第一部:再会
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次の日の朝。
朝起き、自室からリビングにあたる大部屋に向かうと、リリーとクレハが何やら言い争っている声が聞こえてくる。
今出ていくと、面倒そうなので、様子を伺う。
「クレハ!また、ここ。跳ねてるー」
「はぁー。仕方がないでしょう。髪の癖が強いんですから。個性として受け止めましょうよ。」
もうすでに、何回かやり直した後なのだろう。クレハの表情からは疲労と、苛立ちが見て取れる。端正な顔が、歪むさまは、前世で見たギリシャ彫刻を彷彿とさせる。
つい先日見た光景にデジャヴを感じる。
「嫌よ。対人関係は、初対面の見た目の印象が大事なのよ!」
「初対面の見た目の印象って、そもそも初対面じゃないでしょ?。」
「初対面じゃなくても、大事なの!」
意外とリリーはこういうところでは頑固だ。いや普段から他でも頑固かもしれない。
「あっ。そうだ。リリー様。ミーシャに聞くところによると、ちょうど今、跳ねてる髪はリリー様達の前世では、アホ毛っていうらしいですよ。なんでも、これに萌える?方々がいるそうじゃないですか?可愛いですよ。」
リリーの顔が少し笑顔になり、顔や上半身を動かし、鏡に映る自分を様々な角度から見ている。もう一押しといった所か。
「ほら、華やかで、高貴な印象を受けるリリー様の服装に、アホ毛が足されることで、美しさの中に『あれーこんなに気合入れて身なりを整えているのに髪の癖は取り忘れちゃったのかな?うっかりさんだなー』的な、親しみやすさ、愛らしさが足されて、寧ろ完璧じゃないですか?」
クレハは、最早、吹っ切れて明らかに悪ふざけしている。普通の王女なら怒りそうなところだが、リリーは違った。
「確かに、その通りかもしれないわ。親しみやすさは大事だわ!私に足りなかったのはこれかもしれないわ。助かったわ、クレハ。あなたのおかげでうまくいきそう!」
リリーは、満面の笑みで、クレハに感謝の意を伝える。昨日のナーバスが嘘のようだ。
一方、クレハは、表情を取り繕っているものの、、口角が上がり、腹がプルプルと震えていて、明らかに笑いを堪えている。
「お気に召されてフフッ・・良かったです。」
「おはよう。確かに、似合ってるよ。キャラが際立ったと言うか。あるべき姿になったというか。」
話が落ち着いたようなので、出ていくことにした。
「ありがとう。おはよう。遅かったわね。朝食の前に馬車の手配よろしくね。あるべき姿?」
「おはようございます。」
二人から、挨拶が返ってきて、ポッドからカップに紅茶を注ぎ、一気に飲む。あるべき姿の詳細を伝えると怒りそうなのでスルーする。
「リリー。馬車じゃなくてもいいか?」
合併してから、10日余り、商人をはじめとした国民は兼ねてより、合併を望んでいたため、今までは規制されていた日用品以外の両国間の商品の取引は驚くほど活発だった。
「わかった。楽しみにしててくれ。」
そういって、王城の門近くの馬車や乗り物の管理をしている施設に向かう。
「おはようございます。今日、王女様が外出するので自動車の手配お願いします。」
「馬車でなく、自動車ですか?確かに、昨日、入庫されましたけど練習などしなくても大丈夫ですか?」
「はい。慣れてるんで!」
少し戸惑った顔で、役人が車の鍵を渡してくる。
「気を付けてくださいよーーー」
車庫に向かう途中も、念入りに後ろから忠告を投げかけてくる。
自動車、科学が発達した東都海国で一般的に流通しているものだ。
東都海国の技術力は兵器などの特定の分野では前世の日本よりも優れているものの、概ね前世と同じくらいのレベルのようだ。
アリエント魔導国でも、似たような魔導式の乗り物があるが、動力となる魔水晶が高価であり、中長距離移動の手段としては魔導列車があり、自然と近距離の移動に用途が限られ馬車で事足りることがわかったため、普及しないどころか作られなくなってしまった。
自動車は細かな意匠などは前世のものと異なるものの、セダンタイプの自動車そのものだった。艶やかな黒いボディからは高貴さを感じられる。
乗り込んで一応、説明書を読み、前世の物と運転方法などが変わらないことを確認して、鍵を差し込み、捻ると重く低い鼓動が響き渡る。王族だけあって高級車だ。
