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Heinvia Story  作者: Frey
美しき問題児
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笑顔に繋げるロジック

「人の話に割って入るとは不躾であるな。貴殿は?」


「失礼した。物騒なワードが聞こえたもんでね。今回のレイドクエストで縁あってルシエールとパーティーを組ませてもらった残り1人の受注者のフィルだ。」


「貴殿がここ数日、破竹の勢いでクエストを達成しているフィル殿か。

そなたのようなハンターがこの街にいるのは心強い、して、私の話を遮った理由とは?」


「人を一人街から追放しようとしているんだ、いくつか質問させてもらってもいいだろう?」


「よかろう、答えられる範囲でならだがな」


「ではまず、今回の依頼で俺とルシエールは山道の奥でウェアガウルを討伐した。

討伐難易度がかなり高いモンスターだ。ルシエールがおらず、仮にハンター達が普通に受注していたとしたら人的被害は今回街が襲撃を受けた時より高くなっていたがそれはどのようにお考えで?」


「結果論だな。それだけの脅威のモンスターに対して上位ジョブのハンターが2人で対応できたのは重ねて幸運だったと言える。あえて質問に答えるとするならば、だとしても、彼我の戦力差を計算できず被害を被るハンターを育成したとして、それもレギオンに問題があるとなる。発見報告だけ行い、より強いハンターに討伐を依頼することは可能だ。」


(まず1つ…)


「なるほど、では次の質問。今回のポポルス山道でのモンスター異常発生のクエスト発行元は行政区会だったが、独自に周辺地域の視察でもしてるのか?」


「ご明察だ。我々行政区は特使を別の街に派遣する機会も多い。故に、隠密に向いたハンターを雇い周辺地域のモンスターの情報を得ている。そのハンターから、モンスターの異常発生の報告を受けたため行政区会発行のクエストを依頼した次第だ。」


「そのお抱えのハンターさんたちから、異常発生したモンスターの中に新種の、あるいは未発見のモンスターを発見した報告はあったかい?」


「いや、なかった。ウェアガウルのことを言っているのであれば、周辺地域調査に特化したハンターであるため個々の戦闘能力は低い、リスク回避のため街道から外れた森の奥までは調査の対象外としている。その点はすまなかった。」


(2つめ…うまいこと隠しているつもりだろうが考えが甘い)


「なるほどよく分かった。このレイドクエストと襲撃事件の真相がな。

エドワード区長、異常発生したモンスターの中に『マルチウッドマン』という未発見のモンスターの報告はなかったんだな?」


「マルチウッドマンはポポルス山道に通常生息するモンスターでは?」


「ダウトだ。マルチウッドマンが生息する山林に雨が降ると、特殊な栄養素が川の水に混ざり、それが近海に流れ出すことで特殊なプランクトンが発生する。このプランクトンを餌としてるのがハーミットシャークだ。つまり、マルチウッドマンがいる山の近くの海には、必ずハーミットシャークが出現するんだ。山が海を育むって言葉を聞いたことないか?だが、マルトゥスの港の近海ではハーミットシャークが陸揚げされたこともなければ目撃例すらないんだよ。」


「…失礼した。調査員の報告漏れが原因だろう。当該職員は今回の件の責を取らせるため免職としておく。」


「まぁ、そうなるよな。俺だけでも100体近く倒しているから報告漏れは無理があるが言及しても仕方ない。なら、新しく出現したとされるマルチウッドマンはどのように出現したのか、そこに注目だ。」


ここからは、追い込みの時間とさせてもらう。

ギャラリーを多くしようとしたのは仇になったな区長さん。


「出現方法を特定するために、街の襲撃に関しての不可思議な点を考察する必要がある。

なぜ西門の先で異常発生したモンスターたちが南門から大挙して襲ってきた?

中央通りの中枢にあたるレギオン支部、港、南西居住区には主要な建物に少なからず損壊が出ているにも関わらず、なぜ行政区の主要施設の損壊報告が上がってきていない?

