【習作】とある企業と人物と。
最近、色々とあって時間ができたので、思わず小話を書いてみました。
ダメ書き手特有の駄文・雑文の類いではありますが、お目汚しにならない範囲でご一読頂ければ幸いです。
※2023年8/22(火)微妙に手を加えた。
西暦1910年代、東洋の島国「ヤマト国」に現れた「鬼の王」達の存在は、その後の世界の有り様を一変させた。
鬼の王達が元々住んでいた異世界「高天原」には、神の末裔たる「長命種」、彼らに従う「兎人族」、そして鬼の王らが属する「鬼族」が在しており、ヤマト国の帝の一族はこの異世界から「蒼の月」と呼ばれる「地球」に降りてきた長命種の末裔であった。
この事が、その後のヤマト国とそれ以外の国々との間で軋轢を生む下地となり、結果として三度に渡る戦いを引き起こす事となった。
一度目、二度目の戦いで痛い目を負う事となった諸外国連合軍だったが、彼らも決して無闇に突撃を繰り返すだけでは無かった。
敗北に次ぐ敗北を喫しつつ、彼らはヤマト国側の弱点を探し、またその対抗策を練っていたという。
時は流れ、西暦1980年代の半ば、かつて1910年代に起きた「欧州大戦」の結果、敗北したドイツ帝国は南北に分割され、「プロイセン共和国」と「バイエルン共和国」として存続し、それぞれ独自の道を歩んでいた。
観光と商業を中心に、南隣のスイス、オーストリアの両国と「永世中立国の連帯」と呼ばれる協力関係を築いたバイエルン共和国に対し、主に工業を中心として経済を回していたプロイセン共和国は、この頃、欧州大戦の敗北による賠償金を払い続けていたが、その事に対する国内の反発が年を追うごとに膨れてきていた。
そこでプロイセン共和国政府は、嘗ての戦勝国であるイギリスやフランスなどに対ヤマト国との戦争に軍事製品や技術等を提供する代わりに、賠償金を減免してもらおうと画策。
過去二度の戦いで疲弊していた両国は勿論、その同盟者であるアメリカまでが話に乗ってきた事から、プロイセン共和国は賠償金減免と引き換えに連合軍に協力する事となった。
斯くして、1970年代後半以降、国を挙げて積極的に軍事技術開発を行った事から、プロイセン共和国は旧大戦戦勝国に借りを返しつつ、更なる繁栄を求めて技術開発を加速させていく。
そんな最中、プロイセン最大の工業地帯である「ルール地方」の片隅にある「とある企業」が行ったM&Aにより、北欧屈指の兵器開発企業であった「ボフォース社」が買収され子会社化するという事件が発生する。
この「とある企業」は続けてイギリス王室とも関わりがある「ロイヤル・オードナンス社」をも同様の手法で買収、子会社しただけでなく、同時期に嘗てヤマト国の戦艦「三笠」や「金剛」を建造した事で知られた「ヴィッカース社」、フランスの「AMX社」等を次々と買収、子会社化していったのである。
さて、ヨーロッパの名だたる企業を次々と買収した「とある企業」……名を「アイゼンシュタイン商会」と号した。
この企業、欧州大戦後にルール地方で簡単な金属加工業社として創業し、地道に販路を拡大。1970年代に入る頃には、金属加工に加えて製造、技術開発、設計等を手掛ける程に成長していた。
そして、1970年の末、創業者から数えて3代目に当たる孫が会社経営を引き継いだ時から、この企業の急拡大が始まったのである。その結果が企業買収の連発による組織の巨大化であった。
だが、これですら3代目商会代表である「ルードリヒ・アイゼンシュタイン」にとっては、その商人としての野望の第一歩に過ぎなかったのである。
そして、西暦1986年のある日。ルール工業地帯から少し離れた場所に在るアイゼンシュタイン商会の技術実験施設の片隅にルードリヒの姿があった。
彼はここで事前に連絡を取っていた「ある人物達」の到着を待っていたという。彼が待つこと二時間余り、遂に彼が連絡を取っていた「ある人物達」が技術実験施設を訪れたのであった……
「やあ、よく来てくれた。連絡を取ってから実に二時間も待ってたよ。」
「はぁ……。なぁ社長、俺が忙しい身の上である事は社長自身が知ってるだろうに。それを呼び止めて、あまつさえ"このアホ"と一緒に来いとは、正直迷惑なんだが。」
