始まり(序章もしくはプロローグ)
どのようなゲームでも、物語でも急展開というものは存在する。
それはおそらく世の中にある起承転結の精神に乗っ取って皆が作っているからだ。
もし、これが本当にゲームだと信じていいならば、これは間違いなく『転』の部分ではないのだろうか、と考える。
呆気なく取り押さえられた自分自身を情けないなとは思えない。
なにせ多勢に無勢、武器だってロクに扱えない自身が、農作業用の鍬や道具を持つ屈強な農夫に敵う筈がない。
護身術の一つも知らなければ筋トレなんてものもしたことがない中、どうあの状況で逃げきれるのか、どんなに思考を巡らせてもゲームオーバーの文字しか出てこない。
パチパチとランタンの火が揺らめいていた。
後ろ手に縛られた自身の体は支柱の木にくくりつけられ、散らばった藁の上に無造作に座らされている。
恐らく、納屋かなにかなのだろう、夜なのも相まって、灯りは支柱近くにぶら下がるランタンのみで、見える視界は小屋全体が見えそうで見えないレベルの明るさだ。
昨今の時代でこんなに暗い世界なんて本当にド田舎でももう少ないんじゃないかと思えるほどだ。
支柱に痛いほど縛り付けられた腕は、慣れない後ろ手なせいもあってズキズキと肩に痛みが走る。
縛られ無理やりこの納屋まで村人に引っ張られた時も、今が時と言うかのように殴られたり蹴られたりされ、身体中のあちこちが痛い。
村人達が外で何かを話し合っている気配がするが、流石にここまで声は届いてこない。
いや、正確には耳を澄ませば聞こえてくるのだが、今の自分の状況の説明になりそうな声ではなく、「早く殺せ」だの「容赦なんていらない」だのまるで犯罪者を糾弾するかのような聞きたくない声が飛び交うだけなのだ。
「……なんで俺が、こんな目に…」
呟くも誰も答えなんて教えてはくれない。
一体自分はどのゲームのルートに入ったのか…そもそもこれが本当にゲームなのか、未だにハッキリとはしていない。
それでも、今、この状態が危うい状況だという位は理解できる。
脳内では疑問と、言い訳は出来るのか、このままじっとしていて生きれるのか、殺されるのではないかとひたすらルーティンのようにぐるぐると思考が切り替わり、嫌な冷や汗が体中を冷えさせていく。
しばらくすると喧騒が遠のき、納屋に人影が蠢いて入ってくる気配を感じた。
緊張で研ぎ澄まされた自身の感覚は、その人影が一人ではないことを本能的に伝え、姿を捉えようと薄暗い視界の先へ視線を向ける。
「さて、何か言いたいことはあるかね?」
その声と同時に白髪の痩せこけた老人が藁を踏みつけて強張った表情で目の前で立ち止まる。
こちらが地面に座って相手が立っているのだから自然と視線は見上げる形になるのだが、気が立っているのだろうか、その視線を向けただけで、見張り番のお兄さんが声を荒げる。
「村長が尋ねてるのになんですか!その反抗的な態度は!」
「……え、いや、そんなつもりは」
渇いた声で戸惑いがちに答えると村長が見張り番のお兄さんを手で制し再び言葉を重ねる。
「質問は私がしているのでね、あちらの質問よりこちらに答えていただきたい」
その声は非常に緊張した声音で、誰が聞いても警戒の滲み出た声なのが分かる。見張り番のお兄さんは話を遮ってしまいバツが悪そうに黙り込むともう一人その横で静かに佇む女性が声をあげた。
「質問より早く処分した方が村のタメだと思いますわ、お父様」
村長の娘さんだろうか、凛とした声に似合う切れ長の瞳が射抜くようにこちらを見つめてくる。
その目は敵対心を隠そうともせず、ポニーテールでくくられた黒い髪を揺らしながら灯りの近くまで歩を進めてきた。
正直綺麗だなと場違いな思考がよぎった。
軍人のようなキビキビした動きに見合った黄土色の作業着のような服装も相まって、気の強そうな性格が滲み出ている。
「……黙ってなさい、今は私が話してるんだ」
「話し合う必要なんてないでしょう!村をこんな目に合わせた張本人を前に落ち着いてなんていられません!
