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第一部:答え

見ていただきありがとうございます。

今回、少し、わかりにくいかもしれません。

誤字報告確認しました。本当に助かります。ありがとうございます!

誤字が出ないよう努力します。これからもよろしくお願いします!

 テーブルに紅茶とお菓子が用意されていた。


 しかし、紅茶は、その役目を果たせずに、ただ冷たくなっていく。椅子を使うものはいない。緊張感からだろうか、向かい合う形で両陣営が立っている。 


「久しぶり。唯ちゃんなんだよね?」


 リリーが話しかけるが、凪は反応しない。


「あの時、はっきり言えなくて、引かれちゃうかもしれないけど、お姉ちゃん、唯ちゃんのことが好きなの!」


 凪は、依然として反応しない。


「そもそも、女の子同士がダメなのかな?」


「前も言ったけど、もう私に関わらないで。あなたになんて興味ないの。」


 反応を示した凪の言葉には取り付く島もない。


「興味がないのはわかったわ。一つ確認していい?あなた唯ちゃんなのよね?」


 前回は突然の拒絶に驚き、何も言えなかったが、ある程度このような状況になることを想定していたため、リリーは食い下がることが出来た。


「違う。私は黒百合凪。東雲唯の記憶を持った黒百合凪。だからあなたが知っている唯ちゃんじゃない。」


「意識が凪ちゃんなのはわかったわ。でも覚えているんでしょ?前世で私と過ごした日々も、あの日のことも。」


「うん、覚えてるよ。私があなたと過ごした日々も、死んでしまった日にやっと自覚した感情もね。」


「だったら、興味ないなんて言わないでよ・・・。なんでよ・・」


 リリーは今にも、泣き出しそうだ。


「ろしたから・・・・。」


 凪が俯き、何かを呟く。声が掠れてよく聞き取れない。


「えっ?」


「殺したから。あなたがリリーちゃんを!」


 顔を上げた凪の顔は怒り、悲しみの感情に歪んでいた。


「何を言っているの?私がリリーよ?」


 リリーは理解が出来ず、ただ戸惑う。


「被害者ぶるなよ。泣きたいのはこっちなんだよ!あなたが、転生してリリーちゃんを消したんだ!身体がリリーちゃんでも、あなたなんかリリーちゃんじゃない!リリーちゃんから出ていけ!」


 凪は、封を切ったように感情を露わにし、叫ぶように言う。その様子はまるで子供のようだった。


「私は・・・。」


 リリーは予想もしていなかった拒絶の理由を知り、呆然とする。


「私は黒百合凪。リリーちゃんは、私を初めて人間として、友達として見てくれた女の子。東雲唯の記憶は、前の会談の時に思い出した。だから私は、黒百合凪で、東雲唯じゃない。黒百合凪である私は、リリーちゃんを消した東雲理沙を許さない。これでわかったよねー?!」


 凪は、自分がリリーを拒絶する理由を叫ぶ。


「そんな・・・・。私が、リリーを・・・。リリーは私じゃない?」


 リリーの転生の場合、東雲理沙の意識と記憶を持ちながら転生し、眼を覚ますと過去の記憶を用意されたリリーという存在になっており、人生の途中から転生人生が始まった。


 つまり、転生し、中身は違うという意識はあったものの、自身がリリー本人であると思っており、元のリリーの人格が存在したという事を想定していなかったようだ。


 これは、ミーシャも想定していなかった。当然、東雲理沙である今のリリーは、元のリリーの人格の存在を想定しているものと思っていた。思い返すと、本人も元のリリーの人格を意識している様子はなかった。


「それじゃあ、私の記憶にあるあの凄惨な日々を実際に経験してきたっていうの、元のリリーは・・・・。あの記憶は神様が用意したものじゃなかったの・・・・。」


 リリーは事実を知り、ショックを受け床に座り込んでしまった。


 東雲理沙であるリリーは、全てが用意された記憶に過ぎず転生の際の設定の一部に過ぎないと考えていたようだ。


「わかったでしょ?あなたはリリーを殺したの。確かに、私の記憶には大好きだった理沙ちゃんの記憶もあるよ。でもそれ以上に、凪である私にとってはリリーの方が大事。」


 リリーは座り込み、俯き返事をしない。


 転生した段階で、一人の人間の人格を消してしまったことを知ったのだ。その罪悪感は計り知れない。


 凪は立ち上がり、リリーの方へ歩いていく。


「だからね・・・。殺させてよ。」


 凪の瞳は暗く曇っている。にもかかわらず、その瞳からは涙が流れていた。


「興味ないって言ったのに、近づいてきてほしくなかったのに、目の前に大切な人を奪った人間がいたら耐えられると思う?」


 神はどれだけ残酷なんだ?


