一章 行方不明の子ども達
自分自身が注目された記憶がどれほどあるだろうか。
小さな頃のよくある発表会だろうか、それとも会社の面接やグループワークの発表だろうか。
どちらにせよ、何かを期待された視線を向けられるのは、この短い人生では数えるほどしかないだろう。
今、彼ら村人が自分自身に向けている視線はそれとやけに酷似している。肌に刺さるように向けられたその視線は、期待や疑心、好奇心だろうか。
どれにしろ、この針の筵のような視線は落ち着くものではないのは確かだった。
「まさか、その怪我で?その少年の心当たりはあるのですか?」
まさか自分が解決に乗り出すとは思っても見なかったのだろう。カインはふらつく自身の身体を不安げに見つめながら狼狽えたように言葉を返してくる。
「さすがに走り回れとか、戦えって言われない限りは、もう大丈夫です、随分具合もよくなりましたよ。
心当たりと言いますか…、そちらのお嬢さんに頼まれたので」
大人の証のことを素直に言う訳にもいかず、曖昧な笑顔を向けて少女に手を向ければ、カインは、君は確か…と呟くように視線を向けた。
少女は突如の名指しで小さく戸惑いながら視線をさ迷わせる。
「お兄ちゃんと早く、遊びたくて、このお兄ちゃんなら強いんでしょ?見つけてくれるかなって…」
見つけられる索敵能力と、モンスターを倒せる強さがどう関連するのかどうかは分からないが消え入りそうな少女の声に先ほどまでいきり立っていた母親も周りの村人も静まりかえった様子で少女と自身を交互に見つめてくる。
そこに無言で伝わってくるのはこんなに傷だらけなのに大丈夫なのだろうかという心配と、中には自身と同じように索敵能力と強さは関係ないんじゃないかとツッコんでいる人もいるのかも知れない。
勿論、彼らの気持ちなんて知りようもないので完全な想像でしかないが。
「兄ちゃん、流石にその怪我で動くのはキツイんじゃないか?それに捜すだけなら兄ちゃんじゃなくてもオレたちでなんとかなる。
それよりは、この行方不明に村長達が関わりがあるかどうか突き詰めて貰った方が…」
「だから本当にこの件に関しては我々は関与してないと…」
村人の言葉にかぶせる様にカインが再び言い返すのを聞きながら、確かに村人の言うことに一理はあるかと考えてしまう。
傷だらけの青年を引っ張り出して山や村を捜索させるのが憚られるのだろう。しかし、大人の証の話を抜きにした場合の話である。
山の主というフレーズがあった以上、その他のモンスターの存在がいる可能性があるのだ。そうと分かれば恐らく、手の平を返したように傷だらけの自身は駆り出されそうな気はする。勿論、倒せるとは言わない。
しかしそれを言うのはこの少女の気持ちを無下にするようなものなのだ。
「オレは、村長やカインがやったとは到底信じられなくてですね…、それに昨夜、カインは目の覚めたオレとほとんど一緒にいました。村長も年齢的に若い少年を捕まえることは難しいと思います」
「アンタも、グルかい!?モンスターを倒したなんてのも自作自演じゃないのかい、間違いなくこいつらが私の子を攫ったんだよ!」
更に言い合いそうな村人とカインの会話に割り込むように言葉を挟めば、次は堰を切ったように母親が声を張りあげて言い返してくる。
「お、落ち着いてください。商人の話によれば隣の村人達は同じような事件があったと言ってたじゃないですか。確か、子供が先に居なくなって後で大人たちが武器を手に取って消えたんですよね?
考えてください。武器を持って行ったってことは心当たりがあって大人たちは動いたことになります。
もし村長達が犯人ならこの村に隣の村の大人たちが武器を持って訪れたんじゃないでしょうか?」
「その話は商人の作り話みたいなもんじゃないのか?隣の村人が消えたのは本当みたいだが、武器を持っていったかも定かじゃないだろ、もし、本当にそうだとしてもモンスターを消しかければこの村に来る前に防げる筈だ」
なかなか痛いところをついてくるなと思う。
しかし、どうにか自身が森に行くことを納得して貰わないと少年を探しにいくこともできない。
何か良い言い訳がないかと考えるものの、なんでこんなに必死になる必要があるのかという考えがよぎる。
確かに探しにいくとは言ったもののそれは自身の意思かと言うとそうでもない。強いて言うなら選択肢が一つしかなかったという感覚が強い。
よくゲームである選択のカーソルバーが選択させる余地もなく強制イベントかよ、と思えるように一個しかないパターンを何回か見たことがある。
ゲームを遊んでいたときはわざわざ選択させる意味がないだろ、そのまま行かせろよ、と鼻で笑っていた記憶があるが、リアルで体験するとなると、選択肢はサボらずにもう少し選択肢増やして仕事しろと言いたくなる。
「オレは、山に入っていったと思うんですよ。
旅の途中で聞いたんですが、この山には主が住んでいるって話がありましたけど。
主と呼ばれる存在は生贄を要求したりするんじゃないですか?
