プロローグ:名誉の最後?
百合ものを書いてみたくなりました。初投稿です。よろしくお願いいたします。
「私、やっぱり小百合のことが好き。もうこの気持ちを隠すことなんてできない!。」
夕暮れの砂浜。
少女の勇気を振り絞った告白は、波の音ですぐにかき消される。
しかし、目の前の少女には確かに、届いたようだ。
「私も、優里花が好き。でも、ごめんなさい。ダメなの・・・。あなたまで不幸になる。」
「好きなのに、どうして!不幸になんてならない。」
悲痛な叫びをあげる少女の目は、溢れんばかりの涙を携えている。
「高校を卒業したら、許嫁と結婚しなければいけないの、それに・・・もう私は汚れてしまっているの。」
「そんなの関係ないよ!」
そう告げると、少女は、目の前の少女の胸に飛び込み、唇を重ねる。
抵抗されても、離さず、強く抱きしめる。
次第に、抵抗は止み、求めあうように二人は唇を重ね、抱きしめ合う。
「小百合が汚れてしまったのなら、いくらでも私のキスで上書きする。小百合が震えていたら、どこにいても抱きしめに行く。だから、私は小百合を誘拐する。小百合を悲しませるこの町から。」
「優里花・・・。お願い。私を誘拐して!」
二人の少女は手を繋ぎ、走り出す。二人を引き裂くこの町から。
「やはり、そういうことだったのね。優里花。仲が良すぎると思っていたのよ。さあお前たち。捕まえなさい!」
「「「「はっ」」」」
「おばあ様っ!」
突如として現れた小百合の祖母がそう告げると、黒服の男たちが二人を確保しようとする。
黒服に追われる二人の運命は?! 次号に続く
「尊い。語彙力が死ぬな。本当に変なところで終わるなーーー。続きが気になって仕方がない。次号見るまで死ねないな。はぁー」
つい、心の声が口に出てきてしまっていた。
暫くして、落ち着きを取り戻し、隔月刊の漫画雑誌をソファーに投げ置き、煙草に火をつけ、口元に運ぶ。
(それにしても、許せないな。あのババァ。どれだけ二人の邪魔をすれば気が済むんだ。胸糞展開にならなければいいんだけど。この作者、前の連載の時も男を使って胸糞展開入れてきたからな。しかも、フォローも無かったし、一か月くらい吐き気が止まらなかったわ。)
過去の記憶がよみがえり、イライラしてきたので、煙草の燃えている部分を使って、新しい煙草に火をつける。所謂チェーンスモークというやつだ。
部屋に煙が充満しているのに気が付き、慌てて換気扇をつける。危うく火災報知器がなって、壁ドンラッシュされまくるところだった。
時刻は23時14分。
(さーて。歯を磨いて寝るか。)
歯を磨こうと、洗面所に行くと、歯磨き粉を切らしていた。
(ああやっちまった。漫画が楽しみ過ぎてすっかり買うの忘れてたわ)
子供の頃に見た虫歯予防アニメがトラウマになってしまい、それ以来、歯を磨かずに寝ることが出来なくなってしまっていた。
(仕方がない。コンビニに買いに行くか・・・)
コンビニは、アパートから約500メートルほど離れたところにあり、大通りに面した通りにある。
道中、公園の前を通り過ぎると、高校生位の少女二人がベンチで肩を寄せ合い何やら話している。
黒髪ロングのおとなしそうな少女と明るい髪色をした活発そうな少女という対照的な印象を受ける二人だ。
「寒いね。」
「うん。」
「手、繋いでもいい?」
明るい少女の問いかけに、黒髪少女は手を握ろうとはしているものの、ためらいがあるのか、手が触れあいそうになると磁石のように反発するという動作を幾度か繰り返している。
じれったくなったのだろうか、その様子を横目で見ていた明るい少女が黒髪少女の手を握る。
黒髪少女も、ためらいを残しながらも、恐る恐るその手を握り返す。
「温かい・・。学校でもこうできればいいのにな。」
「うん・・。」
少女達の顔は、お互いに、ほのかにに紅潮していた。
(尊いっ。まじで尊い。背景とかは知らないけど、とにかく尊いっ。生きててよかったー。歯磨き粉切らしててよかったーーーーーーーー!)