「うぉっ!? 酷いな我が悪友よ。この"オイちゃん"をアホ呼ばわりするとは。ましてや当社の技術開発・設計部門の責任者たるオイちゃんをだな……」
「それを言うなら、こちとら営業・渉外部門の責任者だぞ! 社長の命令で来たから良いが、そうでなければ態々お前の庭先みたいなトコまで来るかっ!」
ルードリヒを前にして、いきなり言い争いを始めた当時30代半ばを過ぎた二人の男達を前に、ルードリヒは軽く咳払いをした後『あ〜、二人とも落ち着いて下さい。態々御二人にここに来て頂いたのは、口喧嘩をしてもらう為ではありません。』と述べ、双方を宥めつつ話を続けた。
『実はですね、御二人にどうしても見て頂きたい物がありまして連絡を取ったのですよ。』
このルードリヒの一言に、先に反応したのは自分の事を「オイちゃん」と称した人物―― 名を「オイゲン・フランツ・アルトホルン」と称する ――が、その彼が『オイちゃんと悪友に見て貰いたい物!? 一体何だ? この技術実験施設はオイちゃんも何度か来ているが、ここでオイちゃんに内緒で何かしてたのか?』と、早速言い立てている。
そして、アルトホルンに続く形で、もう一人の人物……悪友と呼ばれている「ヴァルター・リッターシュタット」と称する男が『社長、俺は兎も角、技術系の責任者たるアホを除け者にして何か勝手にしていたなら、如何に商会の代表と言えども、問題があるだろうに。』と告げると、ルードリヒは両人に対して詫びを入れた上で次の様な事を述べた。
『……御二人をここに呼んだのは、確かに私が社長権限で極秘に進めていた「ある計画」の成果の一端を見て頂きたかったからです。と、言いますか、御二人の意見を聞きたかったからなのですが。』
この様な事を申し訳なさげな姿勢を見せつつ、両人に告げると、アルトホルンもリッターシュタットも多少は不満を残しつつ、取り敢えずその言葉を受け入れる事とした。
その上で、両人は早速ルードリヒが言う"ある計画の成果"とやらを見せてもらおうとし、ルードリヒもそれに応じて両人を施設の奥へと案内した。
暫く施設内を歩く内に、アルトホルンは『ありゃ? この辺りは来た事がねぇな。ひょっとしたら新規に建設した施設か何かか?』と口にした為、リッターシュタットが『社長、新施設ならば建設には役員会を通して欲しい。最近、経理部門の奴が収支に妙な不整合があるみたいな事を言ってたが、こういう事なら……』と、ルードリヒを責める口調で言い立てたのだが、それが言い終わらない内に三人は施設の際奥にある"巨大な建物"の前に到着していた。
その建物の巨大な扉の前にたったところで、ルードリヒは『御二人の意見ももっともですが、今から見てもらう物を見れば、なぜ極秘に進めていたかが解ると思います。』と告げ、その直後にルードリヒはその場にいない誰かに向けて合図を出している。
すると、鈍い音と共に建物の巨大な扉が左右に開き始める。アルトホルンとリッターシュタットの両人が開いていく扉に視線を向けた時、その扉の奥から何か重機が動く様な重い音が聞こえ、それは徐々に自分達へと近づいて来るのが理解できたという。
そして遂に音を発している物体が、完全に開ききった扉の奥から姿を現した時、二人は大いに驚き、次の様な事を口にする……
アルトホルンは『なっ!? こ、これは巨大な重機か? だが、"他脚歩行"とか、明らかに工業用じゃねぇな!』と叫び、リッターシュタットは『まさか、他脚歩行の軍用兵器か? 上半身と思われる部分には大型のアームが二本あるな。どうやら上半身に関しては人型みたいだが、見たところ幾つかのハードポイントが存在しているのを見るに、火器類は装着式という事か。』と。
両人が各々感想を述べたところで、ルードリヒは『御二人とも、各々に御理解頂けたみたいですね。コレはまだ試作機に過ぎませんが、将来的には改良を加えて量産をも視野に入れています。』と語り、続けて斯く述べている。
『アルトホルンさんには、こいつの改良の総指揮を執って貰いたいのです。またリッターシュタットさんには、嘗てフランス軍の"外人部隊"に籍を置いていた頃の経験等を生かして、コレの搭乗員を育成する為の教導官役になって欲しいのです。』