何人の方が犠牲になったと思ってるんですかっ!」
少し責めるような声音にも怯むことなく女性は言葉を紡いでくる。
その口調にようやく先ほどまで納屋の外で容赦は要らないと叫んでいた女性がこの人物だったのかと気付いた。
「だから、その犠牲が何のためだったのか、聞かないことには遺族にも示しがつかんだろう、お前は少し冷静になりなさい」
気圧された様子を見せながらも村長はそう言うと再び自分へと視線を向けてくる。
「聞いたとおり、皆、いきり立っておりましてな、貴方の立場は非常に良くない、素直に話してもらえたからと言って罪が軽くなることはないでしょうな」
聞いたとおりも何も全く事情が掴めない。
自分が逃げ出しただけでここまでの罪に問われるとは思っても見なかった。
確かに逃げ出したことで何人か犠牲にはなったのかも知れない。
しかし戦ったことのない自分自身が逃げなかったからと言って何か変わってたのだろうか?
精々、死人が一人増えるだけのような気がしてならない。
「あんな恐い魔物相手に戦えるわけがないでしょう…逃げたのは…申し訳ないとは思ってます…」
それでもそのまま黙っているワケにもいかず返答をすれば、女性が近くの壁を思い切り殴りつけて声を荒げる。
「しらばっくれるつもりですか!
証拠は充分にあがってるんです!
貴方が【魔物使い】なのはわかっているんですよ!
今更、誤魔化そうとしたって遅いんです、つまらない嘘に時間をとらせないで下さい!」
「は……?魔物使い?」
荒げた声と殴りつける音にビクリと反射的に肩がはねるも、次にはなったこともなれることもきっと永遠にないであろうファンタジーな職業に呆気にとられたような表情で繰り返してしまう。
もしかしなくても逃げたから罪に問われているわけではないのだろうか?
「俺は…逃げたから罪に問われてるんじゃ…」
そのままぼそりと呟くと堪忍袋の緒が切れたように思い切り女性に頬をはたかれた。
小気味よい音が暗闇の中に響く。
少しの沈黙の後、鈍い痛みにただその女性を見上げることしかできない。
「止めなさい、お前が落ち着かないことにはまともに話も出来ないではないか…」
次にはそんな娘の手を取って後ろに下がらせて見張り番のお兄さんに任せると再び村長が質問をしてくる。
「先ほど娘が言ったとおり、言い逃れ出来ない位には貴方の罪は暴かれていますのでな。
下手な言い訳は余計に立場を悪くしますぞ」
「俺が…何をしたって…」
「そうですな、どこまで分かっているか述べねば口を割らないと言うことですな、最初に貴方に疑問を持ったのは私の息子です」
そのまま視線を見張り番のお兄さんに向けるとお兄さんは小さく頷いて声を紡ぐ。
村長の息子だったのかと考えるよりも何か疑わしい行動をしただろうかと記憶をたどり始める。
「初めて話し掛けてきた時、口調がおかしかったろ、あの口調で話すのはこの界隈では一部の魔物だけだ、つまりお前と魔物との繋がりが少なからずあるのは明白だ」
初めて?
記憶を辿るように思い出せば、外国人だと思って英語で話しかけた記憶が蘇る。
いや、あれは英語なんだから誰でも話すんじゃ…と思うもそもそもここがゲームならそんな概念はないのか?と頭に疑問符が並ぶ。
それに似たような言語はノーシークも使っていたし、と考え至って唖然とした。
ノーシークは魔物だ、それ以外で話してた人物で英語を話している人は少なくともこの短い時間でいなかった。
もしかして英語は魔物の言語か何かなのだろうか、それを聞く勇気はなかった。
「その後、魔物を見た俺はお前に戦ってくれと申し出たが、了承したにも関わらず逃げ出したな、何を狙っていたかは知らないが、お前が逃げ出した少し後で魔物がゆっくりと引いていったんだ」
淡々と話す見張り番の話を聞いて、嫌な展開なのではないかと息を呑んだ。
これは、自分自身が逃げたから罪に問われているんじゃない。
逃げたと同時に魔物が引いたのだ、自分がいなくなったからチュートリアルゲームが終了したのだろう、戦う対象がいないなら魔物が消えるのは自然なことだ。
だが、そんな事情を知っているのは誰もいない。
端から見れば、自分が魔物を使って村を壊しにきたか、魔物が自分だけを狙って襲いにきたかのようにしか見えないだろう。
つまり、今回は前者の魔物を使って襲いにきた魔物使いと思われて拘束されたということだ。
「つまり俺が、魔物を使って他の人を殺した犯人だと……?」
「ここまで聞いて違うと言いたいのかね?貴方は、他の村が滅びたと息子に聞いたとき、返事に言いよどんでいたと聞いたが、身に覚えがあるからだろう?」
そうだっただろうかと記憶を辿るもそこまで覚えていなかった。
ただ、右も左も分からず行動した言動が全て最悪な捉えられ方をされているのだけは確かだった。
「そこまで決めつけられて、信じて貰えるとは思いませんが、俺には…この村から前の記憶がないんです。
それにもし本当に俺が【魔物使い】だったとしたら何故、今この瞬間助かろうと魔物を呼ばないんです…記憶がないんだから、戦えなくて逃げてもおかしくないでしょう…それにわざわざここに戻ってもこないです…」
一瞬、3人の剣呑な雰囲気が固まった気がした。
当たり前だ、この三人の思い込みは犯人であって欲しいと決めつけた自分の言質だけで確かな立証ではないのだ、この様子ならもう少し踏み込んで言っても良いかもしれない。
「それに俺がいなくなって引いたのなら俺単体が狙われている可能性の方が高いんじゃないんですか?
