始まり(序章もしくはプロローグ)終
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〈誰かの追想〉
おかしいな、こんな展開なんてあっただろうか?
チュートリアルはもっとあっさり、さっぱり、簡単に終わるはずなのに、どうしてか新しい【貴男】の場合はシナリオが違うように感じる。
勿論、全部が全部把握できている訳ではないのだけど、それでもオレ自身の物語が終わるまでに起こりうるイベントは全て網羅していたつもりだったのだ。
何か変わった選択肢でも選んだのだろうか?
オレが尋ねた時は、テンプレート通りの詰まらない返答だった。
村での選択肢で特殊な返答をしたのだろうか。
それとも本当にオレが求めている存在なのだろうか?
もっと話してみたいな、どうせ、シナリオは変化している。
ならきっと今、ここでオレが声を掛けても問題は無さそうだろ?
あった所で、イレギュラーで楽しめそうな展開になっていくだけだろうし…。
そう思うといてもたってもいられない。
もっと楽しく!楽しめる展開を!
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〈とある姉弟の決着〉
逃げても、逃げても弟のカインの追ってくる音がする。
森を掻き分けて、足に蔦のトゲが刺さっても構わずに走り続けた。
なんで、こんなことになったのだろうか。
私は本当にただ、村を守る力が欲しかっただけなのに。
一部の魔物達が、人間を狩り始めたと王都からのお触れが伝わったのは三ヶ月前。
討伐隊が組まれたと言っても、王都近くにあるこの村を守ってくれる訳ではない。
もし群れで魔物が襲ってくれば、人間では太刀打ち出来ないのは目に見えて分かっていた。
だから、その対策にと調べ尽くしてたどり着いたのが【魔物使い】だった。
魔物を倒すならば同じく大きな力を持つ魔物を使えばいい。
村長の代理として王都に向かい、つてを頼って魔物を手に入れて浮かれていたのは確かだった。
だから山あいの木こりが良く使う場所で、魔物の力を測ろうとした時も、気付かなかった。
人気がないと思って辺りに攻撃しろ、と命令を下した時に、村で一番力持ちの若い青年がたまたま忘れ物をして戻ってきたことを。
若い青年は叫び声を上げる暇もなく赤い円形の魔物に包まれて骨も残らず溶けていった。
最初は気のせいだと、見間違いだと思いこませて、魔物をそのままに家に逃げ帰った。
隠し立てするつもりはなかったが、現実味のない出来事に理解が追いつかずに数日間、体調が優れないと言って部屋に引きこもった。
狭い村だから、その青年が帰ってこないことはすぐに噂になり、否が応でも夢でも気のせいでもなかったと思い知らされた。
守るべき村の人を殺してしまった。
その事実がずっと胸にのしかかり、遂には言い出せないまま月日が流れた。
魔物は忠実だった。
人を襲うなと言えば襲わなかったし、村を守るよう山中で見張りを頼めば森の獣を処理したり、弱い魔物を倒したりとキチンと命令をこなしてくれた。
それが余計に若者を殺したのは自分だと思い知る羽目にはなったが、これなら私が間違えなければ、村を守れると強い確信も持てたのだった。
それでも、ひと月するとまた違う噂が耳に届いた。
周りの村の人々が跡形もなく姿を消したと。
最初は子供が消え、次には村の大人が武器を持って消えいなくなったと。
それが山の中に住む赤い円形の魔物の仕業ではないかと噂されたときには、もうどう名乗り出ることも出来なくなっていた。
私の魔物はそんなことをしていないと、魔物使いだから大丈夫と名乗り出て納得をしてもらえる勇気はなかった。
自分が殺してしまった若者が死んだのは事実だった。
不安がる村の人々が全てを私と魔物に押し付けて罰する可能性を考えると到底名乗り出る勇気はなかった。
逆に、村を守る義務よりもいつの間にか、魔物使いを辞めてどう隠蔽すればまた平穏に暮らせるかばかり考えるようになってしまった。
そうして二階の窓辺から変わらぬ景色を見下ろしていれば、見たこともない服装に身を包んだ旅人がいた。
不安げに辺りを見渡し、如何にもトロそうな青年を見つけた時は心が躍った。
全く関係のないあの青年を犯人に仕立て上げようと、策を巡らせた。
この村に宿はない為、もし夜を明かすならば、誰かの家に泊まるか、もしくは見張りとしているカインのいる場所で夜を明かすかのどちらかだと踏んで夜を待てば、案の定、カインのいる場所に居座っていた。
だから、村を襲わせた。
あの青年が操っているように見せようと魔物に指示を出せば、村の入り口まで魔物は押し寄せた。
そのまま青年に懐くように侍らせようとした。
だけど、次には予想外に村の人間が魔物に突進して攻撃したせいで陣形が崩れた。
魔物にも防衛本能ある。
襲われれば攻撃してしまう。
それはいくら私の命令で辞めろと言っても止められるものではない。
村人が一人喰われたのを目にした時、何かが私の中で終わった気がした。
呆然と魔物と村人が戦うのを見ながら、視界の端に逃げていく青年がいた。
その瞬間に、青年にもう全て押し付けて死んで貰おうと思った。
青年がいなくなった方を追わせるように魔物に指示を出せば、魔物は撤退していくかのように村を去っていく。
後は、青年が戻ってくることがあれば犯人として殺せば、収拾がつく。その後、魔物は契約を打ち切って、討伐隊に依頼して倒して貰えばいい。
村の人を守る力が、全く役に立たないなら要らないと本気でそう考えた。
もし青年が二、三日経っても戻ってこないならば、魔物をそのまま討伐隊に任せて、あの青年が全ての元凶だったで終わらせれるハズだったのだ。
「なのに……なんで……っ」
カインの足音が近付いてくる気配がする。
あの青年は、今、カインが持っているあのナイフ一本で、たった一本で、私の魔物を倒したのだ。
計画も何もあったものじゃなかった。
青年を殺して、カインに事情を話せば、きっと、心優しい弟ならば一緒に打開策を見つけてくれるとそう期待した。
でも現実はこうだ。
私を殺そうとしてくる。
いやだ、いやだ、なんで?どうして…!
