レイドクエスト
【ポポルス山道】
マルトゥスの西門から隣の町サンクトスまで抜ける際に通るエリアだ。
もともと木が生い茂っていた場所を、馬車が通れるくらいの道幅分だけ整備しただけなので、陽の届きにくい森林地帯が長く続く。
「さて、大量発生したモンスターとやらをさくさく狩っていくとするか。」
街道から外れて奥へ歩み進めると最初のモンスターが飛び出した。
「ブランチワームか、相変わらず気持ち悪いな!」
枝葉に擬態し襲い掛かってくるブランチワームに裏拳をかましつつ悪態をつく
レベルは上がったが俺の設定ジョブはモンクのままだ。コスパもいいし。
異常発生しているとだけあって、1度戦闘になると相当数倒すまで出現した。
ただ、今のレベルなら集団で襲われても余裕で倒すことができることが確認できたため
継続して狩猟を行う。危なそうなら当然逃げるつもりだった。
ゲームの時代とは適正レベル帯の概念も異なるかもしれないと考え、それを確認するためにも受けたレイドクエストだったが、その心配は杞憂に終わりそうだ。
「それにしても、各種モンスターの異常発生とは書いてあったがいろんなモンスターがいるな。ブランチワームにフロックシープ、マルチウッドマンまでよりどりみどりだな。」
そのマルチウッドマンに掌底を叩き込もうとした瞬間、足元で強烈な魔力反応が起こった。
攻撃のキャンセルはできたが勢いが殺せないので回避が取れない。
俺はとっさに防御強化の体術スキル「金剛身」を発動する。
「いってぇー、金剛身じゃ魔法攻撃は大して軽減できねーんだよ。」
体の埃をはらいながらぼやいていると、土煙の中から彼女が現れた。
「ごめんなさい、木の陰であなたが向かってきてるのが見えなかったから、普通に攻撃しちゃったわ。」
「散華の魔女さんか。攻撃動作中に射程範囲内に入った俺にも責任がある。見ての通り無事だから気にしないでくれ。」
「随分丈夫なのね。ちょっと自分の魔法に自信がなくなっちゃうくらい。」
「多分生身で食らったら木っ端微塵だから安心してくれ。それにしても魔術師なのに随分と至近距離で戦うんだな。」
「一番威力が高い距離なのよ。あなたも巻き込まれたくなかったら私に近寄らないほうがいいわ、それじゃあね。」
彼女はそう言って森の奥へと消えていった。
「“一番威力が高い距離”ねぇ…無茶な戦い方しやがる。」
HPを回復させるためにその場に座り込みながら、俺はそう呟いた。
しばらく休憩した後、再びモンスターを狩り始める。
街道から外れた森の奥に進むにつれて、モンスターの動きも活発になってきた。
「これはもしや、森のボスでもいるのか?」
半ば外れてほしい想像を立てながら奥に進んでいると、仰々しい雄たけびが聞こえた。
「ギュァァアア!!」
「当たりかよ。でもまあ、レイドのポイントも高そうだし経験値もうまそうだ。行ってみるか。」
雄たけびの聞こえた方向へ向かう。
多少開けたスペースに出ると、クマ型の大型モンスター「ウェアガウル」と散華の魔女が対峙しているところだった。
(ウェアガウルか…勝てるかどうか怪しいレベルだが、こりゃあ逃げる選択肢はないよな)
「手助けはいるかい?。」
「私に近寄らないほうが良いって言った気がするのだけど?」
「魔術師一人には厳しい相手だ、勝手だが加勢させてもらうぜ!」
ウェアガウルへ肉薄する。
数発ボディーブローを入れるが、それほど効いた様子はない。
「数発入れたら距離を取るを繰り返すから、タイミングで魔法を撃ってくれ。」
「懲りない人ね」
そう言いながらも、彼女はタイミングを合わせながら攻撃してくれた。
ただ、毛皮の下に強靭な筋肉の鎧を纏うウェアガウルに対して、ヒット&アウェイの戦法は決め手に欠ける。
クマのすばやさと攻撃力をもつウェアガウルの反撃は鋭く、致命傷はもらわないまでも徐々に俺と彼女にダメージを与えていた。
「ジリ貧だな。仕方ない…魔女さん!」
「ルシエールよ。その散華の魔女って呼び名は嫌いなの。」
「失礼、ルシエール、俺のパーティーに入ってくれないか?」
「突然何を言い出すの?頭がおかしくなったのかしら?」
「おかしくてもなんでもかまわないから、今だけ加入してくれ、頼む。」
「もう、分かったわ、申請を送って、早く!」
ルシエールへパーティー申請を送る。
『ルシエールがパーティーに加入しました』
身体が軽くなるのを感じる。
アジテーターの効果、パーティーリーダー状態の時、全能力50%上昇の効果が発動した。
ルシエールを見ると、彼女も能力向上の効果に驚いているようだ。
(これならいけるか?)
ウェアガウルが右腕を振り下ろした隙を狙って、懐に最大限のソバットを叩き込む。
ウェアガウルが数メートル後方へ後ずさる。しかし、瞳の光はまだ輝いたままこちらを睨みつけていた。
(これでもだめか、なら!)
俺は装備を変更して右手に大楯を装着し、ジョブチェンジを行う。
3日間のレベリング中に一気に開放したジョブ、「パラディン」へと
「あなた、モンクがメインジョブじゃなかったの!?」
「貧乏性なもんでね、お金のかからないモンクで戦っていただけさ。
とにかく、あいつのヘイトを稼ぐから、最大火力の魔法を頼む。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ…」
後ろ手にルシエールの声が聞こえたが、ウェアガウルが激昂状態に入ってしまったので固まっているのは危ない。
パラディンの特徴はVITとHPに掛かる大幅な上昇補正。
そして敵視を自分に向ける挑発と攻撃を受け止める圧倒的な防御力とスキル
故に、
「ガキィィイン!!」
太い腕の横薙ぎ攻撃を大楯で受け止める。
鋭い爪と金属の盾がぶつかり合う音が木霊する。
【フォートレス】
移動速度が大幅に落ちる代わりに防御力と盾受け能力が大幅に上昇する
魔力を手に集中させながら、横からルシエールが飛び出してくる。
しっかりと大魔法を放つ準備を整えていようだ。いい魔術師だ。
「離れて!巻き添えを食らうわよ!」
ウェアガウルが大楯と鍔迫り合いをしていない方の手をルシエールの迎撃のために振り下ろす。
離れるわけにはいかないな。
「構うな!ぶちかましてやれ!」
【ファランクス】
自分以外のパーティーメンバーをターゲットとした攻撃に対してカバーリングを行った際の防御力が向上する
盾を持っていない方の手で、懐に潜り込んだルシエール目掛けて振り下ろされた剛腕を受け止める。
勝負ありだな。
ルシエールが魔法を放つ直前に、最後のスキルを使用する。
【ペインレスオーラ】
(これはちょっと、痛いじゃすまないかもなぁ…)
ルシエールが放った圧縮された魔力の本流が、俺たちを飲み込んだ。