始まり(序章もしくはプロローグ)
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〈誰かの追想〉
ずっと、ずっと待っている。
始まりは死んでからだったけれど…。
オレがオレ自身を形成した瞬間、なだれ込んできた数々の感情と想いそして、自分に出来る唯一の役目。
それが【造り物】に与えられた役目だとしても、オレが生まれて今まで歩んできた生の全てを覆してくれたその存在をーーーー。
オレはずっと待っている。
最初で最後、オレがその存在に出来る最後の恩返しを。
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その【魔物】は恐らく、知っている限りでは、骸骨、もしくはスケルトンと呼称される雑魚に位置するモンスターだと頭の片隅で考える。
勿論、それはゲームの話であって、じゃあ実際にナイフ一本しか持っていない自分自身は余裕で勝てる相手なのかと問われると、恐らくスライムですら倒すのは困難だと思われた。
考えても見てほしい。
骨を切る威力をナイフで出そうとした場合、自分はどれほどのスピードと振りかぶりと腕力を持って骨を切るのか、しかも相手にも意志がある。
ゲームのようなターンなんて存在しない。
少しでも抵抗する素振りや敵意なんて向けた日には自分自身の骨の方が叩き折られる展開しか思いつかない。
「にしても、寝てたんじゃないなら、散歩か?
こんなミッドナイトに冒険するなんて勇気があるな♪夜目が利くのか?それとも、泊まる村が見つからずに迷子になったのか?」
襲ってくる気配がない、真っ黒な衣装に黄色い糸がイソギンチャクのように蠢いて発光している骸骨は、ひたすら纏まらない思考の自分を意に介することなく続けざまに質問してくる。
「でも、見た感じ、ゲーム慣れしてるように見えるんだけどな♪
なんていうか、隠キャっぽい見た目だしな!
せっかく出会えた縁だ!オレとの出会いを内緒にしてくれるなら村まで送ってやろうか?」
次には再びケラケラと骨を鳴らして笑うと、失礼な言葉をサラリと言ってのけながら立ち上がって自分の周りをゆっくり歩いて尋ねてくる。
「いや……村は…きっともう…」
しかし纏まらない思考は失礼な物言いよりも、赤血球のような魔物に襲われて跡形もなく消えた村人の存在を走馬灯のように映し出して、再びその恐怖に身体が震えた。
「……?
ソーリー、震えてるぜ?寒いのか?
あぁ、それともオレが怖いのか?
安心してくれ!オレはまだお前と敵対しようなんて一ミリも思ってないからな!」
人の話を聞いているようで聞いてないのか、もしくは一を聞くと十を勝手に理解して話す性分なのか、自分が聞きたい答えとは若干ズレた答えばかりが返ってきているような気がして仕方がない。
「……お前は何なんだよ…」
もっと聞きたいことはたくさんある。
この世界はどうなっているのか、とか自分はこれからどうすればいいのか、そんなことばかり頭によぎってくる。
でも、そんなこと、この目の前にいる存在に聞くようなことでもないければ、答えなんて絶対持っていないであろうことは火を見るより明らかだった。
それならば、当たり障りのない言葉を紡いでいた方がきっとまだ死なないで済むんじゃないのかと臆病な考えがその質問を問い掛けさせた。
「あぁ、確かにオレのネームを名乗ってなかったな、オレは、ノーシーク(No-sick)だ、どこにでもいるしがないスケルトンのアンデッドだ♪」
骸骨、もといノーシークは嫌な声音一つせずさらっと名乗り、楽しそうに骨の指の先でガリガリと音を立てて地面にアルファベットで名前を書き出した。
この読み方ならば「ノーシック」の方が読みやすそうだが、日本語にすれば「病気ではない」「病まない」辺りの意味合いではありそうだ。
なるほど、確かに骸骨ならもう死んでいるし、病気になることもないのだから相応しい名前と言われれば相応しい名前なんだろうなと、地面に書かれた文字を見て思った。
そして思ったと同時に見知らぬ世界の筈なのに言語も文字も一緒なことが更に奇妙な感覚を芽生えさせた。
いっそ、夢なら良いのに…なんて何度も考えてしまう。
それでもこれが夢じゃないと思えるのは走り続けて痛む足が今も馬鹿になったみたいに震えているからに他ならない。
「そういや、お前は?お前はなんてネームにしたんだ?」
(名前にした?なんて名前なんだ、ではなく?)
ふと問い掛けられた質問に、違和感を感じて視線をあげるものの次にはその視線はノーシークの近代的なアイマスクのような拘束具で止まり、思考も止まってしまった。
「あれ………オレの名前は……」
答えようとして【自分の名前が本当の自分の名前ではないこと】に気がついた。
「オレの名前は…【貴男】?」
これは他人に呼びかける言葉でしかなく、全く持って自分の本名では無いことが分かるのに、この言葉以外、言えなかった。
(本名が思い出せない?)
