どうせ身代わりで嫁いだ身ですので、離婚してくださいませ、旦那様
緑豊かな辺境の地で、夫の帰りを待つのは、領主の妻である私、ミランダ。年齢は31歳といい年です。
夫のアルファ様は、とても多忙な人で2ヶ月~3ヶ月に一度、顔を合わせるだけ。
しかも、アルファ様は、とても無口なので、帰ってきても何も話さずに寝てしまう……なんてこともしばしば。いえ、ほとんどそうね。
私達には一人、息子がおります。初夜に着弾してそのままポーンと、生まれてきた息子も、今年で15歳。
今は王都で、騎士団に所属しております。向こうでよき縁に恵まれたお嬢さんもいるようです。
なので、もう子育てもおしまいです。
夫も息子もいない日々……
退屈だわ……
あ、そうだ。
どうせなら、冒険者になって、旅をしてみようかしら?
昔は暴れ馬令嬢なんて言われていた私。田舎貴族で、料理もなんでも、一通り自分でやってきました。今も時々、台所には立っています。
一人で旅ができるぐらいのスキルはきっとあるでしょう。うん。
では、さっそく。
あ、でも、冒険者になるには、領主夫人だと、色々と不都合よね?
そうね……
どうせ姉の代わりに嫁いできましたし、いっそのこと、離婚しましょうか。
「というわけで、離婚してくださいませ、アルファ様」
「………………」
2ヶ月ぶりに会った夫との食事中、私はニコニコと笑顔で離婚を切り出しました。アルファ様は驚いて固まっています。
驚きすぎて、たった今、フォークとナイフを落としたところです。執事が慌てて新しいものを差し出していますが、それすら気づきません。あ、諦めてテーブルに置いたわ。
ふふっ。それにしても、こんなに驚いたアルファ様の顔を見るのは何年ぶりかしら?
「それは……困る…………」
蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきました。あら、この人の声を聞くの何年ぶりかしら? 口、利けたのね。てっきり、もうしゃべる気がないのだと思っていたわ。
あれこれ考えているうちにアルファ様が立ち上がりました。トイレでしょうか?
「……困るんだ」
もう一度、困ると言って、出て行ってしまったわ。逃げたわね。
ふぅ……。
私はこれからどうしようかと考えを巡らせながら、食事を進める。
あ、とりあえず、冒険に必要なものを揃えましょうか。そうしましょう。たしか、テントを部屋にしまっていたはずだわ。キレイに洗ってしまわないと。
食事を終えた私は、足取り軽く部屋に戻りました。
「これは……」
部屋に着いた私は、その光景に驚きました。大輪のカーネーションの花が部屋に飾ってあったのです。しかも、テントがしまってあるはずの扉の前に。重い花瓶に飾られたそれは、私の力で動かすのは無理です。
花の横には一通の手紙がおいてありました。アルファ様がよく使っている封筒です。私は手に取り中身を見ました。
『ミランダへ
離婚などと口にするからとても驚いた。私は良き夫ではないと思うが、どうか考え直してほしい。決して、テントを持って出ていかないでほしい。お願いだ、ミランダ。
アルファより』
手紙を読んで、ひと息つきます。
どうやら、私の行動はアルファ様にはバレバレみたいね。私は仕方なく、机に座って、手紙を書くことにしました。
『アルファ様
お花をありがとうございました。私が好きな花を覚えてくださっていたのですね。でも、それでほだされませんわ。
私は冒険者になるんです。離婚してください。テントなら予備がありますのでご安心を。
ミランダより』
手紙を書き終わり、屋敷の者に渡すよう伝えます。
「すぐに届けます!」と、焦って出て行ってしまったのが、ちょっとおかしかった。
さて。それでは、テントを出しましょうか。
幸い今日はよく晴れています。乾かすにはもってこいです。テントを取り出してくると、屋敷の者に「奥様、それは!?」と、青ざめられましたが、気にせず洗うことにします。
洗うためにテントを中庭で広げていると、屋敷の者がそれはそれは急いでやってまいりました。アルファ様からの手紙だそうです。お仕事中に手紙だなんて初めてだわ。中身はこんなことが書いてありました。
『ミランダへ
予備のテントは穴が空いているからやめた方がいい。暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷え込む。すきま風があるテントで寝たら風邪をひいてしまう。君は風邪をひきやすいから心配だ。お願いだから、出ていくなんて言わないでほしい。
アルファより』
