第一部:王女の我儘
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式典が終わり1週間、ミーシャが壁内に来てからもうすぐ二か月が経つ。
初めて壁内に来たときは、前世で言うところの3月下旬といった時だったので、来た時に比べ、すっかり肌寒さを感じなくなっていた。
ミーシャは、王都の商店街を歩いていた。
アリエント魔導国で扱われる商品は、主に日用品や食品、魔物素材や鉱物、武器や防具、マジックアイテムなどで、希少価値が低く、低価格なものを扱う公認市場と、専門性が高く希少価値が高く、高価なものを扱う公認商店街がある。
大抵のものは、公認市場で、手に入りにくいものでも公認商店街に行けば大抵手に入れる事が出来る。
他に買い物ができる場所といえば、非公認の闇市や、闇商店があるが、公認されていないということは、出回る商品は、当然非合法なものがほとんどであり、集まる人々も大抵想像通りの人々だ。例外といえば貴族達位だ。
アリエント魔導国、及び東都海国では、現在は奴隷制が廃止されており奴隷の売買は禁止されている。
しかし、現状、ある程度権力がある者たちは、王政への財政面での影響力などを盾に奴隷を持つことを黙認されているらしい。よって貴族の息のかかった店が多い。
奴隷の少女などを見たりしたら、貴族と関係を持つ店主を殴りつけてしまうことが想像に難くないので、これ以上ミーシャは、貴族との関係を悪化させないためにも、今は近づかないことにした。
闇市などが位置する区画の入り口の近くを通ると、ミーシャは感覚能力が優れているため、女性の悲鳴などが聞こえてくる。
心が痛むが、今は耐えるしかない。貴族との関係などから困難は多いだろうが、黒百合姫との関係が落ち着いたらリリーにどうにかするよう頼んでみよう。
とりあえず、公認商店街に向かいクレハに頼まれたお使いを済ますことにした。
紅茶の茶葉、リリーのお気に入りのスイーツなどである。これが結構高く、財政難である王政の財政担当者などに買っていることが知られると、代用品に変えられることは確実であり、カロリー的にも結婚前の王女が毎日摂取して良いものではない。
しかし、質が悪いことに、転生者とは言え王族になると多少は我儘になるのだろうか、リリーが欲した時に、食べられないと一日中機嫌が悪い。
以前、クレハもミーシャも多忙で買ってくるのを忘れ、リリーは気軽に外出でないため、食べられなかった時は、本当に一日中機嫌が悪かった。
普段、そんなに偉ぶらないし、ダラダラして適当ではあるが、余り我儘を言わないのに、これだけは譲れないようだ。
買い物を済ませ、腹が減ってきたので、気分転換がてら、大衆食堂的な店で、食事を済ます。
頼んだ料理は羊肉をレタスのような野菜と一緒に、パンのようなものに挟んだものケバブのような料理だ。カウンター席に座り食べることにした。
ジャンプしなければ、カウンター席に座れず、この身体の不便さを痛感した。
黙々とケバブをかじっていると、周りの会話が耳に入ってくる。
「そういえば、お前聞いたか?」
いかにも闇の世界に片足突っ込んでますよ、とでも言いたげな所謂チンピラ風の風貌の男が言う。
「何を?」
それとは対照的に、聞き返す男の身なりからは高貴さが漂っている。おそらく貴族だろう。
「闇市で、あんたみたいな悪趣味な貴族の男が、殺されたんだってよ。」
ニヤニヤしながらチンピラが言う。
「冗談だろ・・・?貴族だぞ?手を出してくる奴なんているはずないだろ。」
そうは言いつつも、貴族男の顔から不安が見て取れる。
「冗談じゃないぜ。胴体を真っ二つ。人間の仕業じゃないかもしれないらしい。」
貴族男の顔が青ざめ、黙り込む。
チンピラ男は、何か企んでるようでニヤニヤしてる。
「そうだ!護衛の男はどうしたんだ?貴族が闇市に行く時は、私もそうだが最低2人は護衛をつけるだろう?さては逃げ出したんだな。身分も低く根性もないとはこれだから平民は。」
貴族男は、まるで封を切ったように捲し立てる。
チンピラ男は、少しイラついた表情を見せるが、言われ慣れているのだろう。すぐにニヤニヤ顔に戻る。
「死んだよ。まああいつら冒険者で言ったらDランクっていった所だしな。」
「Dランクとはいえ、大の男が三人も・・・もう行かない方がいいのか・・。でもあの快楽を得られないなんて・・・」
男の顔は恐怖と欲望の間で葛藤しているのだろうか、笑顔が歪んだような醜悪なものになっていた。
「そこで、俺だよ。俺は一応、敏捷性はAランクだ。つまり、Aランク冒険者相当ってわけだ。もちろんそれなりに払ってもらうが、安全は保障するぜ。」
この世界の、冒険者は能力値と同じくGからSSの9段階でランク付けされ、能力値の中で最大のものと同じランクがつけられる。例えば、Aランク能力が一つの者と、全能力がAランクの者でも同じAランクに位置づけられる。このため、同じランクでも実力差が大きい。
「おお。想定外の提案だな。てっきり脅かすのを楽しんでいるだけかと思っていたよ。瞬撃のガザが護衛に着くなら、確実だ。夜遊びが捗るな。クックッ。」
チンピラ男は名の知れた男のようだ。貴族男は威勢を取り戻し、表情が明るくなっている。
「これも、お父様がお前はリリー王女に求婚するのだから、屋敷の奴隷で遊ぶのはやめろとか言うからだ。いちいち闇市まで行かないといけないなんて。全くリリー王女には、さっさ俺の求婚を受け入れるなり、誰かとくっ付くなりすればいいんだ。」
つくづく、リリーは大変だなと思う。クレハも俺も、もっと警戒を強めないとな。
「まあ、お屋敷では、できないような遊びもできるんだから良いじゃないか。」
「それも、そうだな。安全は確保されたも同然だしな。」
醜悪な笑いを上げながら、ビールを飲み干し、二人は店を出ていく。
王城に戻り、仕事を無事すまし、いつも通りの日常を過ごし、歯を磨いて寝ようと洗面所に向かう。
途中、慌てた会話が聞こえてくる。
「大変です。王女様の婚約者候補のアルブレヒト候がお亡くなりになりました!」
下級役人だろうか、報告の声が聞こえる。
「なに?アルブレヒト候が!私が根回しして、護衛に着けていた瞬撃のガザはどうした?奴はAランクだぞ!?」
報告を受けた上級役人らしき男は声を荒らげる。
「それが・・・」
「やはり、逃げたか・・・。腕は確かだが、闇市の不法者なんてこんなものか。とりあえず、アルブレヒト候がダメとなると、ウィンダミア候に護衛を付けなければな。彼らを王子にしさえすれば、私の地位は安泰なのだ。彼も夜遊びが趣味のはずだ。瞬撃のザラを呼べ!報酬を倍にしてでも護衛させろ!」
下級役人の返答を待たずに捲し立てる。
「それが・・・」
下級役人の返答は、なお曖昧だ。
「なんなんだ。さっきから!」
上級役人は怒気を強める。
「瞬撃のザラ様は死にました。同様にBランク護衛4人も・・・」
「そんな・・・私の財力で雇える最高峰の者達だったんだぞ・・・・」
上級役人が膝から崩れ落ちる音が聞こえた。
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