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6 : 通達

「元気か? 美人ちゃん」


 ベンが廊下から部屋に通じる金属製のドアを開けながら言った。中に入ると、六畳程の静かな部屋、金髪の女性が椅子に腰掛けていた。


「ジョンの奴昔から女たらしでそいつの婚約者だと聞いたが、あいつどうやったらこんな美人をモノにしたんだ」


 ベンの黒い目が笑いながら喋るが、対する女性、マリアの緑の瞳が対照的に睨んでいた。


「貴方、ジョンに一体何しようというのよ?!」


 マリアは閉じ込められているストレスからか啖呵を切らした。ちなみにマリアは椅子に縛られている訳でもなく、部屋にも本だけはあった。ただし窓は無く、廊下に通じるドアも何重に鍵が掛かっている。


「それは雇い主が決める事だ。別に俺だってただの道具。どうやってそれを手に入れるか、それだけの話だ」

「昔、ジョンから貴方の事を聞いた事があるわ。好戦的な性格で辞めさせられたって」


 ベンはマリアの座る正面のテーブルにサンドイッチを幾つか置き、言い返す。


「俺はジョンから部隊を追い出された。その復讐とやらにお前の目の前で殺してやるつもりだ」

「他にも聞いたわよ、良く命令違反していたって。お陰で仲間が犠牲になったって」


 マリアの煽りにも反応せず、ベンは背を向けてドアの前に立った。


「その強気はジョンに似ているな。気に入った、ならば先にお前から殺すとしよう。ジョンの苦しむ顔が見れる」


 ベンの姿はドアの奥に消え、鍵を掛ける音が数回。


 泣きそうな顔をこらえ、仕方なくマリアはサンドイッチを一つ掴んだのだった。






「よおジョン、久し振り一緒に仕事行こうぜ」

「もうお前のヘマで仲間が死ぬのは御免だ」


 別の部屋、ベンが中に居座るジョンと対面していた。ジョンの憎まれ口に何故かベンは不敵な笑みを浮かべる。


「それに懐かしのお仲間も居るんだぜ。合うのはまた仕事の時だが、今はこれを読んでおけ」


 かつての同僚はファイルをテーブルの上に投げ捨て、それ以上は何も言わず部屋を出て行った。


 早速ファイルを開き、中身を確認する。



 明日午後七時、軍需会社「アームサイト」のCEOがロサンゼルス郊外の高級住宅街にある自宅で会社の創設記念パーティを開く予定。

 目的は自宅内の警備厳重な保管庫にある「V-5A」という名称の試作兵器の奪還。

 作戦メンバーは表から直接潜入するのがジョンとベンを含む四人、裏方から間接的に介入するのが一人、バックアップオペレーターが一人。

 保管庫は邸宅内の地下に存在し、幾つもの厳重な警備に守られている。

 また、パーティでは一層警戒態勢が強化される見込みで、武器の直接の持ち込みは出来ないものと思われる。

 そこで作戦は……



「ったく、結局悪人ってのは武器か金しか欲しがらねえな。ジョーカーとか見てみろよ、ただ狂気の為にゴッサムシティを恐怖に引き入れる。歴史に残りたいならそれぐらいしやがれ」


 ジョークで悪態をつきながら、一通り目を通したファイルをテーブルの上に放り投げた。ファイルは滑って床に落ちる。


 愚痴をこぼしながら、ジョンは別にある事を思い付いた。


「しかしどんな兵器なんだろうな。ただの型番号って事は俺達には知らせたくない事らしい。でも気になるよなあ。持ち出せるならそこまでデカくは無さそうだし……」






「大佐、少しよろしいでしょうか?」

「構わんよ。今はどんな少しの情報でも欲しい所だからな」


 大佐は皺のある額に流れる汗を拭いながら部下に返答した。


「というかこれは単なる私の考えなんですが、奴ら今度の「アームサイト」のパーティを狙っているのではないかと」

「是非意見を聞かせてくれ」

「最近一連の退役軍人の連続殺害事件ですが、検死の結果気に掛かる結果が現れましてね」


 大佐はすっかり聞き入っていた。視線で説明を促す。


「例えばこちら、元貴方の部下の一人で被害者の「デニス・パーカー」の身体情報です。こっちの数値は検死の結果出た身体情報ですが、微妙に違っているんです。誤差とも思える範囲でしょうが、どの死体にもばらつきがあったんです」

「続けてくれ」


 まだ最初の「アームサイトのパーティ」というキーワードまで繋がらない。


「それでこちらは二週間前、アームサイトのCEOの自宅内を出入りする使用人ですが、一人新入りが来たらしく、街路カメラに顔が映っていました」

「という事は?」


 部下が大佐の左手へ写真を渡した。大佐の右手には捜査ファイルの顔写真。二つを見比べる。


 ファイル左斜め上の写真と、街路カメラの捉えたという顔は、少なくとも大佐が見る限り同じだった。


「最初の死体が発見されたのは二週間前、って事は時期が一致する。とすると、他の引退者も死を何らかの方法で偽装し、そいつらを使ってアームサイトにある何かを狙うつもりか」

「でしょうね。しかしあそこの社長はやたら頑固で警戒心が強いですから自宅にすら軍並みの厳重警備を敷いていると有名ですのに……」

「だが、それを突破出来るのがあるとすれば、「彼ら」しか居ない」


 大佐の思い付くような発言に、部下がはっとなった。


「そうか、それで「ユニバーサル計画」の被験者達を……」

「下手な小国の軍隊など一瞬で皆殺しに出来る奴らだ。やはり少なくとも「計画」を知っている人物である事は間違いない。今まで「計画」に関与した人物を片っ端から調べてくれ」

「了解です!」


 幾らか表情の晴れた部下は深い椅子に座り、キーボードを高速でタイプしていく。


 尚、大佐の怪訝な顔付きは更に深みを帯びた。


(だとすれば誰だ? 私達への復讐だとでもいうのか?)

「あ、あとアームサイトの社長は明日が誕生日で、明日の夜七時からパーティを開くみたいです。きっとそれを狙って奴らが動くかもしれません」

「何っ?! 早速人員を手配してくれ!」


 連続殺人事件捜査本部の雰囲気は更に喧噪さを増した。

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