テントに穴ですって?あら、本当だわ。こんな所に穴が……。
でも、穴ぐらいでやめるようなら最初から冒険者になろうなんて思わないわ。こんな穴、ふさいでしまえばいいじゃない。
私は裁縫道具を取り出して、テントを縫うことにしました。
ちくちくちくちくちく……
「できたわ……」
ものすごく時間がかかりましたが、どうにか穴は塞がれました。よし、じゃあ、洗いましょう。あぁ、その前にお返事を書いておかないと。私は手紙を書き始めました。
『アルファ様へ
ご忠告ありがとうございました。でも、穴は塞ぎましたので、ご安心ください。私は冒険者になりたいのです。きれいな星空を見ながら寝て、小鳥のさえずりと共に起きる。そんな自由な生活がしたいのです。だから、離婚してくださいませ。
ミランダより』
よし、書けましたわ。あらあら、いつの間にか、日がくれてしまいました。これでは、洗濯は無理ですわね……。仕方ありません。明日にいたしましょう。
いそいそとテントをしまい、部屋に戻ります。
美味しい食事を頂き、お風呂にも入り、淑女のたしなみをひととおりおえ、さぁ、寝ましょうとした時にまたもアルファ様から手紙が届きました。
一日、三回も届くなんて……と、思いながらも、手紙を読みました。
『ミランダへ
穴を塞ぐなんて時間がかかっただろう。君は裁縫があまり得意ではないだろうから。それよりも、手縫いなら、穴は完全に塞がってないだろう。やはり、心配だ。星空を見るのもいいが、暖かい布団でゆっくり寝てほしい。
星空の代わりになるか分からないが、星の砂をあつめた砂時計を見つけた。どうか、これで我慢してほしい。
お願いだから、屋敷で待っていてほしい。仕事を早く片付けて帰るようにするから。おやすみ、ミランダ。よい夢を。
アルファより』
星の砂の時計……。
目を凝らしてみると、砂の粒が星の形をしていました。キラキラと光りながらゆっくり落ちる砂を見ていると、心が落ち着く──わけ、ありません。
こんなものでほだされませんわよ。
私は少し怒りながらペンをとりました。
『アルファ様
プレゼントありがとうございました。キレイな砂時計ですわね。でも、これを見ていると、無性に時間が長く感じられて、一人だということを思いしらされます。
ですから、せっかくのプレゼントですが、しまわせて頂きました。あしからず。
それに、テントも大丈夫ですわ。少々のすきま風、私は田舎育ちですよ? そのぐらい平気です。アルファ様は過保護すぎるんです。
動き回っていないと落ち着かない私ですのに、心配だからと、いっつもいっつも屋敷に置いてきぼりにして、一人で待っている方の身にもなってくださいませ。
どうぞ、私のことはほうっておいて、お仕事に専念されてください。私はしたいようにしますので。おやすみなさい。
ミランダより』
言いたいことを書きなぐってしまいました。いけませんね。もう寝ることにしましょう!
横になってすぐ眠りに落ちました。言いたいことを言って、スッキリしたからね。
翌朝、天気は雨でした。せっかくテントを洗おうと思いましたのに……アルファ様の呪いでしょうか?
仕方ありません。今日は別の作業をしましょう。
そういえば、娘時代によく着ていた服があったはず。あれなら動きやすくて、冒険にはもってこいです。さぁ、そうと決まれば、早速出してみましょう。
着古された洋服はすぐに見つかりました。それを見つめ、懐かしくなります。
そういえば、アルファ様と出会ったばかりの頃、この洋服を着ていたわね……
あの頃は良かった。アルファ様も近くにいて、よく話をしてくれた。口数が多い方ではなかったけど、そばにいて微笑んでくれた。幸せだったわ……
感傷にひたっていると、またもアルファ様から手紙が届きました。
『ミランダへ
君が寂しい思いをしていたなんて……気づかずにいてすまない。確かに私は、君のことがとても心配だ。とてもとても心配だ。君は気が強いが、体は丈夫ではない。君と出会った頃も、よく熱を出していたし、今も、寝込むことがあると聞いている。君にもしものことがあったらと思うと、不安なのだよ。わかってほしい。
今日は雨だから出かけられないだろう。ゆっくり休んで。無理しないように。君の好きなハーブティを見つけたから、贈るよ。
アルファより』
まあ、そんなことおっしゃって! 私は丈夫ではないですって? そんなことありませんよ。確かに昔っから、外で遊んで暴れては、熱を出してましたよ。
頭がボーッとして、視界がぐらぐらしていたわ。そうよ、今まさに、こんな感じで。
ん?あらら?
なんで、私、フラフラしてるのでしょう?
