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ANATAプロジェクト  作者: 耶麻April
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始まり(序章もしくはプロローグ)


相も変わらず、空には月が二つ浮かんでいる。

夜明けを知ろうにも右と左にある月がどの方向に沈んで日が昇るのかもわからない。

それでも少ない灯りで夜道が比較的明るく見えるのはきっと二つの蒼く輝く月のおかげなのだとは思う。


聞こえるのは足音だけだった。

砂利道を踏みしめる足音が三つ。

一つが軍人も顔負けの規律正しい歩行で先頭を歩く村長の娘、その後を追いかけて並んで歩く自分と見張り番、もとい村長の息子である青年の足音だ。




あの村長と娘の感動?ストーリーの後、納屋から後ろ手で縛り上げられたまま、足だけ歩けるように開放された。

そのまま犬の散歩のように、もしくは死刑囚の行進のように、青年に紐を持たれたまま、村を出てきたのが数十分前。



村長が村の人に話を通したからだろうか、村の中を通るも再び蹴られたりすることもなく、遠巻きに疑心暗鬼の瞳で自身を睨みつける視線以外は何もなかった。

そこから、ひたすら真っすぐ続く道を交わす言葉もなく、また腕を解かれることもなく歩き続けている。



これでどうやって赤血球型の魔物を倒せというのか、自分はキックボクシングのプロでもなければ、下手すると日頃の運動不足も相まって蹴り上げた途端に足をつる可能性もある。

そもそも液体状に近そうなあの魔物相手に物理的な攻撃が効くのか、むしろそこらに灯油を撒いて放火魔よろしく火を放った方が勝てるんじゃないかとさえ思ってくる。




「姉さん、どこまでいくんだ?