確か…えーと、村はいくつかあって、いくつか消えたんですよね?」
「…あぁ、ちょうど見張りでお前と過ごした王都への道とは反対側の村だ」
真っ先に返事を返したのは見張り番のお兄さん、もとい村長の息子だった。
「だったら…俺の記憶はこの村の家の垣根の影で倒れていたところから始まっているのでずっと魔物に追われて滅びた村から逃げおおせてきたとも考えられますよね?」
そう捉えて貰えれば嬉しいと思ったが、次にはまだ納得できないのか娘が声を荒げて歩み寄って来る。
「そんな口車にはのせられませんよ!村を守るために【魔物使い】を目指してる私にはわかります!
【魔物使い】には魔物を従わせて使役するタイプが主みたいですけど、自分を餌として使役する【魔物使い】もいます!」
「その後者が…俺だと?」
そんな魔物使いが実際いたとして何の得があるんだろうか、ずっと命を狙われる魔物使いなんてただのドMなんじゃないだろうかと思う。
「えぇ!誰かに雇われた奴隷の【魔物使い】なんでしょう!だからお父様この男に何を聞いても無駄です!早く殺して捨てましょう!この餌の【魔物使い】を求めて魔物がこないうちに!」
話の展開が早くて追いついていけない。
次には娘はナイフの切っ先を突きつけて今にも刺し殺そうと息巻いている。
娘が怒りに震える手は今にも自分自身の喉元を突き刺しそうで息が詰まる。
「何の話だよ……っ!俺は何もしてないのに…っ!どうすれば俺は犯人じゃなくなるんだよっ!」
苦し紛れに声を絞り出すと村長が首を横に振った。
「止めなさい、お前が人を手に掛ける必要はないのだぞ…」
村長はそういうと娘の震える手にしわがれた手を添えてナイフを降ろさせ、今にも泣き出しそうな自身の顔をのぞき込んでくる。
「そんなに無実を訴えたいのならば、貴方に全部魔物を殺して貰おう、【魔物使い】は魔物と契約しているもの、契約している魔物を自身の手で殺せば契約違反となって死ぬはずじゃ、実際に殺してくれば魔物と関係ないということが分かるだろう…」
「お父様!もし本当に【魔物使い】だったら復讐に…!」
「黙りなさい、今、お前が核心をもって言ったではないか。
後者の【魔物使い】であれば魔物をひきつれることは出来ても指示は出来ない、前者の【魔物使い】の可能性は今回の村の襲撃と照らし合わせても当てはまりにくいと…」
「でも……っ!」
「もし本当に後者の【魔物使い】ならば逃げて村を襲うか、違うところに逃げ続けるしか出来ないじゃろ。顔も割れておる。
もし逃げ出したところで王都や他の村と連携を取れば容易に倒せる相手じゃ、お前が人を殺める必要はない」
言い聞かせるように娘に諭す村長を目の前に自分がこれから何をさせられるのかひたすら思考を巡らせる。
村長と娘の感動的なシーンは今の自分自身に何の慰めにもならない。
そもそもファンタジーな職業として【魔物使い】という名称あるのを知っているだけでどんな職業かなんてこれっぽっちも情報がないのだ。
村長や娘の言う言葉を照らし合わせても分かったのは、2つ。
【魔物使い】には二種類いて後者の餌の魔物使いだと思われていること。
無実を証明したければ襲った魔物を倒してこいと提示されたこと。
これだけだ。
今、死ぬことを免れても結局向かう先は赤血球のような魔物との戦いだ。生きて帰れる保証なんてどこにもない。
青ざめる自分の思考とは裏腹に娘はその手を下ろし、村長の案に静かに頷く。
無実を勝ち取るにはあまりにも難関なミッションが開始したような気がした。
お久しぶりの投稿になります。
いつもご覧頂き誠にありがとうございます。
あまり長すぎないように1話を短めに収めていますがもう少し長い方が喜ばれるだろうか?と日々悩みます。
今回は捕らわれた主人公と村人との会話になります。
長々と説明し過ぎないように意識しましたがとても説明ったらしいような……
また次回も見てる頂けると嬉しいです。
いつもご覧頂きありがとうございます!




