第一部:ゴミ掃除
閲覧ありがとうございます。
やが君、アニメやばい。
よろしくお願いします。
拳に魔力を込め、腰を落とし、渾身の一撃を放った刹那。
「待てよ!お嬢ちゃん。」
怒りのせいもあるだろう。しかし、全く気が付かない間に、男達との間に見知らぬ男が割って入っていた。拳に衝撃が走り、周囲のテーブル上のグラスや部屋中の窓ガラスが粉々に砕け散る。
(やばい。殺しちゃったかも・・。)
一瞬で、冷静になった頭が、自分のしてしまった事の重大さを認識させる。
しかし、予想に反して、全力の一撃を受けた男は、ダメージを受けてはいるものの、ピンピンしている。寧ろ、岩盤を殴ったような痛みがミーシャの拳に走っていた。
「痛ってー。お嬢ちゃん。そんな格好してるのに、強いな。この俺がダメージを受けるなんて。」
背中を摩りながら、男は苦笑しながら言う。無理もないが女性と勘違いしているらしい。
高身長、イケメン、スーツが良く似合っている青年だ。
「今のあいつらに、放ってたら、確実に死んでたぞ。頭に来るのはわかるけどよ。加減も大事だぜ。」
そう言いながら、スーツ男は、白い歯を見せ笑う。
「ごめんなさい。つい・・・カッとなって・・」
殺人事件の容疑者の決まり文句みたいな言い訳が出てきてしまっていた。
「おう。それはさておき・・・・。お前ら覚悟は出来てんだろうな。」
「覚悟とは?」
金持ち男が言う。
「わからねぇのか。女にあんなこと言って、相手がどう思うかとか考えねぇのかよ。」
「私たちは、自分たちの、正当な権利を行使しているだけ。いくら相手が王族といえど、求婚する権利位はある。」
金持ち男は、まくしたてる。
「そういう事じゃねえんだよな。なあ、あんたらにとって愛・・いや、少し難しいか。結婚ってなんだ?」
イライラしているようで、結婚が期待できないのがわかったからだろうか、男たちは隠しもせずに本心を吐露する。
「出世の手段。」
金持ち男、論外な男が吐き捨てるように言う。
「女遊びの一環ですかね。あわよくば、王家と関係を持ち、遊ぶ資金も得られますし。」
軽薄な男が理解を得られるとでも思ったのだろうか、自信ありげに述べる。
「俺、女欲しい。王女様。ムラムラする。」
脳筋男が言う。こいつは単純に怖い。
「よーくわかったぜ。お前らがクズ野郎だってことはな。お嬢ちゃん。ちょっとゴミ掃除を手伝ってくれないか?」
スーツ男が男達と喋っている間に、傷心のミーシャを近くにいたメイドに預け、退室させといた。
スーツ男は、彼らへの対応について、結論を下したようだ。呆れ顔で、協力を求めてくる。
「いいよ。寧ろ、そっちが手伝いになっちゃうかも。」
「言ってくれるねぇ。」
瞬間、ほぼ同時に二人が構える。
取り敢えず、それぞれの正面の男を相手にするようだ。
こちらが、敵意を剥き出しにしていたからだろうか、相手の反応もはやかった。
それに、彼らも、腐っても貴族に連なる者たちだ。
「全能なる運命神よ、我、求む。大いなる危機より、我を・・」
ミーシャの正面の金持ち男は防御魔法を展開し始めていた。
だが、感情が高まり、能力が向上している。ミーシャの攻撃を防ぐには、遅すぎた。
腰を落とし、足をばねのようにし。半ば飛び込むように放たれた、魔力を込めた全力の拳が金持ち男の腹部にめり込む。金持ち男の口から空気が吐き出される。
衝撃を吸収しきれず、金持ち男は後方に大きく吹き飛び、壁に叩きつけられ、そのまま気絶してしまった。
スーツ男に一度、制止されたことで、心にあるのは、依然として、怒りの感情であるが、頭は幾らか冷静になっていたようで、殺さない程度には加減できていた。
一方、スーツ男の前に立つ、軽薄そうな男は、両国ともに正装としてスーツが認められているため気が付かなかったが東都海国側の人間であるようで、機械化された腕から長さ30センチメートルほどの金属の爪を展開する。
「この、爪は特注でしてね。アリエントの技術で造られたミスリルをふんだんに使い雷のエンチャントを付与、さらに、東都海の技術力によって毎秒5万回の振動をしているんですよ。これがどういう意味か分かりますよね?」
軽薄そうな男は、顔を歪ませ、爪にバチバチと雷を纏わせながら威嚇する。
「わからねえな。触ったら気持ちがいいのか?」
「減らず口も、そこまでですよ。懺悔するなら今ですよ。」
軽薄そうな男の敵意がグッと増す。それでもスーツ男は不敵な笑みを浮かべている。
「そっくり、そのまま返すぜ。御託は良いからさっさとかかってきな。」
奇声を上げながら、軽薄そうな男が突っ込んでいく。
スーツ男は避けない。いや避ける必要がなかった。
スーツ男を貫くと思われたミスリルの爪は、垂直方向に潰れ、丁度15センチほどの長さになってしまっている。
「馬鹿な!ミスリルだぞ。」
軽薄そうな男は驚きで目を見開く。
「気持ちよくもなかったな。」
そういうと、目の前で信じられないといった様子で、潰れたミスリルの爪を眺めている軽薄そうな男の脳天に拳骨を叩き込む。
