その71
誤字報告いつもありがとうございます。
─迷宮都市ボンボン、高級宿。SIDE:カラメル夫人─
「お伝えします、アリシア様が戻られました。浴場へ直行されたようですが…」
「そう、では時間の変更は無いとみて良いでしょうね。お茶請けの準備は大丈夫かしら?」
「はい、この町の菓子職人に依頼してクッキーなどを取り寄せています。試食を致しましたが、十分に美味しい物でございました」
「そう、では予定通りにお迎えするので準備だけは滞りの無いように頼むわ」
「承知しました」
アリシア様の方から指定してきた時間なので、遅れるという事はないだろうと思っていました。この時間に浴場へ行かれたというならば、8時前には夕食も済ませて準備をしてくれるでしょう。
ただ、夕食の直後になってしまうので、お茶請けは軽いものにしなければいけません。いくらアリシア様が小柄でスリムな方だとしても、やはり女性として夜間のお菓子の飲食には気を使われるでしょう。
「タルト家が明日中に到着する事もお伝えしなければいけませんしね、悪印象を持たれたまま帰るわけにもいきませんし、なんとかレクタングル辺境伯家のイメージを回復させないといけません。それに…」
創造神様の使徒なる者がどれほどの強者であるのか、アリシア様に対する興味は尽きる事はありません。
私は領都にいたため、実際に戦闘を見たわけではないですし、真っ白なドラゴンまで使役していたと聞きます。さすがにドラゴンが相手となれば、私も勝てる気はしないですが… その主たるアリシア様、どのように従えたのかも聞いておきたい所ですね。
先に夕食を取っておきますか、さすがに50目前の私は寝る前にクッキーを食べるという暴挙をする訳にはいきませんからね。
「アリシア様、本日はニンジン、タマネギ、ゴボウを使ったかき揚げでございます。どうか品評してください」
「ありがとうございます。見た感じではとても美味しそうですよ、それではいただきます」
お風呂を済ませ、食堂に来ると… 待ち構えていたチロルさんに個室へと案内される。そして昨日の宣言通り、料理長さんはお野菜のかき揚げを作ってくれました。
連日揚げ物ばかりだと、胃が重くなりそうですが… そこは若さでカバーするという事でいいでしょう!
まずはお塩を軽く振って… いきますよ? パクっ!
「ん、もぐもぐ」
危ない危ない、食べながらお話しするところでした。さすがにそれはマナーが悪いですよね、踏みとどまれて良かったのですよ。 ごっくん
「とても美味しいですよ! 素晴らしいです」
「本当ですか? それは良かったです。私も異国の料理を教えてもらえ、新たな味を知る事が出来て非常に光栄に思います」
「かき揚げであれば、油さえどうにかできれば材料の単価は安く済みますし、量産は可能ですよね」
「そうですね、現状ではアリシア様にお譲りしてもらってますが、トウキビの仕入れが安定すればかなり安く提供する事が出来ると思います」
「その辺は考えています。トウキビの価格がどれくらいになるかはわかりませんが、その内流通するようになると思いますので、少しお待ちくださいね」
「はい、楽しみにしています」
料理長さんが下がっていきました。さすがに食事を見られながらするのはアレですからね、料理長さんもそこら辺の考慮をしてくれたのでしょう。
しかしこのかき揚げ、美味しいですよ。お塩の次は料理長さんの特製ソースをつけてみましょうか、テリヤキソースのように少し甘いのですけど、多分合うと思うのですよ。
本日も満足のいく夕食でした。
しかしこうなってくると、かき揚げの具材になるお野菜のバリエーションを増やしたい所ですね。ですが、いくら記憶を辿ってみても思い出せないのです。ニンジンにタマネギ、ゴボウ… 他に使われてたお野菜とは何だったのか、うーん… 枝豆くらいしか思い出せませんね。これは今後の課題と致しましょうか。
さて、それでは部屋に一度戻り、食休みをしながらお茶会の準備をしましょうか。
収納からワンピーススカートを取り出してチェック、収納内に入れてあったので虫に齧られる… なんて事はありませんが、一応調べておきませんとね。
「この服を着るのも… いつぞやの晩餐会以来ですね。ああ、これを見るとタルト家のストロー様を思い出してしまいますね。まぁ処刑されるのとの事ですから、気にする事は無いんですけど」
ストロー様に関しては、貴族としてあるまじき行為の数々…
タルト家は伯爵家との事でしたが、まさかレクタングル辺境伯家についている代官の娘に対しての無礼、あれだけやれば当然辺境伯家から問題提起されるでしょうに。
まぁ… 他にも毒牙にかかった哀れな令嬢がいるとの事なので、処刑はやむなしと言った所でしょうか。 タルト家を継いでいたわけでもないのにタルト家の名を出し、貴族としての尊厳を壊すような行いをしていたので自業自得としか言えません。
まぁ何より、ここは私にとっての異世界でありショコラ王国であって、この国の王家が決めたことに対して何かを言うには筋を通さなければいけませんよね。しかし、ストロー様に対して擁護が出来るような筋道はありません。擁護なんてしたくもありませんしね…
着替えを済ませて準備は完了です。懐中時計を見ると、あと10分ほどで8時になりますね… 少し早いですけど、カラメル様のお部屋に向かうとしますか。
日本であれば、5分前や10分前の行動は当たり前なのですが、私の知る貴族社会では逆に5分、10分遅れる方が良いとされています。理由として挙げられるのは、まぁ私のいた世界での移動は馬車がメインなので、到着時刻が不正確なのは当たり前で、パーティだったりすると大勢の人が集まるので、全員が揃うのは予定時刻の30分後とかは普通なのです。
なんというか… 『主役は遅れてやってくる』というのを地でやっている気がしますよね。
そうして部屋から出たものの、どの部屋に泊まっているかなんて聞いていませんでした。ここはチロルさんを頼る事にしましょうか…
階段を降りて受付に顔を出し、チロルさんを呼んでみます。
「もし、チロルさんはおりませんか?」
「はーい、ただいま行きます」
奥の方からパタパタと足音を立てながらチロルさんがやってきます。本当に朝から晩までお疲れ様ですよ…
「カラメル様とお茶の約束をしているのですが部屋が分かりません、取次をお願いしてもよろしいですか?」
「あ、承知しました。伺ってきますので少しお待ちください」
チロルさんが駆け出して階段を昇っていきます、同じ建物の中ですのでそう時間がかかる事は無いでしょう。
それではお迎えが来るまで待つとしますか。




