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第一部:怒り

 閲覧ありがとうございます。

 見てくれて、うれしいです!

 よろしくお願いします。


 国同士の合併は、予想通り、何事もなく、速やかに進んだ。


 そもそも、事実、同盟によって連合国となり、現在の壁一枚のみで隔てられ、隣合うようになってから歴史上、数えるほどしか両国間で争いは起こっていないらしい。


 よって、国民も、いつかは合併すると思っていた人々が多く、反対する者は少なかった。


 そして、本日、行われる合併記念式典で両国の国王同士が合併を宣言することで、正式に合併が行われるという予定だ。


 王城内、王女の部屋。


 リリーは、初めて会った時のように、アリエント魔導国の王女の正装である白を基調としたドレスに身を包んでいる。


 正装に身を包み、髪を綺麗に梳かし、豪華な宝飾品を身に着けている姿を見ていると、普段は黒百合姫のことしか考えていない残念百合王女であることを忘れてしいそうになる。


「ちょっと、クレハ!ここ!少し癖が残ってる。直して!」


 リリーは、ほんの少し、癖が出てきてしまっている前髪を手で何度も撫でつけている。


「そのくらい。わかりませんよ。普段の公務ではそこまで気にしてないじゃありませんか・・」


 そう言いつつも、クレハは手早く、ボトルに入った癖を取る整髪料を前髪吹き付け、ドライヤーのような道具を使い、丁寧に乾かす。


「何を言っているの!今日は特別よ。合併の記念式典なんだから。」


 リリーの中身も(そういえば転生前の名前聞いてなかったな・・・)もともとのリリー王女の記憶も引き継いでいるにせよ、やっと王女としての自覚が出てきたのかもしれない。今回の式典の重要さを理解しているらしい。


「なんか王女らしいな。国同士の関係に関わる式典だから、いつもより張り切っているなんて。」


 何故か、リリーは「は?何言ってんの?」みたいな反応をして、ため息をつく。


「合併の記念式典なんだから、いくら普段、公の前に出てこないとしても、流石に唯ちゃん、いえ凪ちゃんも出席せざるを得ないでしょう?つまり、今回が確実に会えるチャンスなのよ!」


「なるほど・・」


 やっぱり、普段と変わらなかった。


「だから、見た目にいつも以上に、気を遣うのは当然じゃない!」


 クレハも、俺も、リリーの恋愛事情を知っているためか、意図を隠す気は全くないらしい。


 式典は、合併の話を持ち掛けた側であるアリエント魔導国の王城で行われた。途中の両国の交響楽団による生オーケストラなどは迫力があり見ごたえがあったものの、記念式典は本当に退屈なものだった。


 黒百合姫は、リリーと同様、東都海国の唯一の次代の王族の血筋であるため、演壇側から順に国王夫妻、黒百合姫というように座っており、同じく、国王夫妻に続いて座っているリリーの正面に向い合せに座っている。


 東都海国の国王は、黒百合姫の父親ではなく、祖父であり、父親と母親はすでに他界してしまっており、黒百合姫が幼かったため、再び国王の座についているらしい。


 ミーシャとクレハは召使に過ぎないため、もちろん席は用意されておらず、王族や貴族が連なっている列の後方、壁際に近い位置に立っている。


 同じ方向を向いているため、リリーの顔を見ることは出来ないが、姿勢などを見るにどうやら、きちんと冷静に王族の務めを果たしているようだ。


 一方、向かい合わせであるため、黒百合姫の様子は良く見える。


 まさに名前を体現したような細かな意匠が施された黒一色のドレスに身を包み、艶やかな黒髪は式典のために綺麗に後ろでまとめ上げられ、黒百合のコサージュを頭に着けている。鼻筋の通った整った顔に小さすぎない切れ長の目の中に、紫がかった美しい瞳が嵌っている。恐ろしく、美しいがどこか、仄暗さを感じさせる少女だ。


 確かに、前世で見た黒髪の少女とどこか似た雰囲気が感じられる。


 リリーが、一見すると明るく、開放的な気質の親しみやすい美少女だとしたら、黒百合姫は絶対的な美しさを持った、まさに高根の花といった感じの、触れてはならないと思わせるほどの美少女といった感じだ。

