その69
誤字報告いつもありがとうございます。
「なぁ、アリシアと言ったっけ。アンタは貴族なんだろ? なんでこんな所で迷宮に入ってたりするんだよ」
「なんで… ですか。それはですね、この迷宮にコカトリスがいるからです! あのお肉はとても美味しいのですよ、特に40階層以降で出現するブラックコカトリス… アレはお肉の塊1個で金貨2枚で売れます」
「肉1個で金貨2枚… すげぇなそれ! そのブラックコカトリスってのはどれくらい強いんだ?」
「強さですか、Aランクらしいギルドのサブマスターが勝てないくらいですかね。まぁ1対1だったらの話ですけど」
「Aランクが勝てない魔物かよ… そんなのどうやって倒すんだよ?」
「え? こんな感じですかね」
魔力を集中し、200メートルほど離れた所にいる3匹のゴブリン目がけてレーザービームを放ちます。眩しいほどの光を放ちながら一瞬でゴブリンに到達した光線は、すぐに光を失い消えていった。
バタバタバタッ
直後、ゴブリン達は倒れて迷宮に吸収されていった。
「な、なんだ今のは?」
「今の魔法は私にとっての切り札であり、最強の魔法…『レーザービーム』です。この魔法で倒せなかった魔物は今までいませんでしたね」
「「「すげぇぇぇぇ!」」」
おやおや、3人が見事なまでにハモりました。
「あんな感じで、この魔法であればブラックコカトリスが群れていたとしても倒せるのです。剣次第では接近戦でもイケると思いますよ? 精進してくださいね」
「剣次第ってのはどういう事だ?」
「貴方達に渡した木剣ではダメージを与える事は出来ないでしょう。最低でもブラックコカトリスの防御力を超える剣でないと… と、いう事です。どんなに回避行動が上手であっても斬れないのでは勝ちようがありませんからね、木剣でいくら殴ろうが勝てないと思います」
「そ、そうか… やっぱり良い武器は必要なんだな」
「そうですね、でも良い武器となると驚くような金額がかかります。それに、いくら良い武器が手に入ったとしても、それを扱える腕前が無いと意味もありません。そういった意味でも、今貴方達がやらなくてはいけない事、それは技術を身に着ける事です。良いですね? 今やっていることは決して無駄ではないのです、じっくりと腰を据えて取り組んでくださいよ?」
「わかった」
アル君を含め、全員が頷いています。
若者特有の『あれ?これイケるんじゃね?』という思想が生まれて、ついつい奥まで入り込んで負けて命を落とす… この子達はそんな風になってほしくありませんからね、向上心があるのは良い事ですが、地味な訓練を継続できるような、そんな精神力を強く持って欲しいと思います。
私は18歳で、見た目年齢はもっと低く見られますが… それでも精神年齢は結構な物なのです。さすがに私が『イケるんじゃね?』なんて無鉄砲な行動理論で動く事はあり得ませんので心配いりません。ちゃんと勝てる算段があるからこそ突撃するのです、決して若者特有のアレが発動しているわけではありませんよ?
「さぁ、午後の部… 行きますよ!」
「「「おう!」」」
迷宮の3階層を徘徊し、索敵をする。見つけたら近くにある狭い通路に誘導してボコる… 順調にそれを繰り返して討伐数を増やしていく4人組、さすがに1日ではゴブリンパーティと向き合って戦えるほど強くはなりません。安全マージンさえ確保できるのであれば、後はじっくりでいいのです。現状ですでに今まで以上に稼いでいるのだから…
午後3時
「さて、少し早いですが今日はこれで終了としましょう。目標である40匹には届きませんでしたが、普通に夕方まで狩っていれば達成できたのではないかと思います」
「そうだな、午後からも順調だったからイケてたかもしれないな」
「今日の所はギルドで換金し、戻って体を休めてください。残念ながら明日は用事があるので付き添えません、補給用の水分や昼食を自分達で用意しなければいけませんが… その辺は大丈夫ですか?」
「ああ…そうか、いや、何とかする」
「明日の夕方に、また炊き出しに行きますのでお腹を空かせて待っていてくださいね」
「マジか! わかった!」
明日中に最低でも水袋は用意しないといけませんね、スラムになっている地区にも井戸はあるようなので、水の補給は可能です。入れ物が無いだけで…
4人組と私、いそいそと移動を開始してギルドに向かいました。アル君パーティは、今日の収穫であるゴブリンの魔石34個を買い取ってもらい別れました。
「さて、私はブラックコカトリスのお肉を納品したいのですけど、何個引き取ってもらえますか?」
「サブマスに話を通してきますので少しお待ちください!」
受付嬢さんはパタパタと急ぎ足でギルド内部へと消えていきました、今日も笑顔が素敵でしたね… 久々の黒コカ肉ですのでうれしいのでしょう。
待つこと2~3分でしょうか、テネシーさんが現れました。別に普通に買い取ってくれればいいんですよ? わざわざサブマスターが出てくることも無いと思うのですが。
「アリシアさん、別室に来てもらえるかな? そこで打合せしましょう」
「はぁ…」
打ち合わせと来ましたか… また迷宮に関してのトンデモ理論を聞かされるのでしょうか… しかしまぁ、私もお伝えしたい案はありますから良しとしましょうか。
「さてさて、ブラックコカトリスなんだけど… 前回の販売が思いの外上手くいってね、入庫次第即座に送れ! なんていう商会が出たほどだったのよ。それで… ギルドとしてはあるだけ買い取りたい… と、言いたい所なんだけど、在庫の程は?」
「あるだけと言われましても、千個以上ありますけど?」
「うっ、やっぱり想定外の答えを出してくるね。それじゃあ単価は金貨2枚、それでブラックコカトリスの肉を50個出してもらえるかな? 50個なら肉が劣化する前に全部売り捌けるから」
「わかりました。50個程度であれば1日で狩れる量ですからね、問題ありません」
「それでね? 迷宮の話なんだけど。まだちょっと納得のいく結果が出てないのよ、何かアリシアさんの方から要望みたいなのがあれば聞きたいのだけど」
あらあら、何やらネタ切れのご様子ですね。それでしたら先日考えていたお野菜収穫場のお話でもしましょうか。
「と、まぁこんな感じで、中央に通路を置いて、両サイドに狩場を設置。出入り口の前に職員を立たせて管理すればなんとか行けるんじゃないかと」
前提条件として、初心者限定というのをギルドから発布してもらい、管理してもらう。そのような案を提示してみました。