鈍い音が鳴り、軽薄そうな男が床に倒れる。
「安心しろ。殺しちゃいねえ。」
スーツ男の戦闘に、先に戦闘を終えていたミーシャを含め、周囲の人々は釘付けになっていた。
残りは、二人だ。
論外な男の行動は、意外だったが、彼の性格を鑑みると、おかしくはないものだった。
「いやー。お見事、彼らの言動には、内心、私も反吐が出るほど嫌悪感を抱いてましてねぇ。私も、周りにつられて心にもないことを言ってしまいました。そうだ王女に謝れないと。」
などと言って、部屋から出ていこうと歩き始めた。本当に論外である。
ミーシャは、おもむろに、床に落ちていたメインディッシュの皿を拾い上げ、フリスビーの要領で、男の後頭部に投げつけ気絶させる。うまくいったのか脳震盪なのかはわからないが、とりあえず床に倒れた。
脳筋男は、意外にも、魔術も使えた。
ブツブツと何かを唱えると、何もない空間に手を差し込み、3メートル近くある自分の背丈ほどの大斧を取り出す。
周囲の人々は、恐怖に顔を引きつらせ、部屋の外、壁際へと一目散に散っていく。
「お前ら、強い。俺、本気出す。王女様。欲しい。」
本当に、単純に怖い。リリーがこいつと結婚させられるのを想像すると寒気がする。こんな奴でも、貴族なのだから、王女と結婚する可能性はあるのだ。王女や、国王が許すとは思えないが。リリーも強いが、過去の経験から男の悪意前では力を発揮できないだろう。
脳筋男はミーシャに向かって斧を乱暴に振り回してくる。攻撃が単調で、ミーシャの能力が向上していることもあり、避けられるが、ただ振り回しているだけなのに凄まじい風圧が巻き起こる。
今まで奴らとは、明らかに強さが異なるようだ。
「ふんっ!」
スーツ男が地に根を張るように、足に力を込める。
どうやら、受け止める気のようだ。何らかの能力で、防御力が高いのは、先ほどの戦闘などから確かなようだが、今回は危険な気がする。
スーツ男の意図を汲み取ったのか、脳筋男は不敵に笑いスーツ男のもとに向かう。
「お前、耐えられない。死ぬ。グフッ」
「俺は耐えられると思うぜ。」
脳筋男は物理的な力と魔力を込め渾身の一撃を放つ。顔や筋肉に血管が浮き出ている。繰り出されるであろう一撃は、本当にワイバーンを屠るに十分なように感じられ、脳筋男の発言が嘘ではなかったことが確信できる。
そして、全力の大斧による横薙ぎが放たれた。
部屋に耳をつんざく、金属音が響きわたる。
衝撃で、空気が少し揺れているようにさえ感じられる。
誰もが、両断されたスーツ男の姿を想像した。
しかし、ぶつけられた質量のせいか、少し、右側に立ち位置をずらされたものの、平然
と立っていた。
「まあまあだな。お嬢ちゃんの一撃の方が強かった。」
「馬鹿な。」
スーツ男は強がっているのかもしれないが、脳筋男は狼狽する。
ミーシャはこの隙を見逃さずに、すかさず、脳筋男の腹に潜り込み、岩盤のような腹部に一撃を叩き込む。
「ぐぬぅ。」
拳がめり込んでおり、明らかにダメージは入っている。倒れていてもおかしくはないが、脳筋男はまだ倒れない。よろめき、後ずさりしている。
脳筋男からの反撃の心配がなく、体勢を整えることができたため、一撃目よりも魔力が込められた鋭い一撃が叩き込む。
脳筋男は床に倒れ伏した。
タイミングを計ったかのように、王城の兵士たちが部屋になだれ込み、男たちをどこかへ連れて?運んで?行く。
どうやら、リリーが事情を説明してくれており、スーツ男とミーシャが連れて行かれることは無かった。
「お嬢ちゃん。強いな。名前は?俺は神宮寺 アレン。東都海の者だ。」
「ミーシャ。あんたも強いな。今日はどうしてここに?」
今日の式典に出席しているということは、少なくとも貴族、あるいは王族のはず、若しくは軍の関係者かもしれない。ここにいる理由がわかれば、素性もある程度わかるというわけだ。
「ああ。式に出席するためだ。一応、貴族なんでな。まあ、本当の目的は果たせなかったんだけどな・・」
「本当の目的?」
式への出席以外の目的、何だろうか?
「あんなことになって、言いだしづらいんだが、俺も、王女に気があるんだ。勘違いしないでくれよ!俺はあいつ等みたいにいきなり、結婚を迫ったりしない。あくまで今日は、お近づきになりたかったんだ。」
そういう、神宮寺の顔からは、さっきの大胆不敵さが消えうせ、恋などに過剰反応を示す中学生男子の様だった。
ってか、こいつもリリーに気があるの?
イケメン、高身長、性格も良い。
リリーのことを助けてくれたし、本当にいいやつかもしれない。
だが、百合豚としての本心はこうだ。
敵だ。百合恋愛をかき乱す可能性がある男は全て敵だ。
そうは思いつつも、悪意のない男の気持ちを、個人の趣味で邪魔するのは道徳的にいかがなものか、百合豚としての自分と、人間としての自分の間でミーシャの心は揺らいでいた。
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