始まり(序章もしくはプロローグ)
【魔物】という言葉はゲームをしていれば、アニメでも見ていればどんな立場の人間でもそれが何かは分かる。
時には倒して経験値を得る術であり、仲間に出来るゲームであればよき壁となり、アプリゲームでの魔物は擬人化されて可愛い女の子の姿をしているソレだ。
アニメであればよき悪役やライバル、はたまた異種族恋愛もしている非常に身近な言葉で、日常会話では同じようなファンタジー好きであれば話のタネになる言葉だ。
しかし、悲しきかな、現実には事実、魔物なんていう存在はいない。海の中のクラーケンだってただの巨大なイカでしかなく、炎の精霊とも言うサラマンダーのモデルは実在する動物モチーフでしかないなど、全くもって生きていれば出会えない物だ。
勿論、二次元の美少女もイケメン男子も然り。
幽霊だって存在するのか怪しいのが実情だ。
だというのに…
今、目の前にいる男性はなんと言ったのだろうか?
まるで、夜の山には飢えた熊がいるから危ないと言うようなノリで、魔物と言う言葉を出してきた。
しかし、問い返してもおかしいことを言っただろうかといいたげな男性に、もしかすると魔物と言うのは比喩で実際は野生動物の凶暴さを冗談で魔物と揶揄して話しているのではないかと思い直す。
「あぁ…いや、あんまり聞き慣れない言葉と言いますか…」
黙り込むのも可笑しいかと当たり障り無く返事をすると、男性は何を思ったのか深く同意するように頷いて言葉を返してくる。
「あぁ、確かに、此処まで王都に近づくと人間の方が数も多いし魔物なんて無害なヤツか、制約で拘束された雑魚ばかりであんまり聞かないし見ないですよね、かくゆう私も魔物なんて一匹しか遭ったことないんですよ」
同意をされて帰ってきた言葉は更に混乱を招き、理解できないまま、はぁ…と曖昧な返事しか出てこない。
どう自身の知っている知識に結びつけようにも上手くピースがハマらず、まるでどこかの下手なゲーム設定を聞いているような気分になる。
「あぁ、でももしかして旅人さんも見てきましたかね?
王都に行くなら反対の向こうから来たんだろうし、幾つか誰も居ない廃村のような村や集落を見たんじゃないですか?」
「え?いや………え?」
しかし理解できないなら適当に聞き流そうとした矢先に会話を振られどもった返事しか出来ず、何の話だと考えてしまう。
と言っても記憶はどう辿っても眩く光ったPC画面と次には此処にいたと言う記憶しかなく、どちらにせよ答えは分からないしか言えない。
「あぁ…いや、見てないんですね、私も直接見たわけじゃないですし、旅の商人から聞いた話を元に言ってるのでもしかするとデマかなと思ってるんですよ、でも、あの情報すらお金に変えようとするズル賢い商人が、来る人来る人、商売あがったりになるってことで村長や集落の代表に気をつけろって無料でそんな話するくらいだから本当だとは思うんですよ」
此方の戸惑いを気付いたような素振りもなく、まるで今まで誰かと議論をしたかったといいたげに愚痴のように流れてくる言葉にどこかのおとぎ話でも自分は聞かされているんだろうかと思いながら適当に相槌をうっていく。
いちいち話の腰を折ってもしもこの篝火の灯る場所から追い出されればそれこそ夜を明かす場所がなくなってしまうのだ。
それならば理解のできそうにない頭の沸いたような話もお付き合いとして聞くのは我慢してやろうという気にもなる。
「あ、その顔、信じてなさそうですね、と言ってもさっき言った通り集落から人がいなくなるから魔物だなんて安直な話だとは思うんですよ?
でも山賊やらに襲われたら村なんて火の手が上がって荒れ放題になるでしょ?でもそんな感じじゃなくこぞって皆が武器になるものを家から持ち出して忽然と消えてるらしくて、魔物退治に行って帰ってこないってのが商人の見解らしいです。
って言っても私もかいつまんで聞いた話なんで興味があるなら商人に聞くのもいいと思います。
あっちに商人が張っているテントがありますよ」
此方の様子に苦笑いして言うとテントがある方向を指さして言い、視線を遠くへ向ければ白いテントの中に光が灯っているのがうっすらと浮かび上がる。
「はぁ、ありがとうございます…」
何故、商人が存在して旅をしているのか、ここは自分の見知っている場所ではないのか、様々な疑問が浮かび上がっては消え、理解が追いつかずふいに夜空へ視線を向けてため息をついた。
そして溜め息をついたと同時に息が止まるほどに夜空を見つめた。
見たことがない。
それしか感想が出てこなかった。
地上が暗ければ夜空の星は綺麗に見えるのだといつかの授業か、もしくはテレビで聞いた気がするが、正にその通りで、見上げた夜空は宝石のような粒が一面に白く輝いて瞬いている。
そんな景色を生まれて今まで一度も実際に見たことはなかった。
ネットで調べればいくらでも見れる景色だ、でもやはり実際に見るのとはまた違う。
その感動と同時に襲ってきたのは途方もない絶望だった。
「オレは…どこに来たんだ…」
この夜空の星が有名な金星だとか、知っている星なのかは星が大好きなオタクではないから分からない。
けれど、これだけは分かる。
自分の知っている夜空には【月】は【二つ】も存在しない。
煌びやかな夜空には大きく丸い蒼い満月が2つ、地上に淡い光をこぼしている。
呟いた言葉には誰も答えなかった。
あの先ほどまでお喋りだった男性もだ。
きっと何を言っているんだろうかと思われているのだろう。
けれど、今まで必死に考えて理屈で繋ぎ合わせて、理解していた現実が突き崩されたような、むしろ夢であって欲しいと願うそんなぐちゃぐちゃになった思考が咄嗟について出た言葉だった。
渇いた笑いしか出ないような事態に陥った自分に声をかけたのは見張りをしている男性の警戒したような声だった。
「旅人さん、すみません、私の目がおかしいのでしょうか?
