表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第一部:恋は盲目

閲覧ありがとうございます。

よろしくお願いします!

 王城に来てから、約一か月が過ぎ、召使(護衛)の生活にも慣れてきた。


 しかし、リリーの護衛は想像よりも大変だった。


 とにかく、男嫌いで、黒百合姫のことしか考えていない。考えなしに行動するので、無事だったものの、何度、危ない目にあったことか。


 ぱっと思いつくものでは、「王女様、戦争を起こしかける」である。


 王族という身分上、行動が制限され、隣の国への移動にも幾つもの手続きが必要となる。


 黒百合姫に合いたい余り、国の国境にあたる内壁をよじ登ろうとして、王族なのにも関わらず、警備兵に追われてしまった。


 この行動が戦争に繋がりかねないのには訳がある。


 二つの国が壁一枚で隣接している関係上、連合しているとは言え、隣国による不法侵入、さらに言えば、攻撃される可能性が常にある。


 しかし、自国側から常に壁の向こうの脅威を想像しながら、警備するのは兵士の精神的にも、人員や設備費用的にも厳しいものがある。


 そこで、互いの国は、壁際を中立地帯に設定し、壁の向こう側、つまり相手国側に兵士を配置し、自国の警備を行う取り決めを結んだのだった。


 相手国で攻撃の動きがあった場合などは、すぐに連絡を受ける可能であり、いざとなったら自国側にいる相手国の兵士を人質にできるというわけだ。


 つまり、こちら側の壁を警備しているのは、相手国というわけだ。ただの市民ならまだしも、王族が不法侵入を企てたとなったらことだ。


 しかも、この一か月でわかったことだが、リリーは強い。


 少なくとも、今のところ護衛が必要ないくらいに。

 

 

 リリー・アスセーナ・リーリウム

【適正属性】火

【魔力量】 S

【魔力質】 S

【筋力】A

【敏捷性】B

【技能】E

【感覚】A

【特殊能力】魔術強化(火)、幸運

【容姿】S

 

 ステータスは、国の中でも5本の指に入ってもおかしくないほどだ。


 このステータスの高さの人間が侵入してきたとなったら攻撃と判断されてもおかしくはない。


 本当に見つからなくてよかったと思う。


 他にも、女の子を乱暴に扱っていた店の店主を燃やしかけたり、黒百合姫を悪く書いていた新聞社に乗り込もうとするなど枚挙に暇がない。


 つまり、本来の護衛的な意味での危ない目ではなく、社会的に、政治的に危ない場面が多かった。


 このような状況なので、はやく、リリーを黒百合姫に合わせて、その真意を聞かないといけないと、日々思いながら今に至る。

 

「はぁ。どうすれば黒百合姫に合えるのかしら。前の会談以来、外交行事に出なくなったらしいし、避けられているのは明らかよね・・・。」


 いつもこの調子だ。


「そんなことないのでは?ただ忙しいだけとかさ。」


「こっちの王女はこんなに、暇なのに、向こうのお姫様がそんなに忙しい訳ないじゃない。」


 そういうと、ソファーから起き上がり、呼んでいた本を放り投げ、クッキーを摘まみ、口に放り込む。


 奥の部屋で、本来、リリーがやるはずの文書類の記入などに追われているクレハの舌打ちが聞こえた。


 リリーは、失言したことに気づきバツが悪そうに話題を変え始めた。


「そういえばさー。前に、私が国同士を合併させようとしているって噂されてるって言ってなかった?」


「ああー。壁内に来るときの馬車の爺さんが言ってたよ。合併するから人員整理で、召使を解雇しまくってるって。まあ実際はアレだけど・・・。」


「あれとは何よ。仕方がないでしょ?」


 不機嫌そうに、ジトっと睨んでくるので目をそらす。


「まあ、いいわ。それ本当にやっちゃうのはどう?」


 やるも何も、もうみんなクビにしたじゃないか。何言ってんだ?的な顔をしたのが伝わったようだ。


「そっちじゃない。国の合併!」


「なるほど。合併って、難しいんじゃないの?それになんで?」


 リリーはよくぞ聞いてくれたとばかりに目を輝かせる。


「えーと。国のためになるからよ。アリエントと東都海は魔導と科学、別々のアプローチで発展しているでしょ?交易を通じて、日用品レベルでは共通なものが普及しているけど、インフラ?は別々だし、各々の国で苦手な分野を補い合えば発展すること間違いなしよ。それに、邪魔な壁だって取り払えるし。」