【貴男】ではない筈なのは確かなのに、この三文字の名前以外に自分の名前が分からない。
知っている筈なのに言葉にも思考にも、まるでモヤが掛かったように名前が浮かび上がらず、この言葉が唯一自身を指せる言葉なのだと理解しがたい事態に固まってしまった。
「……へぇ、名前、初期のまま変えなかったんだな♪
じゃあ、お前の名前は【貴男】だな、覚えたぜ♪」
「初期のまま?」
何の疑問を抱かないどころか、何か含みのある言い方に、相手が骸骨であることも気にせずに思わず言葉を返してしまう。
一瞬で後悔をするも、一度飛び出した声は戻せない、気を悪くしただろうかとアイマスクで見えない表情を伺ってしまう。
「オフコース♪名前入力画面でどうせ、面倒だからって横着したんだろ?
ノンノン、そんなナンセンスはオススメしないぜ?
なんせ、これからこのゲームで終始呼ばれるネームなんだから、ちゃんとこだわらないと!まぁ、もう手遅れだけどな!」
次には指を左右に振りながらダメ出しをしてくると、最後には再びケラケラと骨を鳴らして笑い、なんでもないことのようにサラッと言われ、その情報が大したことではないないかのように脳内で受け流されそうになる。
「は?何を言って……」
そこまで言って、フラッシュバックのように暗闇の中で浮かび上がる平仮名の羅列を見たことを思い出した。
確かに自分もその時思ったのだ、名前入力画面みたいだな…と。
それが夢だと思っていたのだが、よくよく考えればその後に見知らぬ先ほどの村に居た記憶が蘇ってくる。
「……そんな、ゲームみたいな…」
「どうしたんだ?お前、ただでさえ青ざめてる顔が更に血の気も引いてるな、もしかして自分がゲームを始めたことすら忘れてるのか?
どこかで頭でも打ったのか?殴れば思い出すか?」
「あ、結構ですっ!」
戸惑う自分の気持ちを汲み取ることもなく、殴ろうとダボダボの袖口から骨の拳を振り上げるノーシークの姿を見て慌てて否定し、再度思考を巡らせる。
確かに自分の記憶は、光っているPC画面のゲームを消そうと近付いた所で止まっている。
記憶が飛んでるのではなく、そのまま近づいて、夢のような名前の入力画面から繋がっているのであれば、記憶のあやふやには説明がつく。
それでも、納得しがたいのは、もしそれが現実であるのだとすれば、【自分は今、ゲームの中にいる】と言う事になるのだ。
「そんな…バカなこと……どうやって…ゲームの中に入るんだよ…」
無意識に漏らした声に答えたのは他でもないノーシークだった。
「そりゃ、そういうゲームだから中に入れるんだよ♪」
説明も何もあったものじゃない答えだった。
でも、それが今の思考を止める最善の答えなのは確かだった。
理屈なんて、実際にゲームを作ったことがない自分がいくら考えたところで答えはないのだ。
それならば、何らかの形でゲームの中に入れるVRの更に最先端を行く技術の可能性があると考える方が一番自分を納得させることが出来そうだった。
ゲームだと思えば、海外で一人記憶喪失で路頭に迷っているという仮説よりよっぽど、心の重荷は減っていくような気がする。
勿論、するだけで納得しがたい事実なのは確かなのだが。
「それより、どうするんだ?村まで送っていけばいいのか?それとも知らないフリしてこのまま立ち去った方がいいのか?」
まだ納得しきれない思考のまま、迫られる選択に言葉に詰まってしまう。
もっと聞きたいことがたくさんあるのだ。
このノーシークならば答えてくれるだろうか?
そんな淡い期待を胸に返事を返す。
「送って貰って…いいですか?もっと聞きたいことがたくさんあるんです」
その返しに、口元に笑顔を浮かべていたノーシークは何のこともないような声音で頷いた。
「オフコース♪んじゃ、迷子を村まで送っていくぜ♪」
立ち上がって黄色く発光する糸がたゆたうノーシークの姿に、これがゲームなら、とても素敵なカットインか、スチルでも入りそうだなとどうでもいいことが頭によぎったのだった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
開始、五話目にしてようやく、主人公の名前を発表することができました。
【貴男】という名前は、題名にも入っている通りとても重要な意味を持ちます。
また、骸骨の名前も出てきました。
ここから少しずつ冒頭に誰かの追想が出てきます。
今のメインの登場人物はこの二人だけなので、自然と追走は誰のものなのかと分かると思いますが、このゲームの全貌が少しでも紐解けて、皆様が真実にたどり着く一つのキーだと思って頂けると幸いです。
いつも、見て頂きありがとうございます。
評価や感想、参考や励みになっています。
ではまた次話も楽しんで頂けたらと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございました!