もう村から随分と離れたし、ここらで魔物が来るのを待った方がいいんじゃないか?」



その思考を打ち切るよう見張りの青年が村長の娘に声をかける。

向こうが年上なのかとどうでもいい考えがよぎった。

村長の娘は存外丸みを帯びた幼い顔をしているので妹かと思っていたのだ。

もしくはこの弟である青年の方が老けている可能性もあるが、確かに、この青年の言う通り随分遠くまで歩いている気がする。

村に被害が及ばないようにと考えても十分過ぎる距離だ。




しかし村長の娘は立ち止まることはなくひたすら歩き続けていく。

無言でついていくのかと目配せを青年に向けると、青年も同じ考えなのだろう、困ったような表情で見返すと紐を引っ張って、再び歩き出していく。



「あの…実際魔物が現れたら俺はどうやって戦えばいいんです?足ではさすがに無理かと思うんですけど…」




そのまま青年にだけ聞こえるような声音で言うと青年は自分のカバンを開け見知った短いナイフを取り出す。




「お前の得物をちゃんと預かってきてる。

魔物が現れればお前を先頭にして、ナイフでこの縄を切るからそのままそのナイフで戦えばいい。

使い慣れた得物の方が気が楽だろ?」




ありがたいというべきかどうかは置いといて素手ではないのはありがたい。

勿論使い慣れた記憶なんて精々、果物の皮を剥くか、料理で使ったかレベルでしかないので戦いに役立つとは到底思えないが。



「逃げるくらい弱腰なそいつにナイフなんて扱えると思えないけど…」



すると今まで沈黙を守って歩き続けていた村長の娘がちらりとこちらを仰ぎ見て小馬鹿にしたように鼻を鳴らして言う。


聞こえていたのか、と思いながらもその言葉に内心全面的に同意だった。

その内心を知ってか知らずか、次にはそのまま娘は立ち止まると、辺りを見渡して背負っていた武器である薙刀を手に持ち始める。



「さて、じゃあ、その犯人が有罪か無罪か証明してもらいましょうか」



そのまま青年と自身に向き直って、武器を一閃して突き付けてくる。

それに仰け反りそうになりながら後ずさった時だった。







それは本当に偶然だった。

理由を述べろと言われても何もない。

ただ、本当に、本能的な何か。

例えるなら生存本能らしき何か。

何となく嫌な気配がして振り向いた。





「…っ!」




視界一面に映るのは赤い何か。

それが何かと思うより先に襲い掛かる視界一面の赤に、次には青年を突き飛ばすかのように体当たりをして避けようと動いてしまう。

青年は予想外な自分の動きにとっさに受け身を取りながら、紐を引っ張ってこちらを抱きかかえるように道の脇に倒れこんだ。


紐が引っ張られて自然と青年の腕に抱き留められ、倒れこむ自身の視界が映したのは、先ほど自分がいた場所に覆いかぶさる、赤血球の魔物が変形していた姿だった。



「いつの間にっ!」


「…チッ、とろいんだからっ!」



青年と娘の声が被さるように耳に聞こえてくる。

青年はカバンからナイフを取り出すと、狼狽えてると思えない程、的確に腕を回して後ろ手に縛られている自分の紐を素早く切り離しにかかる。

肝心の自分はといえば、心臓の音が外まで聞こえるんじゃないかレベルの動悸に思うように身体が反応しなかった。

さっきはよく避けれたなとか纏まりのない思考が埋め尽くしていて腕が解けてもすぐには反応出来なかった。




「ほら、ナイフだ!無実なら倒せるだろっ!」




次には、青年は声を張りあげて力なく解けて手持無沙汰な手にナイフを押し付けてくる。

それと同時に抱えていた自分からズレるように身じろぎして背中に掛けていた弓矢を引き抜いてすぐさま臨戦態勢に転じる。

その姿にやっぱり、ここは自分の知っている世界ではないのだと思い知らされる。

自分の世界でそんなにすぐさま動けるのは、きっと、もっと軍事的な存在で、一般の存在が自然と動けるわけがないのだ。

スローモーションのようにその青年の姿が映し出され冷たく重い感触のナイフに視線を降ろす。




「次がくる!避けないと死ぬぞ!おい!」




矢をつがえた青年が声を上げて自分の後ろにいるであろう魔物に放つ。

風を切る小さな音と、例えるならミンチ肉を捏ねた時のような音が比較的近く聞こえ、その矢が魔物に命中したのだと分かった。



「あ…、ぅ…」



嗄れたような声しか出なかった。

それでも背中に感じる死の恐怖が力のない身体を後押しするかのように動かした。

地面に手をつけ、足と膝に力を込めて立ち上がって距離を取ろうと駆け出す。

もつれた足も、転けてしまった身体中の鈍い痛みも気にしてられなかった。

次にくる攻撃で死なないように赤血球の魔物を視界に入れようと振り向いて震えた片手でナイフを強く握りしめる。



赤血球は二匹いた。

そのうち一つは、先ほど矢が刺さり変形した身体から抜き取ろうと蠢いており、先にいる娘の方にも距離を一定に保ちながら一匹の赤血球が睨み合うような形で浮いている。



「姉さん!大丈夫!?」


「誰にモノ言ってるのよ!解いたなら、その犯人に気をつけなさいよ!」



再び矢筒から矢を引きぬいた青年は大声で心配そうに娘に声をかけている。

しかし心配の声から返ってきたのは自身に対する疑惑の声で、魔物にやられる心配はしてないようだ。



「…はぁ…、元から倒すべき存在なんだ…大丈夫、怖くない、怖くないんだ…」



自身を鼓舞するかのように声を漏らせば、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。

赤血球の動きはそんなに早くない。

例えるなら人間とナメクジの差くらいに動きは鈍いようだ。

勿論、距離があれば、の話だ。

近づけば、捕食しようと食虫植物のように包み込もうとしてくる。

弓矢の青年は遠くから攻撃も出来るし、娘の薙刀はリーチが長い。

あの二つの武器なら上手くヒットエンドランで攻撃していけばいつか倒せるだろう。

そこまで考えて自身の手に握られているナイフへ視線を向ける。




「いや…、これは、無理なんじゃ…」




リーチもなければ接近戦にも程がある。

それでも、思考を止めてとりあえず、突っ込もうとは思わなかった。

ノーシークの言葉を信じていいならばこれは【チュートリアル】なのだ。

初めの装備がナイフ一つで戦うチュートリアルなのであれば、必ず【弱点】と呼ばれるものは存在する。




ゲームにはどれほど強大な敵が出てきても、どんなに難しい方法でも勝つ為に必要な【弱点】が設定されている。

漫画やアニメと違って、完全無敵な存在はいない。




「魔物の弱点って分かりますか?」




次にはダメ元で青年に声をかけると青年は訝しげな表情をするも首を横に振る。





「いや、魔物のカクがどこにあるかは知らないな…」



「…カク?」





返ってきた返答は予想外のもので繰り返すことしかできない。

魔物の核とはなんだろうか。

心臓か何かなのだろうか。

それでも【弱点】らしきものはあるのだと分かった。

次は赤血球の魔物のどこにその【弱点】と思われる核があるかだ。





「魔物の心臓だ、それのことを核っていうだろ?」





考え込む自身を見て何を思ったのか、青年はもしかして言い間違えただろうかと言いたげに見つめてくる。





「あぁ…そうなんですね、俺、記憶ないんで…ありがとうございます」





戦っている最中に気を揉まれても困ると思い返事を返せば、赤血球の刺さっていた矢が煙を立てて溶けていく。



それを視界端にとらえながら、なぜ、変形でずらして矢を落とさずに溶かしたのだろうか。

もしかして、あの赤血球は液体に近しい固体。

クラゲと同じように軟骨状組織を備えた存在なのではないかと思い至る。




「それなら刺さるか…」




刺せるならば一番中心部分に、核がある可能性がある。

溶かすスピードもそんなに速くなさそうだ。

その核に思いきりナイフを刺せば恐らく倒せるだろう。

例え、この導きだした答えが間違いでも、もう考える時間はなかった。

次には、矢を溶かした赤血球がこちらに向かって突進してくる。




「くるぞ!」




青年の声がスタート合図の如く襲い来る赤血球の魔物。


その声に自分もつられるように、勇気を出して青年の前に立ち塞がり、ナイフを顔の前に構えて腰を低くする。


戦いのイロハなんて全く知るわけがない。

今のこの体勢も奥まで突き刺すために一番いい【かも】しれないだけで、安全かどうかも分からない。

机上の空論のような見解が正解だという確証もない。




それでも、これは【ゲーム】なのだ。

【ゲーム】だと思い込むしかないのだ。

そうしないと自分の身体は急に怖気づいて動けなくなりそうだった。




【ゲームで負けるわけにはいかない】




それだけが今自分が動いている原動力。





「さぁ…来るなら来い…っ!赤血球がっ…!」




震えた声でも、自分はようやく【ゲーム】と向き合って声を紡げたのだった。



.

再び目を通して頂きありがとうございます!


ようやくバトルシーンまで漕ぎ着けました。

描写に苦労しそうですが出来る限り分かりやすく描写していけたらと思います。


いつもご覧いただきありがとうございます!

また次回も見て頂けると嬉しいです!


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