そのまま、私の視界は真っ暗になりました。
「無理をするなと言ったのに……ミランダ……」
誰かがそばで手を握ってくれている。大きくてあったかい手。そうそう、熱が出た時は必ずこうして、握りしめてくれる手がありましたわね。この手は確か……
「アルファ様……?」
「気がついたか?」
いつの間にか私はベットで寝かされていました。横では心配そうにアルファ様が私を覗き込んでいます。
「私は……」
「また熱を出して倒れたんだ。あれほど、無理をしないようにと言ったのに……」
はあと、大きくため息をつかれてしまいました。
「それは、申し訳ありませんでした……でも、なぜ、アルファ様がいるのです?」
いつもは、お仕事で帰っていらっしゃらないのに。
「早く帰ると言っただろう?君の様子がおかしかったから……」
そうなのね。アルファ様が心配して帰ってきてくれた。あら、変ね。涙が出そうだわ。熱のせいかしら?
「そうですか。ありがとうございます。でも、アルファ様、なんでこんなにお話ししてくださるのですか?いつもは無口ですのに」
「それは……」
アルファ様が口をもごもごさせ、下唇を軽く噛みました。
あ、照れてるんだわ。この人、そういえば、こんな癖があったわね。
「手紙を書いているうちに、その……君とちゃんと話がしたくなった。前は、君を前にすると何を話せばいいか分からなかった」
「君は乳母も頼らず一人で息子を育ててきた。そのせいで、たびたび熱を出して……私は私で仕事が忙しく、家族の時間を持てなかった。話す機会をなくすうちに、君と何を話せばいいのかわからなくなった。特に息子が出てしまった後はなおさら……」
そうなの? そういえば、息子は私が一人で育ててきたような……? 幼少期の頃は、私そっくりで、やんちゃなのに、体が弱い息子に手がかかりっきりで、アルファ様と、話すらできなかったわね。
たまに話をすることがあっても、息子のことばかり。そうだわ……。息子が出て行ってからね、この人が余計に無口になったのは。
「すまなかった、ミランダ。今さらだが、許してほしい……」
なによ。今さら謝ったって、謝ったって……私は……
「泣かないで、ミランダ」
「わ、私はとってもとっても寂しかったのよ!あなたが、そばにいなくて!」
寂しくて寂しくて、だから『離婚』なんて、馬鹿なことを口にした。そうでもしないと、この人はずっと口も聞いてくれないんじゃないかって……
「私は自信がなかったわ。病弱で、領主夫人としても何一つできない自分が。情けなかったの……」
「そんなことはない。ミランダ、君はいてくれるだけでいいんだ。それだけで私は……」
「いいえ!あなたは、姉と結婚するはずだった。姉が違う人と、駆け落ちなんてするから……!愛してもない私と結婚するはめになったのよ!」
「ミランダ!」
強い語気に体がビクリと跳ねました。
「すまない……でも、わかってくれ。私は君を姉君の身代わりなんて思ったことはない」
ぎゅっと抱きしめられました。久しぶりのぬくもりに驚いて固まってしまいます。
「ミランダ。私は君がよかった。私はこの通り仕事しかできない男だ。話もうまくない。でも君はこんな私の話を楽しそうに聞いてくれた。つまらない男と言わず、そばにいてくれた。だから……」
胸がドキドキする。まるで、恋したての娘みたい。
「ミランダ、君が好きだ。愛してる」
嬉しくて涙がこぼれました。
「アルファ様、私、その言葉をずっとずっと聞きたかったのですよ」
そう言って、アルファ様を抱き締め返しました。
その後、離婚の話はなくなりました。けれど、私はアルファ様に一つ、お願いをしました。
それは……
「ミランダ、寒くないか?」
「大丈夫ですわ」
夜、テントの中で抱き合いながら、私たちは過ごしていました。
「やはり、すきま風が吹いている」
「そうですか? 直したと思ったんですけど」
「直しがあまいんだ。やはり、屋敷に……」
「いいえ。約束です。今日はテントの中で一緒に寝てください」
テントがある場所は屋敷の中庭。そこに小さなテントを立てて二人でいます。
冒険者になるのは無理ですが、テントの中で過ごしてみたいと私からお願いをしました。
アルファ様は熱が引いたら……と、しぶしぶ了承してくださいました。
寝袋の中でぴったりとくっついて眠る。なんて、幸せなんでしょう。
「あ、見てください。星が見えますよ。アルファ様」
「あぁ、キレイだな」
そう言うと、アルファ様は微笑まれます。
「ふふっ」
「?」
「笑いじわ、増えましたね」
「私ももうすぐ40だ。年もとった」
「そうですわね。私も年をとりました」
「でも、ずっとずっと変わらないものがあります」
「なんだい?」
「それは……アルファ様に対する思いですわ」
そう言って、アルファ様の頬にキスをする。
「愛してますわ。アルファ様。ずっとずっと」
そう言うと、アルファ様の耳は真っ赤に染まりました。
そして、私たちを見守るように、キラキラ、星は瞬いてました。
end
おまけ話
テントに穴が空いていた真相。
主人公は息子(4歳)です。
ーーーーーー
あさからお母さまのすがたが見えません。どこ? どこにいるの?
