始まり(序章もしくはプロローグ)
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<誰かの追想>
違う違う違う!
こんなつもりじゃなかった!
こんなことになるなんて思わなかった!
こんなこと誰にも言えない。
隠し通すしかないじゃないか。
なのに、ややこしいことばかり起こる。
行商人から聞いた子供が居なくなる理由、これは全く関係がない。
これはどうせもっと別の件に決まってる。
魔物が辺りを徘徊しているという噂。
こればっかりは魔物使いのそばに魔物が存在する為に仕方ないことだ。
それなのにいつの間にか、その魔物と子供の行方不明事件が紐付けられておかしなことになってきた。
違うんだ。
村を守りたかっただけなんだ。
でももう皆、思いこんでしまうと切り離せないんだろう。
どうすればいいのか。
ある日、見知らぬ旅の青年が現れた。
見るからに世間知らずそうな存在。
これはとっても好都合だった。
それならそのまま青年に被せよう。
そうすれば誰にもバレずに事が済む。
なのに…なんで…
あんなに震えてたじゃないか。
あんなに目に恐怖を湛えてたじゃないか。
構えていたナイフの切っ先も震えていた。
まさか倒せるなんて思わなかった。
…倒したら意味がない。
犯人にした意味がない。
どうする?
赤血球の魔物が押されている。
このままじゃ辻褄が合わない。
もっと、もっと…もっと…
【魔物】を呼ばないと…。
身内は何としてでも守る。
でもこの青年だけには…
何が何でも…
【死んで貰わないとダメだ】
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人間には、得手不得手はあれど環境に適応出来る能力が備わっている。
それが大らかで細かいことを気にしないならば、どんなことが起こっても柔軟に対応するだろう。
もし、細かいことを気にして上手く馴染めなくても、極限の環境下に立たされて生き残れば次にはどんな問題にでも適応出来るようになるのだと、舞う赤い血飛沫のような色を切り裂いて頭の片隅で思った。
地面に熟れたトマトを叩きつけたような音が響いた。
赤血球の魔物の核を見事一突きに出来たのだろう。
形が崩れてはじけそうな魔物をナイフから払えば、先ほどの音がやけに大きく自身の耳に届いた。
浅い呼吸とは裏腹に、耳に残るイヤな音と、赤い色、切り裂いても感触の浅いナイフ。
全てが非現実的で、全てが今目の前にある。
赤血球を一匹倒して辺りに視線を向ければ、先ほどよりも多くの赤血球が取り囲んでいた。
見張り番の持ってきた矢筒の中の矢はもうほとんど残っていない。
村長の娘は赤血球の攻撃を避けて攻撃するも核に当たっていないのだろう、二つに、三つに切り裂くだけで決定打にはなり得ていない。
「姉さん、逃げよう!このままだと全員死んでしまう!彼は魔物使いじゃなかった!それさえ分かればもう充分だ!」
「なに言ってるの!こんなに囲まれて逃げれる訳がないわ!」
矢筒から最後の一本を引き抜いて弓につがえながら、見張り番の青年は目の前に立ちふさがる赤血球を射抜いて後ずさる。
それを見ていた村長の娘は後ずさる青年の背中が当たり軽くよろけながら言う。
背中合わせに話す彼らの話は物騒このうえないが、囲まれて逃げ場がないのは事実だ。
少しずつ囲われている円が狭まり、見張り番の青年の斜め前にいる自身も確実に一体、二体と倒しているのにその二人の方へと押しやるように距離を詰められている。
このままじゃ本当に負けそうだなと、チュートリアルのはずのこの戦いになんとも言えない気持ちになる。
そもそもチュートリアルなのにこの難易度の高さは何なのだろうか。
雑魚と呼ばれる敵でも数で圧されればどんな存在も負けるだろう。多対一ほど不平等なものもない。
「………っぅ!」
次には矢がなくなった見張り番の青年に向けて赤血球の一匹が躍り出て捕らえようと大きく体を広げる。
その突然の素早い動きにとっさに反応できずに見張り番の青年も自分も息を呑む。
「………っ!させないっ!」
切羽詰まった声が悲鳴のように上がり、そのまま青年を庇うように身を翻した娘は青年を押し退けると赤血球を容赦なく薙刀で貫き…。
「………は?」
そう貫いて赤血球を横薙ぎに振り切ったのだ。
自然とその薙刀の峰の部分が、斜め前にいてしまったが為に自身の横腹に思い切り当たり次には想像以上の力で吹き飛ばされた。
「は…っ!?が………っう!」
声にならないくぐもった息を吐き出し全身を強く地面に叩きつけられ呼吸が圧迫された。
ボールのように弾かれた自身の意識は一瞬眩み、赤血球の魔物の方へ投げ出されたことにも気付かなかった。
視界がぼやける。
鈍いながらも痺れるような横腹の痛みに反射的に目に涙が浮かぶも見張り番の青年の叫び声に必死に視線を巡らせた。
必死に身体を起こそうと肘をついて息も絶え絶えに動けば、視界の端に詰め寄ってくるいくつもの赤血球の影が見える。
「……くそ…っ!」
勢いで投げ出された為にナイフが遠くの地面に落ちていた。
手元に何もないことに気付くも、抵抗出来るほど動ける気がしない。横腹の鈍い痛みが止む気配はなく、呼吸も苦しい。
まさか薙刀で打ち付けられるだけでここまで痛いとは思いもしなかった。
そんな目に合わせた村長の娘を見れば、こちらに目を向ける余裕もないのだろう。
見張り番の青年を守ることに必死なようで、薙刀を振り回し魔物を牽制するのに手一杯といったところだ。