 ミーシャは、こんな形で、二人を転生させた神を恨んだ。


 愛する者のため、復讐で愛するものを殺す。


 こんなことがあっていいはずがない。誰も救われない。


 「あなただって!あなたが黒百合凪なのだとしたら、前世の東雲唯の人格は消えた、いえ消されたも同然じゃないですか?それに、今のリリー様が意図して、前の人格を消したわけじゃないでしょ?」


 クレハは耐えられなかった。主人に降りかかる理不尽に。クレハが動かなければミーシャが動いていただろう。


 「違う。本当はわかってるよ。確かに目の前のお姉ちゃんのことを好きで、好きで、堪らない私がいる。」


 「だったら!」


 クレハが叫ぶ。凪が言葉を繋ぐ。


 「これは確かに東雲唯としての感情。でも、それ以上に・・・・。凪としての私が許せない。」


 凪は泣いていた。確かに、凪の中の東雲唯は泣いていた。


 ゆっくりとした足取りだったが凪はリリーの目の前までたどり着く。


 部屋中が緊張に包まれる。


 ミーシャは足に魔力を込め、クレハは袖に隠し持っている暗器をいつでも扱えるように身構える。


 東都海側の兵士と神宮寺アレンも身構えていた。


 凪の手が、リリーの首に触れそうになった時、俯いていたリリーが顔を上げた。


 リリーは涙を流しながら笑っていた。


「良かった。本当に良かった。」


「何が?」


 思いがけない言葉に、凪は怒りを覚えながらも、リリーが何を言うのか、聞くようだ。


「私はあなたの大切な人だったリリーじゃないから、本当のことはわからない。だけど、私の中にある彼女の記憶が、彼女の人生そのものだったとしたら、彼女は絶望しか感じていなかったと思う。この世の全てに裏切られ、多分、感情も失っていた。所々思い出すことすら出来ないのよ。ただとても大切な人に裏切られとても悲しかったことは覚えている。」


 思い当たることがあるのか、凪の顔が苦悶に歪む。


「私のせいで彼女はもういない。だけど、これだけは言える。あなたがいた。彼女にはあなたが。彼女のために、前世で姉であり恋人になりつつあった、私を殺してでも、彼女を思って、復讐を果たそうとするあなたが。」


 リリー、いや、東雲理沙は嗚咽を堪えながら、言葉を続ける。


「こんな風に、転生しちゃって、ごめんね。唯ちゃんの、記憶のせいで、つらい思いをさせて、ごめんね。凪ちゃん。」


 リリーは立ち上がり、腰から護身用のナイフを取り外し、手に取る。


 思わず、ミーシャは飛び出しそうになるが、あり得ないことに、クレハの暗器が首元に添えられ、動けない。


「クレハ、何を・・・。」


「待ってください。リリー様の思いが凪様に伝わるかどうかを。安心してください。いざというときは本気で止めます。」


 クレハの言葉に東都海国側の警戒が一層高まる。


「殺して。あなたの大切な人を、奪った私に、幸せに、なる権利なんて、無いわ。唯ちゃんに、なら、いえ、凪ちゃんに、なら、殺されてもいい。」


 リリーは呼吸を整える。


「リリーちゃん。羨ましいな。私も、次に生まれ変わるなら、こんな風に、あなたに想われる、私に、生まれたいな。好きだったよ。」


 そう言って、嗚咽を堪えながらも笑顔を崩さないで、ナイフを渡そうとする。


「馬鹿。馬鹿。馬鹿・・・・。殺せるわけないよ。こんなにも、会ったことないリリーちゃんのことを想える人を。こんなにも黒百合凪を想ってくれる人を・・・。」


 ナイフが床に落ち、リリーは思いがけない抱擁を受ける。


 リリーの目が驚きで見開かれ、閉じられ、涙が溢れだす。その涙の理由は、変わっていた。


 ミーシャと、クレハも警戒を解き、涙を流していた。


 凪は、思い出した前世で好きだった姉であり、恋人であった理沙のことを。


 正確には認めることが出来た。復讐の憎悪と同時に感じていたリリーである理沙への好意を。

 

 だが、それ以上に、目の前の少女の想い、行動に心を打たれた。


 私は、私が誰だかわからない。


 東雲理沙を好きな東雲唯の生まれ変わり。


 リリーを消した理沙を憎む黒百合凪。


 どちらをとっても、もう片方の自分が納得できない。


 

 納得できるはずが無い。どちらも黒百合凪なのだから。


 選べるはずがない。どちらも黒百合凪なのだから。


 

 だから、今、この瞬間の自分の感情に従おう。


 東雲唯として、東雲理沙である目の前の彼女が好きだ。

 黒百合凪として、目の前の彼女を許せる。


 答えは出ていた。

 

 今、この瞬間、目の前の少女に思いを伝えよう。

 

 東雲唯として、愛する姉であるこの少女に。

 黒百合凪として、自分が消してしまった少女のため涙を流し、命を投げ出すのも厭わないこの少女に。


 殺されても構わないほど、今の黒百合凪を想ってくれる今のリリーに。

 

 

 呪いなんて、気にしない。気にしていられない。


 伝えたい。


 今度こそ、大丈夫。

 

 「私も好きだよ。リリー。」

 


 


読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします!

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