てとてとてと
あれ~?いないなぁ……
てとてとてと
つくえのしたかなぁ?
よいしょっ よいしょっ
うーーーん。いない……
お母さま、どこ? どこ? ぐすっ……
おとこはすぐに泣いちゃダメだって、お父さまがいってるから、泣いちゃダメ!
お父さまがいないときは、ぼくがお母さまをまもる、カッコいい騎士になるんだ!
ぼくは、木の剣をもって、なみだをふく。
よし! お母さまをさがすぞ!
しつじのマールにきいたら、お母さまは、じぶんのお部屋にいるんだって!
お母さま! お母さま!
あ、いた!
お母さまをみつけて、ぼくはうれしくて、はしった。
でも、お母さまは、ぼくに気づかないで、大きなみどりの三角のまえに立つ。
え? えええええええええ!?
お母さまがみどりの三角に食べられちゃった!!
あたまからガブガブ食べられちゃった!
きっと、あれはみどりのカイブツなんだ!こんなところにいて、お母さまを食べるなんて、ゆるさない!
ぼくは木の剣をかまえて、みどりのカイブツにむかって、はしった。
「お母さまをかえせーーー!!」
剣をふるって、みどりのカイブツを叩く!
「かえせ! かえせ! うわーん! お母さまーー!」
ビリっ
みどりのカイブツに穴があいて、お母さまのかおが見えた。
「お母さま!」
「カール……テントを叩いていったいどうしたの?」
「お母さまーーーー!!」
食べられていなくてよかった。
お母さまのかおをみたら、なみだがいっぱいでてきた。
「あらあら、こんなに泣いて……どうしたの?」
「ぐすっ、ぼく、お母さまが、みどりのカイブツに食べられちゃったと、思った!うえーん!!」
「みどりのカイブツ??……あぁ」
お母さまが、だっこして、なでなでしてくれる。あったかい。
「ふふっ。ごめんなさい。お母さま、ちょっと寂しかったの。お父さまがおうちにいないから」
「さみしいと、食べられちゃうの?」
「そうね……食べられちゃうかも」
「やだ!」
「ふふっ。じゃあ、お母さまが食べられないように、お父さまにお手紙を書きましょう。早く帰ってくるように」
「うん!」
ぼくは、お父さまに、おてがみをだすことにした。ぼくは、まだ、文字がキレイにかけないので、お母さまが代わりにかいてくれた。
「これでよし。お父さまが、早く帰って来るといいわね」
「うん!」
お母さまがうれしそうなので、ぼくもうれしくて、げんきにおへんじした。
『お父様へ
早く、帰ってきてください。
お母さまが、みどりのカイブツに食べられちゃいます。
カールより』
おしまい
ーーーーー
おまけ話2
end後の話
前半アルファの部下、後半執事視点です。
アルファ・バーグ辺境伯は多忙だ。異国との小競り合いが最もたえない地を治めているため、現地と王都を行き来を繰り返している。夫人が待つ屋敷に帰れるのは、年に数えるほどだ。
そのせいか、つい最近、愛想つかされて離婚を切り出されたらしい。
大いに慌てた閣下は、徹夜を重ねて仕事を終わらせた後、休暇をとられて屋敷に戻った。離婚の危機は去ったらしく、閣下は前にも増して夫人を気にかけるようになった。
それは大いに結構なのだが……たまに度が過ぎる時があるので、正直、困っている。
「ミュラー。悪いが、今夜はここに寝泊まりして、仕事を片付ける」
「分かりました。でも閣下、急ぎの仕事はなかったはずでは?」
「そうだが、急ぎ確かめたいことがあるのだ。屋敷に戻りたい」
それにピンとくる。確か、今日、夫人から手紙が届いていたはずだ。また、何か書かれていたんだろう。苦笑いをしながら聞いてみる。
「奥様からの手紙に何か書かれていたのですか?」
「ああ、新しい庭師がきたらしい。それが若い男子で、昔の私に似ているらしいんだ」
書類を手早く処理しながら、閣下は話し続ける。なんとなく落ちが読めるが、何も言わずに聞くことにする。
「『昔のトキメキを思い出します』なんて書いてあった。妻がその男に恋心を抱いているかもしれない」
はぁ? 何、言ってんだ、このおっさん。
「それは……閣下の若い頃に似ているので、昔の閣下へのときめきを、ただ、思い出しているだけですよ」
「いや……私は一度、愛想つかされている。ミランダが心変わりしてもおかしくはない」
「でも、相手は若い男でしょう? いくらなんでも、恋に走るとは……」
「いや、ミランダは可愛すぎる。若い男ならミランダの可愛さにまいってしまうだろう」
いや、まいっているのは、あなたですよ。
至極まじめに言い続ける閣下に、疲れてきた。不毛な言い合いを打破するため、一つ、提案してみる。
「なら、手紙を書いたらどうですか?」
「手紙だと?」
「はい、閣下が行くよりも早く、手紙なら夫人の元に届くでしょう。そうそう、巷では、相手の好きなところを10個挙げた恋文が流行っているそうですよ。閣下もおやりになったらいかがですか?」
「10個では足りんぞ」
そういうことじゃない!