見張り番の青年も弓を振り回して逃げて下さいとこちらを気にしながら叫んでいる。
その逃げて下さいはこちらだけに向けてなのか、村長の娘に向けてなのかは分からない。
それでも最悪な事態なのは確かだった。
「……チュートリアルで、負けるのか」
無意識に沸き上がってくる自嘲の笑みは誰に向けてでもない。
横腹が痛い。呼吸もやっとだ。
武器もなければ魔物も囲まれている。
ゲームの中で死ぬなんて馬鹿げている。
負けたら何事もなくいつもの自分の部屋にいて夢だったなんて笑えるんじゃないかと下らない思考がよぎる。
だがこの世界がゲームであれ、夢であれ、どちらにせよ、薙刀が横腹に当たっただけでよろけて立てないくらいの痛さだ。
ゲームオーバーの死ぬその直前の痛みがどれほどのものかと考えるだけで嫌な汗が伝う。
赤血球の魔物は恐らく補食するタイプだ。
包み込んで溶かして食べるのだからその痛みは、と考えるだけで身体が震える。
「こんな所で……」
そんな痛みを受けて死にたくないと言うのが正直な気持ちだった。
このままふらついて食べられるのを待つくらいなら…。
「待つくらいならっ!」
痛みで限界の身体は、どこからそんな力が出てくるのか次には立ち上がり、まるで誰かが勝手に動かしているかのように目の前で大きく身体を広げて包み込もうとする赤血球の真ん前まで距離を詰める。
それは頭の片隅にあった無謀な賭けだった。
このまま待って死ぬくらいなら少しでも生きれる可能性があるだろうと考えた行動だ。
ただ自分が実際にそれを出来るのかと言えば答えはノーだった。
それをする前に勇気が余りにも足りないのだ。
勇気が足りないはずだったのだ。
なのに、何故。
次にはまるで自分の身体なのに他人事のように、片手を振りかぶって赤血球に殴りつける自分の腕が映った。
自分は今、何をしている?
これはホントに俺がしてるのか?
思考は纏まらない。
殴りつけた腕は赤血球の中に、まるで水の中に手を突っ込むような音を立てて沈み込んだ。
そのまま手の平を広げながら液体の中にある固体を探すように思い切り引き裂く勢いで振り下ろす。
次には、小指の端に当たった固形物の感触に気づいて、手の平がその固形物を捉え、思い切り握りつぶした。
熟れたブドウを潰すようなグチャリ…という音と感触が伝わった。
そのまま腕を引き抜けば、その固形物はやはり核だったのだろう。
赤血球は形を崩して弾け飛ぶ。
その様子がスローモーションのように、まるでアニメのワンシーンのようにゆっくり目の前で過ぎ去っていった。
「………はぁ…っ、はぁ……」
こんな荒々しい行動で魔物を倒せるなんて思っていなかった。
本当にこの行動を自分がしたのかと思う。
戸惑いの中、視線を上げればその様子は村長の娘も、見張り番の青年も見ていたのだろう。
二人とも振り回していた武器の動きが止まり、自身を囲んでいる赤血球の動きも止まっていた。
「なんで……………なんで……………死なないっ!」
次にはその時が止まったような沈黙を破って、まるで親の敵を見るかのように自身を睨みつけて、村長の娘が叫んだ。
その叫びに、見張り番の青年も、自分ですら理解が追いつかないまま見返すことしか出来ない。
「大人しく死になさいよっ!」
次には赤血球の間を通って凄まじいスピードでこちらへ武器を振りかぶりながら距離をつめてくる娘に上手く反応出来なかった。
それでも横殴りにされた感覚を覚えているのか横薙ぎに振られた薙刀から身体を庇おうと無意識に腕でガードをして少しよろけながら後ろに下がる。
「いっ………た………」
「姉さん!?何してるんだ!?」
同じように、赤血球の間をを縫って何とか村長の娘の後ろまで追いついた見張り番の青年が慌てて薙刀を掴んで次の攻撃を止めて叫ぶ。
その様子に理解が追いつかないまま、辺りを見渡すと赤血球はまるで糸が切れたように動かずに静止したままだった。
襲って来なくなった理由が分からないまま再び村長の娘に視線を戻しながら先ほどガードしたが為に痛む腕を抑える。
「離しなさいっ!私はこの男をっ!殺さないとっ!」
怒りで気持ちが収まらないのか見張りの青年の静止を振り切るように暴れると次には薙刀をこちらに向けてなりふり構っていられないような口調で更に言葉を紡ぐ。
「お前たち!早く殺しなさい!」
再びスイッチが入ったように赤血球が蠢き始める。
「………え?」
その言葉と赤血球の動きに戸惑いがちに見張り番の青年が声を漏らす。その表情は何か思い至ったような、考えたくない何かを悟ったような青ざめた表情だった。
そうか。
彼女は、ただの村長の娘じゃないらしい。
そう言えば、そのようなファンタジーな職業がこの世界にはあるんだったな。
それは奇しくも彼女自身から説明されたのだったか。
彼女は【魔物使い】で赤血球は彼女の【魔物】なのだ。
いつもご覧いただきありがとうございます。
遅筆ながらも楽しんで見てくださる方々がいるというだけでとても嬉しくまた光栄なことです。
実際のゲーム作成ではここまで複雑なストーリーではないのですが、やはりシナリオを小説にするにあたり大切な起承転結をもっと明確に物語として作成出来たらとかなり改変しておりますが、スピンオフのように見ていただければと思います。
未だに始まり終わる気配がないですが少しづつ更新していきますので気長にお付き合いして頂けると嬉しいです。
次回もよろしくお願い致します。