 要するに、超クール系美少女って感じだ。


 ちなみに、リリーはアホの子って感じである。高貴に振舞っていても、内面の残念さがにじみ出てしまっている。黙っていればマシだが。


 黒百合姫は、全く、リリーに目を向けず、全く興味が無いように見える。


 しかし、逆にその様子は意図的であるように感じられ、百合豚である俺からすると、意識しているのが丸わかりである。


 式典は、両国の国王が合併を宣言することで無事に終わった。


 式典終了の際に両国の王族は一旦退場する。


 控室、両国王族、貴族の顔合わせを兼ねた交流の場となっている談話室に戻ると、当初の予想に反して、リリーはさっそく、東都海国の貴族の男子達への対応に追われていた。


 合併により、王権が不確定になっているため、両国の血を引き継ぐ絶対的な王が生まれる前に、王族と結婚し、王権の担い手の候補になるつもりなのである。


「リリー王女、あなたは美しい!ぜひ僕と結婚してくれ。」


 軽薄そうな、何人の女性にその言葉を言ってきたのかわからない男が言う。


「いや、俺と、金は幾らでもある。なんたって、王家の財政を支援し支えているのは何を隠そうこの、私の家なのだから!言いたいことはわかるよね?」


 金に物を言わせ、人生を生きてきており、今まさに結婚まで金でどうにかしようとしている男が言う。


「金ない、でも力ある。ワイバーンも、俺、一捻り。結婚してくれー。」


 脳筋。まさに脳筋な男が言う。


「愛情は無くてもいい。ただ君の子供が欲しい。結婚してくれ!」


 論外な男が言う。


 リリーは、呆れはて、疲れたように言う。


「お気持ちは嬉しいですが、私には心に決めた人がいるので、結婚は出来ません。」


 リリーの前世はどうだったかわからないが、男嫌いで女性との恋愛に走る気持ちがわかる気がする。


 それでも、金持ち男は食い下がる。


「世迷言を。いくらだ?いくら出せば。俺の子供を身ごもってくれる?金ならいくらでも出そう。五年分の国家予算だって俺の、一声で出す事が出来るぞ!今日の見た目の気合の入り方からも期待していたんだろう?そんなにごねなくても、金は出すから安心しろ」


 少女の一途な思いまでも、踏みにじられる。髪の癖を直したのは、お前らの為なんかじゃない。


 論外な男も食い下がる。


「なんなら、君は思い人と結婚すればいい。ただその前に俺の子供を産んでくれ。さっき言ったように愛情は別にいらないんだ。ぶっちゃけ王族の子が欲しい。今はだめかもしれないけど、いつかチャンスが来るかもしれないだろ。」


 少女が欲しいのは、ただ一人の愛情だけなのに。


「酷い・・・」


 リリーは、そう呟くのが精一杯だった。


 このことは、リリーも覚悟はしていたことだ。これも黒百合姫に会うためには仕方がないことだとして。

 

 でも・・・・・。


 


 王女が求婚される可能性があるこの式典に臨むにあたりクレハに、元のリリー王女についての話を聞いた。


 天真爛漫だった幼き王女は、男達の悪意を知らなかった。優しいお兄さんや男友達、遊び相手に恵まれ楽しく健やかに成長していった。やがて王女は少女になり、身体的にも社会的にも結婚できる年齢になった。優しかった男たちは変わってしまった。結婚を断ると、投げかけられた言葉は残酷なもので、未遂に終わったが行為に及ぼうとするものもいた。


 こうして、王女は、表舞台から姿を消し、公務は魔術による影武者が行うようになった。男性召使も影武者の為に雇われた。王女本人は、男性である父親すらも入れない自室、王女にとっての楽園に閉じこもってしまった。部屋の中は女性召使のみ。


 王女は壊れていた。


 王女が道具としての、自分を忘れ、人間であることがわかるのは、女性召使と戯れている時だけ、王女と召使としての身分の差はあるにせよ。少なくとも彼女たちは王女を人間として見てくれた。いつしか、王女は彼女らを求め、彼女らも身分を超え、純粋に本心で王女を受け入れるようになった。精神的にも、肉体的にも。


 女性同士の愛は本物で気持ちいい。人間としての、私だけを求めてくれるもの。

 男女の愛は、偽物で気持ち悪い。男は私を道具としてしか見ていないもの。

 

 16歳の少女をこのように、至らしめるには十分なほど、少女の人生は残酷だった。


 壁外遠征などの激務に追われていた国王が、このことに気づいた時には、既に手遅れだった。今の優しい国王は、これに対する贖罪意識によるものかもしれない。

 

 クレハにこの話を聞き、元の王女の記憶を引き継いでいるリリーが男を嫌うのも仕方がないように思えた。二人の記憶が合わさったうえで、今のリリーの性格になってることを考えると、現世のあの明るい少女が印象通り、かなり明るい性格だったことが伺える。


 或いは、黒百合姫への思いが、この記憶を乗り越えるほど、強いのかもしれない。


 ビッチな百合発言も、元の王女を否定せず、今の自分の一部として、受け入れていたことの表れかもしれない。

 ただ、確実に言えることは今のリリーが本当に優しく、強いということだ。


 元のリリーの記憶による男性への嫌悪感、恐怖に耐えながらも、今、この場に立っているのだから。逃げ出してもおかしくない。




 男たちは不快な口の動きを止めない。


 限界だった。


 自分でも立場上、動くべきでないことはわかっている。


 しかし、百合豚であること以前に、人として。ミーシャ、もとい守は男達が許せなかった。見たところ、年齢も同じくらいであるため、もしかすると過去、直接的に王女を傷つけた者もいるかもしれない。


 そうでないにしても、自分達のような男たちが王女を壊したのにも関わらず、王女が転生により回復し、権力を得る機会を得た途端にこれである。全く、自分たちのしたことへの罪悪感、反省の気持ちを感じられない。もちろん、貴族であるため、元の王女の状態は知っていたはず、いや知っていなければいけない。


 体の中の力が明らかに増しているのがわかる。現在、心を支配しているこの感情のせいだろう。

 

 共感覚は使っていない。使えば冷静でいられないだろうから。


 人混みをかき分け、まっすぐにリリーのもとに向かい、前に立つ。


 自分達の話が遮られ不快感を露わにした男たちが何か言っている。大方、抗議や罵声だろう。リリーも「大丈夫だから!」などと言っている。



 なら、その涙は何なんだ?



 心の中で何かが外れた音がした。



 「ぶっ飛ばす。」




 読んでいただきありがとうございました。

 次回もよろしくお願いします。

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