 政策関連の本でも読んでいたんだろうか?やけに王女らしい考えを言っている。


「よくわからないけど、いいんじゃないかな。国のためになりそうだし。」


「そうでしょ!」


 端末を操作しながら、お菓子を食べていなかったら完璧なんだけどね。


「国のこと考えるなんて、王女が板についてきたな!でも、合併した後に、うまくいかなかったら困るから、壁は残しといたら?」


「それはダメ!意味ないじゃない!」


 言ってから、しまったという顔をしている。


「なるほどねー。黒百合姫に会いたいから壁を壊したいわけか。」


「ばれた?」


 下を出し、ウィンクして、とぼけて見せる。


「でも、それの何が悪い訳?国のためになるのは事実でしょ?」


 開き直りやがった。


 ここで、今まで、静観を決め込んでいたクレハが口を挟む。


「失礼ですが、リリー様。国が合併するとなると精神的な国民の統合が求められると思います。」


「ええ。わかっているわ。王族の統合とかがいいかもね。」


「ええ。その通りです。相手国の王族と政略結婚とかしないといけませんね。」


「なっ?!」


 多分、リリーの頭の中では、黒百合姫とリリーが結ばれる想像でもしていたのだろう。


 しかし、普通は結婚とは男女の間でするものだ。王子はいないのでせいぜい、王族出身の貴族当たりとするのが順当といった所か。


「リリー様は、その後自慢の男嫌いを披露すれば、言い寄ってくる男など皆無そうですから問題ないでしょう。」


「失礼ね!まあ、男なんてこっちから願い下げだけど。」


 本当に心配なさそうだ。


「でも黒百合姫様はどうでしょうか?今の現状で、本当に黒百合姫様がリリー様を思っており、誰とも結婚しないと言い切れますか?自信がないのなら他の手を考えるべきでしょう。」


 リリーは「ヴー」とか「ン〜」だとか唸っている。頭では共感できるものの、諦めきれないようだ。一か月間あらゆる手を、散々考えつくしてきているのだから無理もない。


「いいと思ったんだけどなー。お父様に中止の連絡送らないと。」


「送ってしまったんですか!?」


 クレハが目を見開く。


 無理もない。普通はこんなアバウトな政策が通るはずがない。


 しかし、ここは中世のような王権が強い時代であり、その王は一人娘であるリリーを溺愛している。


 さらに悪いことに、両国から合併の話は前から出ていたが、それに反対していたのが何を隠そう、娘を大事にするあまり、娘の政略結婚を避けたい王その人だったのである。


 王自身は、合併をしないのであれば、王位継承まで時間的猶予があり、自分が死ぬまでに男子を設ければ済むと考えていた。


 リリーの端末から電子音が鳴る。


【親愛なるリリーへ パパより】

 合併の件、びっくりしたよ。まさかリリーからこの話が来るなんて。

 リリーの国を思う気持ちにはパパ感激しちゃったよ。

 東都海の方にも話を通しておいたから、明日には、返事が来ると思うよ。

 まあ、反対していたのはパパだけだし、合併は決まると思うけどね。

 楽しみにしててね!


 遅かった。


「やってしまいましたね。まあ仕方がないです。」


 リリーは放心状態で、「唯ちゃん。今は凪ちゃんか・・・結婚しないよね・・・」などと呟いている。


 決まってしまったことは、仕方がない。二人が望まない障害が出てきたら対応するだけだ。


 仕事、増えそうだなあ。





 東都海国

 とある木造の高層ビルの最上階の一室。


「ついに、この時が来たぞ。我が息子よ。」


 いかにも、高貴そうな服装に、そぐわない卑しそうな顔をした男が声高らかにのたまう。


「はい。父上。」


 高身長、イケメン、スーツが良く似合っている青年が、跪く。


「我が、神宮寺家の悲願。達成のまたとない好機ぞ。」


「わかっております。必ずや。リリー・アスセーナ・リーリウム様と結婚して見せます。」


「お前の、容姿、才覚ならば、問題なかろう。」


「はっ」


「期待しておるぞ。」






 高層ビルの窓から、30メートル程、離れた空中


 漆黒の闇の中、一人の少女が浮遊している。


 漆黒のドレスが、風になびく様は、恐ろしいほどの美しさを感じさせる。


 少女は呟く。


「本当、馬鹿ね。人の気も知らないで」


 




 


 

 


読んでいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