第一部:異世界転生、こんなはずじゃなかった・・
閲覧していただきありがとうございます!
なかなか百合展開に入れません(泣)
今回から、転生後の話に入ります。
少し設定などに触れていきます。
よろしくお願いいたします。
ザック、ザック
畑を耕す鍬の音。
ガァーガァー
けたたましい鳥の声。
見渡す限りの、畑?荒野?にはこれ以外の、音がない。
「そろそろ、休憩にしよう。」
「「「はーい。」」」
幾つかの、抑揚のない返答が、聞こえてくる。
食事も最小限、食べるというよりも、胃に押し込むというのが正しいかもしれない。
中性。
これが問題だった。
転生後の世界。魔導文明と科学文明が併存する世界。
この世界では、この二つの相反する文明が、とある事情から、直径約100キロメートルという壁の中の少ない可住地域で連合国家を築き存続している。
しかし、狭い範囲に人が住むと、様々な問題が生じてくる。
特に大きな問題が、食糧問題だ。
この解決には、食糧生産量の増加という解決策が望ましいがそれには多くの労働力、土地などが必要となる。狭い壁内では不可能だろう。また、仮に、これを技術進歩などで解決すると、今度は別の問題が生じてくる。
食料が足りるようになると、必然的に、余裕が生まれ、人口が増加する。つまり人口密度が上昇する。都市の生活が不自由になっていく。
大昔の王たちは考えた。
食料増産のための土地は足らず、労働力も足らない。しかし、仮に、技術で、これを解決したとしても都市の人口密度が上がってしまう。
「新しい土地で食料作らせれば、全部解決じゃね?」
そこで、目をつけられたのが、中性の人々だ。
彼らは、生殖能力を持たず、身体的特徴、精神的傾向も平均的。特徴に乏しいのだ。従って、国家の存続といった観点からは、男性、女性に比べて、存在意義が薄いと判断されてしまった。
約3割ほどの確立で生まれる中性の人々は、生まれた直後に壁の外の施設に送られる。
そして、食糧生産や、社会生活を営む上での最低限の知識だけを与えられ、5歳位から農作業を中心とした労働に従事させられる。実際は、食糧の生産の方に関しては余り期待されておらず、口減らし、人口密度の維持の意味合いが強い。
こんな、不条理がなぜ、まかり通るのか?
魔導文明であるアリエント魔導国の言い分はこうだ。
中性は神による罰を逃れている。
男性と女性は、生きているだけで、性欲などの苦悩という罰を神から受けているが、中性にはそれがない。従って、労働によって罰を平等に受けなければならない。
科学文明である東都海国の言い分はこうだ。
中性は生産性がない。
男性と女性は、子をなし国家を支えるという点で、中性に比べて生産性が高い。よって中性は壁外での労働によって、生産性を埋め合わせる事が出来る。
クソみたいな話だ。もはや屁理屈に近い。しかし、伝統となっているため不自然に思う者が少ないのが現状だ。
というわけで、転生後から守は約12年間、苛酷な労働、食事、睡眠しかしていなかった。
(クッソ。あの神、絶対わざとやったろ。)
しかし、悪いことばかりではない。転生前に神が言っていたように中性は基本的に女性に近いのだ。さらに、生まれながらに集団生活を円滑に行い、自然の中で素朴に生きてきたため、素直で純粋な者が多い。無意識的にスキンシップも多く、見ようによってはGL、もとい百合模様である。
現に、目の前でも、手が泥だらけだからといって、ナチュラルに、「はい!あーん。」だとか「口が汚れてるー。拭いてあげるねー」などと繰り広げている。
(やっぱり、百合恋愛のような同性同士の禁じられた恋愛ゆえのいじらしさ、切なさなどの深みは無いにしても、可愛いもの同士が純心にイチャイチャしているのはいいなー。)
だがしかし、前世で見た百合作品や、最後の日にみた光景に比べると「尊み」が薄い。どうしても、もう一度、あの時も様な感情を味わいたい。それまでは死ねない。
「この生活も、2日後には終わるかもしれないんだね?α348」
くだらない思考の世界から、現実世界に意識が引き戻される。
α348は守の識別番号、もとい名前だ。生まれてすぐに壁外に送られるため、中性に名前は無く識別番号がその代わりとなっている。
「そうだな。γ47。自信はあるの?」
γ47、壁外での生活を共にしてきた、親友とも呼べるやつだ。
「あんまり、無いかな。でも全力で臨むよ。」
「だな。お互い全力を尽くそう。」
現在、壁内の人口は心配されたほど多くなく、減少傾向だ。
壁外にいる人々は、12歳になったら順に検査を受け、その結果に従って、壁内に戻っていく。
それぞれの国が言うには、罰を十分に受けたとか生産性の埋め合わせが終わったということらしい。
一時的に外で生活する期間を設けて、実質的に壁内の人口密度は余り上昇させずに、国の人口を増やしているようなものだ。
男性、女性は安全な壁内で成長し、中性はモンスターに襲われることもある壁外で危険な幼少期を過ごさなければいけないが。
「でも、本当に運が良かったよねー。12歳になれて・・・。β7。Δ97・・・」
「あいつらの分も、頑張って生きような。」
γ47は、今までに、死んでしまった親友の名を呟く。
昨年の収穫の時期、なぜか、この辺の地域にいるはずのないワイバーンが農場を襲撃し、多くの子供たちが亡くなったのだ。
守は、ただ、頭をやさしく撫でてやったりすることしかできなかった。
ああ、なんで俺の転生生活はこんなことになっているんだ?
こんなはずじゃなかった・・・・。
読んでいただきありがとうございました。
異世界での生活は想像よりも苛酷なものでした。
次回、壁内へ行くための検査(能力測定)をします。
次回もよろしくお願いいたします!