第一部:能力検査
閲覧していただきありがとうございます。
今回は壁内へ行く準備回です。
よろしくお願いします!
二日後。
待ちに待った時が来た。
「今日、審査を受けるのは・・・。全部で5名か。」
普段は存在しない豪華な装飾の施された天幕の前で、面倒そうに、いかにも役人面の男が言う。
「識別番号を言うので、該当するものは天幕の中に入り、測定水晶、汎用物理的能力測定器、天命指名機の順に使用して、検査を受けるように」
「まずは、α348。」
どのように分けられているのかは知らないが、識別番号α系統は守しかいなかった。
返事をして、天幕の中に向かう。
左から順に、測定水晶、汎用物理能力測定器、配属指名機の順に並べられている。
測定水晶は、魔力的な能力とステータスを図る道具だ。
木製の台座の上に浮いている中央の直系30センチメートルほどの水晶玉に触れることで、触れたものの能力、ステータス、魔力的な特性などを横に配置された水晶ペン式の魔導印刷機で出力してくれる。
測定水晶の前に立ち、水晶玉に手で触れる。
一瞬水晶玉に光が灯る。
横の魔導印刷機のペン先が独りでに動き出す。
内心、守はワクワクしていた。
(神に頼み込んで、百合カップル達を守れる能力を付与してもらったんだ。百合カップルには、何かと多くの困難が振りかかるのが常識。つまり、ある程度の能力が確保されているはずだ。最初に苦難はあったが、俺の異世界充実ライフはこれからだ!)
カシャンといった無機質な音を立てて、魔導印刷機から、切り離された紙が、宙に舞い蝶のように、ヒラヒラと手元まで漂ってくる。
「どれどれー。」
【適正属性】光
【魔力量】 G
【魔力質】 G
【特殊能力】該当なし
【総評】 魔力の量、質ともに、平均以下です。属性は光なので、心の綺麗さは確かなようですね。特殊能力は該当するものはありません。魔術的な世界での活躍は難しいため、心の綺麗さに自信をもって心の穏やかな一市民(笑)として、がんばって生きていきましょう(笑)。
絶句である。
魔力量や魔力質、また身体的能力も、9段階で評価される。一番上がSSランクであり、Cランクが平均ランクだ。つまり、Gランクは最低ランクだということだ。
(どういうことだ。あの神、マジで俺をはめやがったのか・・・・。)
総評を繰り返し読んでいたら、目の奥がツーンと痛くなってきた。
泣きそう。
先ほどまで、浮かれていた自分が馬鹿らしく、恥ずかしい。穴があったら籠りたい。
落ち込んでいると、役人面の男が気まずそうに語りかけてくる。
「まだ、次があるからさ。頑張ろう。な?後ろの人たちも待ってるよ?頑張ろうよ!」
余計な気遣いが、より自分を一層みじめに感じさせる。だが、形だけでも気遣ってくれたのがうれしく、つい口から、弱々しい返事が出てきていた。
「うん・・・。頑張る。」
役人面の男の顔が少し赤らんだのが、気持ち悪いので、見なかったことにする。
気を取り直して、隣の無機質な機械の前に立つ。
ゴウン、ゴウンと音のなっている機械は一見すると体重計の前方にプリンターが取り付けられたような見た目をしている。どこから音が鳴っているのかが謎だ。
先ほどのショックから、恐る恐る機械の上に乗る。
ピピッという音が鳴り、プリンター部分から勢いよく顔にめがけて、紙が射出される。
「ぶへっ。」
これでもかというような適当さで紙が顔面にクリーンヒットする。
期待せずに、紙を無言で見てみる。
【筋力】E
【敏捷性】E
【技能】E
【感覚】C
【特殊能力】該当なし
【容姿】S
【総評】あなたの12年間は無駄ではありませんでしたね。農作業における努力が実り、総じて最低レベルよりも、能力がありますよ。あっ、感覚のステータスは健康な人であればCになるので、別に高い訳じゃありませんよ。残念でした(笑)。容姿はSですが中性の平均です。その容姿を利用して、みんなに可愛がってもらいましょう(笑)