それを聞いて、両人は自分達が呼ばれた理由を概ね理解したという。
特にリッターシュタットはフランス軍の外人部隊で10年以上の在籍歴を持っており、その中で戦闘車両や戦闘機の操縦士資格をも保有していた事から、彼個人には教導官役に加えてこの他脚歩行兵器のテストパイロットも担う事となり、当人も結果的に承知する事となった。
(なお、この時代のプロイセン共和国は、正規の国軍が無く、精々数万人程の軽武装の陸海の防衛隊がある位であった。その為、フランス軍の様に外人部隊を保有する他国の国軍に人材が流れていたのである。)
この日より、リッターシュタット主導の搭乗員育成の為の育成部門が新設され、アルトホルン主導の機動兵器改良部門が、試作機から得られたデータを点検、手直しを加えていく事となった。
この動きはプロイセン共和国政府も公認し、密かにイギリスやフランス、アメリカ等の連合側の支援を受けて、徐々に洗練された物へと変わっていく。
西暦1990年代に入り、第三次碧蒼戦役の勃発には間に合わなかったが、ヤマト国内部で起きた四鬼王による帝の強制退位と碧月帝の即位が起きた政変が生じた頃、遂にアイゼンシュタイン商会は最初期の大型の他脚歩行兵器から、全高15m前後の二足歩行兵器、更には二足歩行兵器だが全高10m程の荒地走破能力を持つ逆関節型などを産み出していた。
また、その副産物として、水上戦闘用の半人型機動兵器(水上を浮かび高速で動く為、下半身部分が船の様な形状をしている)をも産み出している。それらが量産され、実際に戦闘に投入されたのは所謂"ロッキー山脈崩壊事件"と呼ばれる、ロッキー山脈と周辺の高山地域が丸ごと巨大な砂丘化したより後の西暦2000年の中頃であった。
ヤマト国との戦闘を連合側所属の国々が止めていく中、中華民国と高句麗帝国はヤマト国との戦闘を継続していた。
ルードリヒはこの両国に機動兵器群を低額で供与する代わりに、実戦データを要求した。中華民国はそれを承知し、ヤマト国の先島諸島を巡る戦いで投入。防衛を担当していた兎人兵部隊が壊滅寸前まで追い詰められたが、水の鬼の王らの来援により撃退された。
この際、水の鬼の王は『蒼の月の者があの様な鋼の巨人を生み出すなんて、予想外だったわね。』と口にしている。
一方、高句麗帝国側に供与された機動兵器は、対馬攻防戦に投入されたのだが、ここで彼らは約定を破りデータの提供を行わず、そのままなし崩しに運用を続けた。
ルードリヒはこの約定破りに激怒したとされ、パールハーバー条約が締結した後、旧連合側の特殊部隊の協力を得て、高句麗側に配された機動兵器の全てを爆破するという行動に出たという。
(破壊された機体の使えるパーツを集めて復元しても、彼らではまともに運用出来ないだろうというルードリヒの目論見もあった。なお、実際に運用は出来なかった模様。)
戦役が終わり、多少の不安定要素が残る中、ルードリヒは機動兵器計画の中枢にいたリッターシュタットに、ヤマト国に開設されたプロイセン共和国大使館の民間職員(=実は駐在大使)として出向を命じた。
これは別に左遷した訳ではなく、ルードリヒが特に信頼する彼を派遣して、ヤマト国の現状を見極めようとしたが為であった。あと、やはり商人としての勘からか、商売の匂いを嗅ぎとったが為でもあっただろう。
斯くして、リッターシュタットはヤマト国へと赴き、その後十数年留まり、その間に四鬼王(先代、当代などを含む)や"護国の鬼姫"らと紆余曲折を経て面識を持つに至るのであるが……
……それはまた、別の話である。
―おわり―
あらすじ部分にも記しましたが、恐らくコレが"ガラケー版なろう"での最後の一品になると思われます。
2018年から2019年の間の冬の何処かで終了という事は、年末年始あたりで終了とみても差し支えないと思います。
(追記。2019年1月29日で終了が決まる。)
旧にじファン時代から御世話になった物が無くなるというのは、時代の流れとは言え悲しいモノではありますが、なろう自体が無くなる訳でもないのが唯一の救いなのかも知れません。
それでは、これにて〆の挨拶とさせて頂きます。
(次に会うときはいよいよスマホ版に移行した後になるでしょう……)