まるで、モンスターたちが指定されたルート、狙うべき建物を選んでいるようじゃないか?」


「…何が言いたい?」


「モンスターの異常発生と襲撃は仕組まれたものじゃないかってことさ。発生したモンスターたちが召喚あるいはテイムされたものなら、いないはずのマルチウッドマンが突然出現した説明も付く。」


「だとしても、誰が?何のために?」


「状況から考えれば分かるだろ?こんなことしてメリットが出るのはあんたら行政区会くらいなんだよエドワード区長。街を守れなかったレギオンを糾弾して支部長と幹部役員を総とっかえ、人員補充のために行政区から職員を派遣して天下り先を確保し、レギオンを事実上支配することにより行政の思いのまま動く実力組織が出来上がるって寸法だ。

加えて、自分たちがレギオンをコントロールする際に管理が難しいと考えたルシエールをレイドクエストに見せかけて殺害、失敗しても今回みたいに追放するつもりだった。」


「くだらん、世迷言を。そんな証拠どこにあるというのだ。」


「知らんね。あいにくこの街に来てまだ3日目の俺がそこまで調べる義理はない。

だからこうやって好き勝手言いやがるあんたの発言の穴を指摘してやってるんじゃないか。

査問官を呼んだんだろ?あとはお偉いさん同士の話し合いと調査に任せるよ。」


「…そこまで言うのだ、査問が終わった暁には、貴殿もこの街にはいられないと思え。」


「勝手にしろよ。どのみち近いうちに別の街に旅立つ予定だったんだ。はなから執着なんてしてない。それにな…」


最後の爆弾を放り投げる。

そろそろこの討論にも幕を下ろすとしよう。


「あんた、“上位ジョブのハンターが2人で対応できたのは幸運だった”って言ったよな?

ちょっと間違いがあるが、俺がモンク以外のジョブを持ってるってなんで知ってるんだ?

俺がパラディンのジョブを設定したのは、ウェアガウル戦が初めてだ。本来ならルシエールしか絶対に知らない情報なんだよ。あの場に俺ら以外の誰かがいない限りは…な。」


「貴様…でたらめを言うのも大概に」


「だから別に証拠があるわけじゃねぇって、後はお偉いさんに任せるって言ってるじゃないか。俺の見解は以上で終わりだ。ルシエール、行こうぜ」


「え、ええ」


戸惑いながらもルシエールは付いてきて、俺たちはレギオンを後にした。


「どうした? 豆鉄砲を食らったような顔して俺を見るなよ」


「美人に向かってその言い方は失礼じゃない? …すごいわねあなた。」


「自分で言うなよ。さっきの話か、別に対した事じゃない。腑に落ちなかった点がうまいこと繋がっただけだ。十中八九当たってる自信はあるがな。」


「小さな違和感に気が付くことができるっていうのは1つの才能よ。もちろんそれをもとに真相に近づく理解力もね。」


「エドワード区長に対抗したのは、半分は君への恩返しだ。ウェアガウルは今の俺の攻撃力じゃ倒すことが出来なかった。至近距離では無事では済まないレベルの魔法を危険を顧みずに撃ってくれた。しかも巻き込まれないように気を使ってくれた上でな」 


「結局あなたが肩代わりしてくれたじゃない。恩なら返してもらってるわ」


「もう半分は、純粋に許せなかった。街一つ巻き込んだ汚職事件を起こすほどに歪んでいた行政区もハンター間に流れる間違った噂を正そうとせず現状に甘えるだけのレギオンの連中も、君を取り回しの悪い駒にしか見ていなかった。不当な評価を付けられて、ボロボロになってでもこの街で一番クエストをこなして貢献してたっていうのにさ。」


「私はただ、そうゆう戦い方しか出来なかっただけで…」


「森でも言ったが、戦い方なんて人それぞれで、君は自分の力を最大限活用できるように戦っていた。仮にそれが自傷を伴うものだったとしても、だ。俺はパラディンのジョブも習得しているから、そういう自己犠牲の精神は嫌いじゃないぜ、”散華の魔女”さん。」


「…あなたが言うのなら、その呼び方も悪くないわね。」


普段は妖艶な魅力を纏う彼女だが、少し涙ぐみながら見せた満開の笑顔は

今まで俺が見た女性の笑顔の中で最も美しいものだった。


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