その生贄を渡さなかったから村が滅ぼされる、なんて事案もありますし…」
こうなれば、口八丁手八丁、よくあるRPGのクエストであるような内容をさも起こったことのように話してみるのはどうだろうか、と話をガラリと変えてみる。
この状況で村長達の肩を持ちながら、村人を説き伏せるには状況が悪すぎる。それならば、旅人なんていう肩書を存分に利用して森に入るのを認めて貰う方が簡単なような気がしてきたのだ。
案の定、その話を出せば村人の中には反応がちらほらと出てくる。
「そういえば、そんな言い伝えもあったな…」
「でも生贄なんてあったか?」
「そもそもオレらの村は隣村より山の主がいるっていう場所には遠いしな…」
「山の主も神様じゃなくてモンスターみたいなもんなんでしょ?」
「いやいや、確か力を封じられているモンスターが山に住み着いただけだって聞いたぞ」
あちらこちらから聞こえる会話に聞き耳を立てながら、存外、今の作り話は的外れな内容ではなかったようで、生贄の相場は若い子と決まっているが…と有り得ない話じゃないのかも知れないと言う声も聞こえてくる。
「オレ的にもし、少年に何かあったのだとしたらモンスター絡みもあり得るんじゃないかと思うんです。
山の主もモンスターなら倒すことも出来るかも知れません」
それに大人の証は山の主が関係しているのは少女の話にも出ているのだ。
本当にモンスターだった場合に倒せる保証はないが、少年一人を取り戻すくらいは出来るのではないだろうかと思えてくる。
「それにその役目をするならオレの方が適任ではないのかな…と、倒すまでには行かなくても、その山の主の所に少年がいるか確認も出来ますし連れ戻せるかもしれません」
「確かに…山の主絡みならオレらは手出し出来ないが…」
「だまされるんじゃないよ、きっと村長達を庇ってるんだよっ!私の子は絶対こいつらが…」
「わかりました!私たちも疑いがかけられている原因は十分に理解しています。しかし本当に身に覚えがない。
それを打開してもらうには、大変心苦しいですがアナタに託すしかないのでしょう」
次にはカインがはっきりとした、まるで何かを決意したような面持ちで声を張り上げた。その鶴の一声のような声にザワついていた村人は水を打ったようにシンとなる。
「貴男が仰るような山の主がいるという噂は私も知っています。
人語を解し、話すことも出来るとか、もしその少年が山にいるのならば山の主ならば知っている可能性は確かに高い。
私たち二人の無実を晴らすにはその山の主から少年の所在を聞いて少年を見つける他ありません。
山の捜索を無作為にするよりもその方が少年を早く見つけ出せるでしょう。
私たちに心当たりはありません、だからこそ貴男の推測が当たっているような気がするのです」
こっちを見ながら真剣な瞳を向けるカインは何かを確信しているような表情をしている。
勿論、彼らが犯人でないならば少年の行方不明事件は全くの別件なのは明白であるし、商人の話を信じるならば自身が考えた推理は十分に乗る価値はあるのだろう。
「もしその山の主に尋ねても見つからない場合は私たちの処遇は好きにしていただいて構いません。
なのでどうか、一度、この件を彼に任せて貰えませんでしょうか?