私は、村を守りたかっただけなのに…!
「姉さんっ!」
カインの鋭い咎めるような声に無意識に涙が溢れる。
次には背中の服を掴まれ地面に叩きつけるように引き倒される。
地面に叩きつけられる感覚に意識が飛びそうになるも、次には胸に鈍い痛みと熱が襲った。
「………やだ、なんで……っ、カイ…っごぼっ」
口から鉄の錆びたような液体が溢れる。
視線を向ければ胸に一刺しにされたナイフとそれを押し付けて覆い被さる弟の泣き顔が視界に映った。
「姉さん、姉さんが村の人を……旅人を殺そうとしたのは…きっと許されない。魔物使いの魔物から身を守るには…魔物使いを殺せばいいって言ったのは……姉さんだったよね……」
その苦しそうな声に遠のく意識でそうか、と理解した。
もう、全て言い訳にもならないのだろう。
村の安全の為だと、魔物使いを殺せと叫んだのは他でもない自分だったのだ。
「………私は、ただ………」
村を守りたかっただけなのに…。
その言葉はもう言葉にならず、次には静かな世界に身が沈んでいくような暗く寒い感覚に襲われて、意識はそこで途切れたのだった。
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一匹、一匹確実に。
どんな問題だろうが戦いだろうが、終わりが見えなかろうが、目の前の処理をこなしていけば、いつか終わりに辿り着く。
それが例え、無数の赤血球の群れが相手だとしても、だ。
どれだけ薙刀を振り回しただろうか、一匹倒す度に底抜けに明るい声が褒め称え、その途中にまた一匹と襲い来る魔物を倒し続けた。
「おぉ…♪グレイト!かなりの数を倒したな♪
ルックミー!もうだーれも、なーんにも残ってないな!
ここにいるのは、オレとお前だけだ♪」
肩で息をしているからか、体が限界に近いのだろう。
正直、ノーシークの声掛けがなければ、いつ倒れても可笑しくないくらい体は言うことをききそうになかった。
ノーシークの言うとおり霞む視界で辺りを見渡せば、赤血球は一匹も残らずに消え、目の前に音もなく降り立ったノーシークが両手を広げて楽しげにカラカラと骨を鳴らして笑っている。
「終わった………?」
「あぁ、お前がオレを殺そうとしないならもうバトルはフィニッシュだ♪
ご苦労様♪チュートリアルクリアだぜ♪」
「ははっ…そうか、やっと………!」
「え?おい!?お前、どうしたんだ!?おい!」
もう気張らなくていいのかと思うと言葉もままならず膝が崩れ落ち地面に倒れ込む。
ノーシークの声に応える余裕もない。
むしろ、しばらく動きたくない。
鉛のように重たい身体には、もう痛みだとか、恐怖だとかは湧いてこず、まるで意識が地面に溶け込んでいくように、そのまま意識を手離した。
「んー?死んではないんだよな?死んだら消えるもんな、なら疲れたんだな!ここで寝るなんてお前は変わり者だな!
本当はもっとお話したかったんだけど…まぁ、また会えるし、その時でいいよな♪good night!マイフレンド♪また会おうぜ♪」
茶目っ気たっぷりの声音を最後に、ノーシークは森の中に音もなく消え去っていったのだった。
いつもご覧頂きありがとうございます。
今回で序章は終わります。
このチュートリアルの本当の全貌。
何故、このような事態に主人公は襲われたのか、真相が全て明らかになる回です。
ですが、この真実は主人公にも、実の弟のカインでさえ分かりません。
分かるのは姉の凶行があったという事実のみ。
本当の真実は当事者のみ知っている、それ以外はそれを知らぬまま過ごしていく。
そんな作品だと思っていただけると嬉しいです。
次回はついに第一章になります。
いつも目を通していただきありがとうございます。
また次回も楽しんでいただけると幸いです。