もはや、何の感情も湧かなかった。
完全に騙された。あのクソ神に。
「うちで養ってもいいんだよ?可愛いし。使用人としてさ!」
役人面の男も、もはや愛玩動物のように扱ってくる。
(もうだめだーーーー。こんなことなら本当に、百合カップルを眺められる女子学校の中庭にある石ころか、教室の壁にでもなればよかった・・・・。)
なんの感情も湧かず、フラフラとした足取りで、最後の機械のもとに向かう。
最後の機械、は、能力や性質の情報の結果、神の意思などを総合的に判断して決定された、壁内に戻った後の身分や配属先といういわば、「天命」を示してくれる機械だ。
今までの機械と異なり、悪趣味な笑顔の銅像が直接、結果を述べるようになっている。
「えー。君には、アリエント魔導国の王女の召使になってもうらから、そのつもりでいるように、身分は平民、口答えはするなよー。これは命令だ。万が一、失敗したりしても、私には一切責任はないからな!」
どこぞのパワハラ上司の様な口調で辞令、もとい「天命」を告げてくる。
(ちょっと待てよ?今、王女の召使って言った?!低能力のこの俺が?)
「なっ。君が王女の召使?機械の故障か?」
役人顔の男は、あり得ないとでも、言いたげな様子で天命指名機を叩こうとする。
「無礼者!上司である私に歯向かうつもりか!恥をしれ!」
天命指名機は正常なようだ。故障すると、気弱な部下のような態度になるらしいからだ。
「正常だ・・。疑問は残るが、天命は本当のようだ。うちの使用人にできなくて残念だ。」
冗談だと、思っていたのだが、本当に役人面の男の顔は残念そうだった・・・。
心底、この役人の使用人などの天命が出なくて良かったと思う。愛玩動物よろしく、可愛がられるところだった。
こうして、この低スペックで王女の召使などが務まるか心配だが、何とか無事に壁内への移住をすることができることになった。
複雑な心持で天幕を後にした。
暫くして、全員の検査が終わった。
結果は、貴族の養子だとか、飲食店のウェイトレスなど様々だった。
γ47は辺境警護部隊の隊員、身分は平民だった。能力値も全体的に平均より上であり、自分との差に、少し悔しく思う。
「すごいな。γ47は、辺境警護部隊とか、軍の師団長候補じゃん。それに能力値も高いし・・。」
天命の内容は兎も角、能力値の差に何とも言えない、落胆を覚えた。
「でも、α348は王族の召使になるんだから、もっと自信持たないと、なかなかなれるものじゃないよ?」
「そうかぁ?聞くところによると、歴代の王女って召使30人位いるらしいよ・・。」
それに、王女という身分、個人的なイメージや知識からすると、許嫁とか政略結婚だとかで、すぐに男とくっつくイメージがある。これでは、百合展開は期待できそうにない。もっと女子学園の職員とかが良かった。
「それが、そうでもないらしいよ。前に、壁内から来た役人が話しているのを聞いたんだけど、今の王女様、リリー・アスセーナ・リーリウム様は、何故か召使を余りというか、全然仕えさせていなくて、今は一人しかいないらしいよ。天命も余り下らないらしいし」
「まじか・・・。」
どうせ人数多いから大丈夫だと思っていたが、少しやばそうだ。
でもどうして?なぜ召使をあまり雇わないのだろうか?
「まあ、お互い頑張ろうよ!」
「そうだな。」
明朝、慌ただしく、それぞれが壁内へと旅立っていった。別れの挨拶すらできなかった。
今となっては、この壁外での生活も名残惜しく・・・・ならなかった。
ただ、一番近くで苦楽を共にしてきたγ47との別れは少し寂しい感じがした。
さようなら、また逢う日まで。
読んでいただきありがとうございました。
次回、やっと前世の少女達を登場させられそうです。
ストックが尽きてしまったので、更新は明日か明後日になりそうです。
次回もよろしくお願いいたします!