あの、暗がりの道の向こう何か見えませんか?」
その不安げに尋ねるも警戒をしているような囁き声につられるように村の出入り口の向こうへと視線を向ける。
「なんだ?アレ……」
突き崩された思考は何故、どうしてと考えるのを辞めたのか、視界に映ったソレを何の偏見もなく人間ではないと判断した。
視界に映ったソレの距離はさほど近くはない。
何百メートルか先の距離だ、それなのにそれは赤っぽく光り、生物のような何らかの形ではなく丸みを帯びた姿をしていた。
それはもし例えるならば教科書で見たことがある姿だった。
「………赤血球?」
その言葉はかすれて上手く発音出来ていなかったのだろう。
しかし、脳がそれを理解した途端、沸き上がった感情は理解できないや疑問ではなくただの原始的な感情だった。
【逃げなきゃ】
よくアニメで見たような立ち向かえるヤツの思考がわからない。
人間は見たこともない存在に限りなく警戒と嫌悪をすると言う。
まさしくそれで、座り込んでいた体は勝手に立ち上がり篝火からジリジリと後ずさっていく。
その様子に気付いた見張りの男性は自分が見ているものが自分の見間違いではないのだ確信したのか首もとにぶら下げていたホイッスルを吹いて大声で叫ぶ。
「魔物が出たぞっ!戦える者は前に!女子供は避難させろぉ!」
静かな夜空をつんざくような大きな声に、明かりの消えていた小屋から次々と慌ただしい音が広がり夜中に無理やり起こされた子供の鳴き声や、明かりがつき、武器の音が当たる金属音が鳴り響く。
呆然と立ち尽くしてその音を聞いていると見張りの男性が声をかけてくる。
「武器はお持ちですか!?もし宜しければご助力下さい!
旅の方は魔物と戦うことがあると聞きます!お願い致します!」
「え………?」
何を言っているのだろうか、この見張りの人間は、と瞬間的に思った。
誰が誰と戦うと言うのだろうか?
生まれてこの方武器なんて直接手に持ったことなんてない。
ゲームセンターでやったシューティングゲームが精々だ。
コントローラーの向こう側ならいくらでも武器を手に戦ったこともある。けれどそれだけだ、じゃあ実際にやれと言われて出来る訳がない。
ぐるぐると渦巻く思考を遮るように更に見張りの男性が言葉をまくしたてる。
「お願いします!見たところ護身用のナイフをお持ちなので!引きつけてくれれば後は私たちがなんとかしますっ!」
(ナイフ?)
まくし立てられた言葉に視線を自身の体に落とし、手で体をまさぐるように動かせば腰にナイフを入れるホルダーあり、でている柄に手をかけて引き抜けば、凡庸性の高そうなシンプルなナイフが目の前に映る。
「ありがとうございます!助かります!」
引き抜いた自身の行動を了承を捉えたらしい見張りの男性は頭を下げると篝火のそばに置いていた弓矢の元まで去っていき装着し始める。
イヤだと返事をすることも出来ないまま、桑や鍬をもった農夫達がぞろぞろと篝火の方まで歩いてくる足音を聞きながら鈍く煌めくナイフを見つめる。
「どうしろって……言うんだ……」
再び手にとり読んで頂き誠にありがとうございます!
続けていけるのも見てくださる皆様のおかげでございます。
主人公は、とても頭でっかちで理屈で物事を考えてしまうタイプです。
まだまだ始まりでしかなく、ようやく現実と少し違うのではと気付き始めた形になります。
今後もゆっくりな執筆にはなりますが書き続けていきます。
またレビュー感想非常に励みになります。
更なる文章向上を意識して参りますのでどうぞよろしくお願い致します!