もう少し、見ていたい気もするが、覗き見するのは、申し訳ないため、立ち去ることにした。
(ああ。あの二人が座っているベンチの真ん前の鉄棒になりたい・・・・。見守りたい)
名残惜しいものの、公園を後にしてコンビニへ向かって歩きだす。
公園の端の交差点で信号待ちをしていると、道路の向こう側に見るからにガラの悪そうな3人組が信号待ちをしている。
(なるべく、関わりたくないな・・目を合わせないようにしよう)
信号が青に変わる。
「あそこの公園、毎週、この時間に女子高生二人組がいるらしいっすよ」
「こんな遅くに、いけないなー。少し指導しますか。ヘへっ」
「なんでも、結構可愛いらしいっすよ。」
「お前ら、ほどほどにしろよ」
すれ違いざまに、聞き捨てならない会話が聞こえる。
「おい。」
考えるより先に、言葉が出ていた。
男たちの足が止まる。
踵を返し、男たちと向い合せになる。
「なんだよ。おっさん。俺ら今から。生活指導に行かないといけないんだけど」
残りの二人もヘラヘラ笑っている。
こいつらがやろうとしていることは察しが付く。怒りを抑えながら、ポケットの中で、110番をしておく。会社で隠れながらスマホゲーの周回をしているから慣れたもんだ。これで万が一、俺がこいつらを止められなくても警察が来てくれるだろう。
「公園の彼女達に何かする気か?」
電話で聞こえるように大きな声で話す。
「うおっ。ビビったー。声でけえな。気持ち悪りぃ。まあいいや。おっさんも混ぜてほしいの?あいつらまわすの。」
「ふんっ」
拳に痛みが走る。耐えられなかった。気が付くと殴りつけていた。
「痛ぇな。おっさん。何しやがる。」
リーダー格がこちらを睨むと、取り巻きの敵意もグッと増した。
「彼女らにとって、この時間のこの公園は、秘めた気持ちをさらけ出せる唯一の場所に違いないんだ。誰も立ち入ってはならない。ましてや・・・・絶対に許さない。」
「何?あの子たちの知り合いなの?まあ関係ないけどね」
そういって、リーダー格の男は殴りかかってくる。
(遅いな)
右に回り込んで、リーダー格の男の太もものあたりに、全力の膝蹴りを入れる。
「てっーーーー」
言葉にならない叫び声が響き渡る。
実は、中学校から大学卒業まで、空手をやっており、現役のころはそこそこ名の知れた選手だった。
「こいつ。結構強そうだぞ」
「女だけでも拉致っちまえ。駐車場に車止めといたから」
そう言って、取り巻き二人はリーダー格の男を置き去りにして、公園の方に走り出した。
走り出そうとした瞬間。左足首を中心に弧を描くように、アスファルトの地面に顔からたたきつけられる。
「待つのはおめーだよ。おっさんっ。」
倒れていたリーダー格の男に足首を掴まれていた。
脳が震え、眩暈がする。脳震盪を起こしかけているようだ。
「おっ。流石、鷹ちゃん。おっさん倒したのかよ。」
「ほんとだー。やってくれると思ったぜ。」
置き去りにして、逃げようとしたにも関わらず、清々しい掌返しで引き返してくる。
頭や、腹部を激しい痛みが襲う。よく聞き取れないが、よくもやってくれたな。だとか死ねとか聞こえる。本当に死んじまいそうだ。
頭の打ち所が悪かったのか、今まで感じたことのない感覚に襲われる。殴られ、蹴られ、熱を持ち熱かった身体が寒気を感じる。
意識が遠のいてくる。
目が霞む。
体が何も感じない。
音が水の中みたいだ。
それでも、光が見えた。
公園の入り口までは、直線距離で300メートルといったところ、街灯の薄明かりのみが頼りの闇の世界。
見えるはずがない。
見えるはずがないのだが、確かに、そこには、手を繋ぎ、楽し気に安全な住宅街の方へ向かって歩いていく二人の少女の姿がまるで、スポットライトで照らされているように見えていた。
(ああ、神様。最後に、彼女らを守り切ったことを教えてくれたんですね。ありがとう。彼女らを守れてよかった。碌な人生じゃなかったけど、最後に良いことしたな。百合に栄光あれ・・・・)
百合園 守、34歳独身。
小学校から高校まで男子校に通う。彼女無し。
わけあって、恋愛感情を拗らせ、男性、女性ともに性的な対象として見れず。
女性同士の恋愛を見ることによって「尊み」を感じることのみが生きがいだった。
つまり、重度の百合豚であった。
こうして、一人の百合豚の人生が幕を閉じた。
少女たちは、住宅街を歩いていた。
互いの体温を伝え合う繋がりはそのままに。
黒髪の少女は思う。
この時間が永遠に続けばいいのに。
横目で隣の笑顔を見つめながら思う。
この娘なら、もしかしたら・・・。
急な衝撃により、この思考は止まることになった。
車が突っ込んできていた。
隣に笑顔はもうない。あるのはただ冷たい双眸だけだった。
意識が遠のく少女はただ思う。
あなたもダメなのね。
読んでいただき、ありがとうございました。
ありがちな設定ですが、がんばりますので、次回もよろしくお願いします!
次回は転生のために神と対話します!