心で突っ込みを入れつつ、閣下に笑顔で言う。
「じゃあ、お好きなだけ、書かれたらどうですか? 奥様もきっと喜びますよ」
「ふむ。わかった。なら、今から書こう」
「え? 仕事はいいんですか?」
「もう終わった」
いや、早すぎだろう……
こうして、閣下は黙々と手紙を書き始めた。
ーーーーー
執事side
何やら朝から奥さまがご機嫌で何かしてらっしゃる。旦那様の肖像画の横に何かを張っていらっしゃるようだ。
「奥様、何をされているんですか?」
「あら、マール。アルファ様から素敵な手紙を頂いたの」
「それはようございました。でも、なぜ、肖像画の横に張っていらっしゃるのですか?」
「ふふっ。こうすると、まるでアルファ様がしゃべってくれているみたいに見えない?」
「はぁ……そうでございますね」
「でしょ! あの人が帰ってきたらこれを読み上げてもらうの。楽しみだわ」
それはかなり恥ずかしいのでは?と、私は思いましたが口には出しませんでした。奥様がとても幸せそうなので。
『ミランダの好きなとこ
1.笑顔が可愛いとこ
2.楽しそうに話をするとこ
3.いつも美味しそうに食事をするとこ
4.くるくる表情が変わるとこ
5.話を聞いてくれるとこ
6.怒ったときは頬をふくらませるとこ
7.帰りを待っていてくれるとこ
8.笑顔で出迎えてくれるとこ
9.手紙をよくくれるとこ
10.私を叱ってくれるとこ
11.家族を大事にするとこ
12.使用人にも心を配るとこ
13.愛してると言ってくれるとこ
14.寂しがりやなところ
15.寂しいとテントに籠るとこ
アルファより』
おしまい
こぼれ話
テント、テントっていっているわりには、テントがなんで出てきたのか、分からないので補足を。
ミランダは田舎貴族の次女ですが、姉が立派で両親の愛情を独り占めしていました。ミランダは、両親に振り向いてほしくて、よく屋敷から逃亡していました。ある冒険者にもらったテントで夜まで過ごしていたという過去があります。もちろん、逃亡して連れ戻された後は、熱が出てぶっ倒れていました。
それをアルファにも話していましたし、アルファと婚約時代にも会えないとわかると家出したりしていました。
不満爆発→テントに籠るというのが、ミランダのパターンなので、アルファも慣れているというわけです。
そんな婚約~新婚時代の話もおいおい書ければなーと思っています。
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2018.10.3 日刊異世界(恋愛)ランキング5位!ありがとうございました!
お礼になるかわかりませんが、おまけを追加しました。
本編ではいなかった息子の話です。
寂しくてテントに籠ろうとしていたら、息子がテントをバケモノと勘違いして穴をあけるという話です。
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評価2000越えありがとうございました!
その後の話を思い付いたので、お礼にアップしました。
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2018/10/6 評価3000越えありがとうございました!
連載がダーク展開しかなく、息抜きに書き出した短編がこんなにも多くの方に読んでもらえるなんて!本当にありがとうございます。
初めて日間異世界(恋愛)ランキング上位にさせていただいて、私にとって思い出深い話になりました!
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2021.7.13
八木愛理さまよりミランダのイラストを頂きました!
八木愛理さま、ありがとうございます!