「うわー。テンション上がるなー。新卒の時、見え張って型落ちの普通車買って以来、維持費とかにウンザリして、二台目からは軽自動車だったからなー。」
車の大きさの違いはあるものの運転の感覚も前世のものそのものだった。
取り敢えず、城門の路肩に前に車を止め、王女の部屋に戻る。
部屋に戻ると、丁度、朝食の準備が終わったところだった。
三人で席に着き、クレハが作ったベーコンエッグなどの料理を食べ始める。
「車、手配しといたぞ。いつもより酔わないと思うから、今日はうまくいくと思う
よ。」
「ありがとう。別に、私、いつも酔ってないわよ。」
「そうだったっけ?」
いつも、酔ってるのは、自分だった・・・・。
壁内への、移動の時は長時間の移動で体が慣れていたのだろう。壁内に来てからは馬車に乗ると、とても気分が悪くなるのだ。実際、自動車を配車してもらった主な理由はこれだ。
そのあとは、取り留めのない会話が続き、完全に日が昇り、町が活気づいてきたころ、いよいよ黒百合姫との約束の時間が近づいてきた。
城門に止めておいた自動車に乗り込み、目的地を目指す。
リリーは前世で見慣れているので、少し驚いてから、普通に乗り込む。
意外にも、クレハが乗り込むのを躊躇っている。
普段は優秀万能流メイドのクレハでも、流石に始めてみる乗り物に乗るのには戸惑いを感じるのだろうか。
「大丈夫だよ。クレハ。多分、事故とかに関しては馬車よりも安全だと思うよ。」
「いえ、情報として、東都海の自動車は存じてます。その安全性も・・・。」
「じゃあ、何で躊躇うの?」
自動車の安全性を知っているなら、戸惑うことは必要はないはずだ。
「あなたです・・・。なぜあなたが当然のように運転席に座っているのですか?」
「なぜって、前世で運転してたから?」
「本当に、運転していた。いえ、出来ていたんですか?今までの仕事ぶりから不安なんですが・・・。」
本当に、クレハの俺に対する評価は厳しい。能力による力の制御が出来ていなかった初期の失敗のせいだろう。リリーの言う通り、初対面の印象って大事だなー。
「リリー様。五分ほどお時間を頂いてもよろしいですか?」
「ええ。早めに準備しているし、いいわよ。」
「ありがとうございます。」
そういうと、クレハは先ほど、ミーシャが一応の確認のため読み、助手席に置きっぱなしにしていた説明書をペラペラと捲る。それを3分ほどかけて数周終えると、説明書を閉じる。
「操作方法は、大方把握しました。」
信じられない。えっ?嘘でしょ?流石にクレハでも・・・。
無言で、手を差し出してくる。鍵を渡せという事だろうか。
「流石に、無理でしょ・・。今回は俺が運転するよ。」
「いいえ。問題ありません。」
こうなると、クレハも意外と頑固だ。
「どうなっても、知らないよー。」
「どうもなりません。」
クレハに鍵を渡す。
「どうも。」
不安だが、渋々、リリーの隣に座る。リリーは涼しい顔をしている。
クレハは運転席に乗り込み、まるで、普段から乗っているかのようにエンジンをかける。
「おい。本当に大丈夫なの?」
リリーに聞いてみる。
「大丈夫でしょ。クレハが大丈夫って言って何か問題が起きたことなんて今まで一度も無いわ。」
「本当かよ・・・。」
リリーは、クレハに全幅の信頼を寄せている。
「では、出発します。」
後部座席の会話など、気にしていない様子でクレハが車を走らせ始める。
本当に問題が無かった。
寧ろ、この世界の交通ルールを把握しているクレハの方がミーシャよりも安全だったかもしれない。しかも駐車もクレハのがうまかった。
クレハ、半端ねぇ。
約束の場所はアリエント魔導国のはずれ、東都海国にほど近い、古い貴族の元邸宅だった。アリエントの王族が買受け、今は、別荘として、定期的な管理がされているだけらしい。
別荘の中に入ると、近代の軍服のような姿の東都海国の兵士、役人数名と黒百合姫の姿があった。
その中に、何故か、よく目立つスーツ姿の見覚えのある男の姿もあった。
こちらの姿を確認し、黒百合姫が口を開く。
「遅かったね。さっさと話しを済ませようよ。」
その言葉、話し方からは、冷たさだけが感じられた。
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