這い出ます。腕枕を終了させた事によって血流が復活し、じわじわと感覚が戻ってくるこの感じ… ああ、段々腕の痺れがビリビリと来てますよ! この痺れた腕をさすってみると…
「はぅっ!」
当然ビリビリくるんですよね… 分かっててやりました。
さて、今はちょうど夜が明ける頃合いで薄暗く、普段からゆっくり寝ているミルフィではとても起きられる時間ではありません。恐らくあと2時間は軽く眠り続ける事でしょう…
それでも一応ミルフィを起こしてしまわないように音を立てずに部屋を出ます。その勢いで食堂に顔を出してみますが、やはり代官家の朝はそれほど早い物ではないようで、朝食の支度は済んでいないようでした。
「そうなれば、久しぶりに外で食べてきましょうか。前回泊まった高級宿ならこのくらいの時間でも食事はとれていましたよね、泊り客ではありませんが聞くだけ聞いてみましょうか」
ガナシュ代官のお屋敷の朝は非常に静かなもので、今確認した食堂くらいでしか物音がしません。玄関に着いても誰もいないため、そのままこっそりと外に出てしまいましょう。
久しぶりに感じるビターの街並みを眺めながら、以前泊まった宿へと顔を出す。
「おはようございます、この宿は食事だけでも良いのでしたか?」
「おはようござ… アリシア様? お久しぶりでございます!」
正直私は覚えていませんが、私の事を見知っている方がいらしたようです。この様子なら食事はもらえそうですね。
「朝食を頂きたいのですが、宿泊客じゃなくてもいいですか?」
「もちろん構いません! こちらへどうぞ!」
食堂に案内してもらい、席に着きます。朝が早いせいか他のお客様もいらっしゃらないようで気兼ねなく食べる事が出来ますね。
食事代として小銀貨2枚を支払い、パンに野菜スープ、お肉とお野菜の炒め物を食べます。
「さて、今日は近隣の森に入って運動しようと思っていましたが… ちょっと予定を変えて飛行魔法の訓練がてら、北極の地に行ってみましょうか。いい加減ハクの事を放置しすぎだという自覚はあるので、顔を見てきましょうか」
ボソっと呟いたつもりでしたが、お仕事をしていた女中さんがビクリと反応しています。
「アリシア様… ハクというのはあの巨大なドラゴンの事ですよね? そういえばどちらにいらっしゃるんですか?」
「あら、聞こえていましたか? ハクはホワイトドラゴンなので、寒い地域に潜んでいるはずですよ」
「寒い地域ですか… それだとかなり遠方になるのではないですか?」
「そうですね… 恐らく氷に閉ざされて、生き物が寄り付かないような場所にいるとは思うのですが、正直どこにいるのかは分かっていません」
「そうですか… 私は実際に見ましたが、震えてしまうほど神々しいお姿で恐怖を感じてしまいました」
「大丈夫ですよ、ハクは呼ばない限り人里に来ることは無いですから。 多分」
最後にボソっと付け加えた『多分』という言葉に反応していたようですが、どうやら聞き流されたようですね。この女中さん… スルー技術は高いと見て良いでしょう。
朝食を終え宿を出ます。このまま町を出て最高速で飛んで行っても良いのですが、一応代官邸の侍女に出かける事を伝えておきましょうか。黙って留守にするのも問題でしょうからね…
「さて、運動も兼ねていますから全力で行きますよ!」
全く必要無いけれど全力で走って助走をつけ、その勢いを利用してジャーンプ!
身体強化もかけているので驚くほどの勢いで高度を上げていき、滞空している間に飛行魔法を展開。持ち前の魔力を解放して北に向かって急加速です!
自身を守るために張っている風除けの結界の端々から白い物がチラチラと見えているので、恐らく音速に近い速度が出ているのではないかと思います… もうこうなってしまうと地上の景色を見るなんて余裕はありませんね、うっかり鳥に接触してしまわないようにもっと高度を上げましょう。
「ちょっと息苦しいですね、高度を上げすぎましたか…」
雲に届きそうな高度を取っていましたが、さすがに無理があったようで苦しくなってきました。自重しましょう。
少しだけ速度を落とし、地上を見る余裕を持ちながら飛行を続けていきます。
気が付くと地上の景観が変わってきましたね、緑が減って来て茶色の大地が見えていますし、気温も随分と下がってきているようです。
結界の内部はいつものように温度調整をしていますが、さすがにこれだけ顕著に気温の変化があれば気づきます。
前方に景色はすでに白一色になり、天気もコロコロと変わっていきます。
「そろそろ探知魔法を使ってみましょうか。ハクは私の探知魔法に気づくはずですから、もしかしたらハクの方から来てくれるかもしれません」
とりあえず前方に向けて探知魔法を発射します… ふむ、結構魔物らしき魔力反応がありますね。こんな寒い地域だというのにご苦労様ですね。
しかし、ハクらしき魔力反応は… うん?
反応のあった魔物らしきものがこちらに移動していますね、さすがにこのような地域に暮らせるだけの魔物だと探知魔法には反応するという事ですか。
確かに私も探知をされたことがありますが、全身を撫でられるかのようなちょっと不快な感じを受けるんですよね。そして探知魔法が放たれた方角も分かってしまうという。
残念ながら現状は天気が崩れているため、魔物が来ていたとしても目視する事は難しいですね… 魔力反応を頼りにするしかありませんが、上空にいる限り危険は少ないと思います。
探知魔法を受けて分かる事は方角だけで、高度とかは分かりませんでしたからね。少なくとも私にはそう感じました…
とりあえず地上を監視しながら北上を続けましょうか。




