第一部:黒百合姫と東雲唯
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式典が終わり、ミーシャが神宮寺と共に、卑劣な貴族達と事を交えていた頃、クレハは王城のエントランスで、黒百合姫と会っていた。
以前の黒百合姫とリリーの会談の際に、会っているので、二人は面識があった。
「黒百合姫様。お初にお目にかかります。私は、アリエント魔導国王女、リリー・アスセーナ・リーリウム様に仕える召使のクレハです。無礼を承知で申し上げます。少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
面識はあるものの、会話をしたことは無いため、クレハはかしこまって話しかける。
「あなたのことは、覚えているよ。私は、名乗る必要ないよね?」
見た目はクールで大人びているが、黒百合姫の話し方はどこか幼さを感じさせる。
リリーと同じように、性格や口調は転生先の王女や姫の精神の影響を受けているようだ。記憶も引き継いでいるのだから無理もない。
「光栄です。必要ございません。」
クレハがお辞儀し、顔を上げるのを待ち、黒百合姫が話始める。意外と律儀なようだ。
「話って、理沙ちゃん、間違ったリリーちゃんのこと?」
リリーの転生前の名前は理沙というらしい。
「はい。」
「前も、言ったけど、もう、リリーちゃんのことは何とも思ってないよ、むしろ苦手。」
うんざり、したように、凪は言う。
「それは、どうしてですか?転生前は仲が良かったそうではないですか?」
「どうも何も、何の興味も湧かないし。」
凪は、うんざりしたように説明する。
「今のリリーちゃんはどうか知らないけど、私は、この世界に黒百合凪として転生したの。」
「最初からですか?生まれた時から?。」
「そうよ。でもこの前リリーちゃんに会った時に前世の記憶を思い出したわ。」
クレハは少し考えこむ。
「それなら、意識は転生前の東雲唯様なんですよね?」
凪は、少し悲しげに眉を顰める。
「本当にそう思う?黒百合凪が東雲唯を思い出したと言う方が自然じゃない?」
凪の話は一理ある。
「なるほど、つまり現在の黒百合姫様は、東雲唯というよりも黒百合凪であるという意識が強く、前世で仲の良かったリリー様、つまり理沙様?に対して特に思うことはないということですね?」
「そういうこと。」
クレハは黒百合姫の考えを理解できたものの、取り敢えず黒百合姫の過去を調べてみることにした。
「わかりました。お話ありがとうございました。それでは失礼します。」
「うん・・・」
素早く踵を返し、その場を後にする凪は何処か悲しげだった。
式典が終わり、三人は王女の部屋で夕食を取っていた。
三人が囲むテーブルには、クレハが作った料理が並ぶ。リリーの気分が落ちているため、肉料理を中心とした食べ応えがありそうな料理が並ぶ。
どうやら、クレハには、「気分が沈んだ時は肉でも食え!」的な男らしい一面があるようだ。
「それは、災難でしたね。私がその場にいれば、男どもを二度と歩けない体にしていたものを・・・・。」
式典の後の騒動を聞いたクレハは、さらっと物騒なことを言い出す。冷たく冷ややかな目が、冗談でないことを物語っている。
「ミーシャが助けてくれたから、大丈夫よ。思い出したらイライラしてきたわ。」
そういって、リリーは王女にあるまじき所作でステーキを頬張った後、浄化されたように恍惚の表情を浮かべる。
「ああ・・。手間がかかっているのですから、もう少し味わって食べてもらえますか?」
そうは言いつつも、自分が期待していたように主人が満足したのがわかり、クレハの頬が緩む。
「リリーは本当に、美味しそうに飯を食べるな。それより、クレハ、黒百合姫と会ってきたんだろ?」
食事も進み、そろそろ頃合いだろうと思い。クレハに話を促す。
「ええ。端的に言うと黒百合姫様は黒百合凪だから、リリー様に興味が無いのです。」
クレハは、黒百合姫との会話の内容を二人に話した。
「つまり、黒百合凪として16年間を過ごして来たら、いきなり前世の記憶が蘇り、目の前に、前世の友達?の生まれ変わりがいたってこと?」
「そういうことです。」
「でも、それなら、興味を無くすのはおかしくないか?いくら意識がすでに黒百合凪だからといっても、前世で友達だったんだから。」
「私も、そこが気になり、彼女の過去を調べてみました。」
リリーは何か考え込んでいた。
クレハの話は中々重かった。
黒百合凪。
東都海国の姫君であり、合併前は唯一の王位継承権保持者であり、王族の母親と魔族の父親の間に生まれる。
母親である姫君は、病弱で、部屋に籠りがちだった。国王が病弱な姫君を大事に思う余り、男性との接触を許さず、また姫君は不幸にも感情の機微を察知する能力に長けており、友人として訪ねてくる女友達は娘を不憫に思った父親が仕向けた者達であることに気づいていた。
ただ一人、本心で関わり合えた言い名付のある名家の跡取り息子は武勇に優れ、次第に壁の外への外征が多く。姫君の孤独は増すばかりだった。
そんな、姫君の孤独を知ってか知らずか、軍隊に追われた、ある翼をもつ魔族の男が姫君のもとに逃げ込んできた。孤独な姫君と巧みに人の心を惑わす弱った魔族の男。姫が魔族の男に恋心を抱くようになるのは必然だった。
魔族の男は遂には姫君を連れ出し、国から逃亡を図った。
姫の奪還に向かった、その時すでに国の英雄となっていた姫君の許婚の男は、あろうことか、魔族に操られ、二人の逃亡を助け、国の総戦力を相手に三日三晩戦い戦死した。
同時に姫君と英雄を失った衝撃は大きく、国は大きく動揺した。王族の血が途絶え、次の統治者を選ぼうとしていた時、逃亡した姫君が帰国し、魔族の子を身籠っていた。
子は無事生まれたが姫君は死んだ。その時の子供が黒百合凪だ。
このような生い立ちから、凪は国民からは疎まれ、王族からは忌み嫌われ、貴族からは邪魔者扱いされ、16年間を過ごしてきたそうだ。
彼女の人生においては、友達はおろか、親しい人々、ましてや自分に愛情を向けてくれる人など存在しなかった。あるのはただ事務的なやり取りだけ。
だから、彼女は感情を持てなかった。正確には感情を感じながらも、それがどういったものなのか理解が出来なかった。
それが、いきなり前世の記憶が蘇り、感情を得て、友達?恋人?と言い張る女の子が現れたのだ。
戸惑うのも無理はない。興味が無いというのも、感情の整理がつかず、興味が無い、苦手などいって距離を取ろうとしているのかもしれない。
「リリーは、どう思う?」
何か考え込んでいたリリーは我に返った。帰ってきた言葉は意外だった。
「なるほど、納得いったわ。」
「やっぱり、黒百合姫は気持ちの整理が出来ずに、戸惑ってるってことか?」
「違うわ。多分、私、彼女に引かれてるかも。」
「それはどういう?」
流石のクレハでも要領を得ないようだ。
「あなた達にも、引かれちゃうと思って、言ってなかったけど、この際白状するわ。私の転生前の名前は東雲理沙。東雲唯の実の姉よ。」
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