父上もそれでよろしいですか?ここでいくら私たちが無実を訴えても少年が見つからない限りはどうにもできません」
次に村長に同意を求めるカインは視線をそちらに向ける。
村長もこの拮抗している状態に疲れているのだろう。
カインの強い言葉に後押しされるように頷いて見せる。
「そうじゃな、どんなに言葉を尽くしても村の子供がいなければ何も解決しないじゃろう、どうじゃ、皆の衆、この提案は…こちらも大人しくこの家で待機することを約束しよう、この青年に任せてもよいかな?」
村長が静かに座ったままテーブルに腕をつき手を組んで辺りを見渡せば、村人たちも目を見合わせて始める。
「ちょ、ちょっとアンタたち、村長の言うことを呑むつもりかい!?」
「でも奥さん、何よりも優先すべきは子供の安全だ、モンスターを倒せる彼が山の主を訪ねてくれれば、少年がもし本当に山にいた場合、すぐ見つけられるだろう?」
「そうだな、村長達もここで大人しく待つなら、もし子供を攫っていても傷つける暇はないはずだ」
疑心暗鬼な母親をなだめる様に村の人達が声をかけて行けば、最後は折れたような形で母親は肩を落とす。
「わかったよ、でも私の子が見つからなかったその時は覚えておいでよ」
「はい、あ、でも、オレはその息子さんの特徴や見た目を知りません、何か特徴とか写真とかはないですか?」
この世界に写真は存在するのか分からないがとりあえず尋ねてみれば母親はあぁ、と思い出すように答えてくれる。
「村長が毎年、村の子供を集めて一年に一度集合写真を撮ってるよ、写真を現像出来る機械が村になくてね、村長会議で王都にいくときに現像してたはずだよ」
「あぁ、確かに、お待ちくださいね、確かこの棚にアルバムが…」
写真あるのか、と思いながら、アルバムを取りに行くカインを横目に見送れば。少女が服の端を掴むように自身を引っ張っているのに気づく。片手を口に添えている少女が内緒話をしたがっているような姿勢に、無意識に姿勢を曲げて耳を寄せれば鈴の鳴るような明るい声でお礼を言われる。
「お兄ちゃん、大人の証、内緒にしてくれてありがとう!お兄ちゃんを迎えにいってあげてね、待ってるからね♪」
「…あぁ、任せてくれ」
無邪気な声に、これがリアルでクエストを受けるときの気持ちなのかもなと考えてしまう。なんせ、いつもはゲーム画面の向こう側、したい時にプレイして辞めたいときに辞めるだけ、面倒そうなクエストなんてスルーしたことなんて何回もある。けれど現実のように誰かに頼まれたり巻き込まれたりすれば、他人事のように一蹴するのがなんて難しいことか。
「お待たせしました、これが行方不明になった少年の姿です」
思わず漏れそうになる苦笑いを抑えていれば、カインが分厚い皮のアルバムを片手にもって最新のページを開いて少年を指し示す。
「これが…」
行方不明の少年はとてもやんちゃそうな表情でガキ大将でもしているんじゃないかという体格のでかさだった。
喧嘩でもしたのか怪我だらけだがそれが勲章とでも言いたげに鼻の下に指を当てて笑顔で映っている。
「ありがとうございます。覚えました、じゃあ、日が暮れる前に出発しますね」
アルバムから視線を外せば座っていた村長がいつの間にか横にいて袋包みを差し出している。
少し驚いたように身を引けば、村長は柔和な笑みを返してくる。
「驚かせて申し訳ない、朝も食べないで行くにはキツイ旅路じゃろう、後で二階に持っていこうとしたスープとパンを入れておる、道中の休憩に食べておくれ」
受け取って中を少し見れば確かにパンとスープが入っているような保温マグと水筒が入っている。
世界観がよく分からないが、ここはファンタジーじゃないのだろうか、写真もそうだが、保温マグのような現実世界にあるようなものがファンタジーの村にはなさそうな雰囲気なのに存在している。
挙句の果てには携帯もあるんじゃないのだろうかと思えてくる。
まぁ、ゲームの世界なら現実のアイテムが混じってるのはおかしくないかで片づけるしかなさそうだ。
ありがとうございますと頭を軽く下げれば村長は気を付けてなと労う言葉をかけてくれる。
その言葉に曖昧な笑みを浮かべて、村長の家を出れば、一人ぼっちの冒険が始まる。
「はっ…、本当にRPGだな」
空は晴天。クエスト日和というべきなのだろう。
もしくは登山日和か。
何とも言えない笑いがこみあげてくるのを感じながら進むのだった。
お久しぶりの投稿になります。
普通のRPGであれば、クエストを受ければ即出発の流れですが、実際にクエストを受ければこれくらい話し合いや出来事があるのではないかとの考えで進められたお話です。
話は変わりますが、日本は問題解決に向けて何度も会議をするだけで実行がとても遅いとか。
つまりこのゲームを作った人は話し合いが多い点を踏まえてもどこの国出身のゲーム制作者かわかりそうですね。
次回は話し合いは少なくなりそうです、なにせ主人公が一人で旅立っているためですが。
山の主とは誰なのか、次回もお楽しみにして下さると光栄です。




