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5 : 仕事

 都市郊外にある廃車解体工場にて、パトカーと軍事車両が停まっていた。


 現場には黄色いテープが貼られ、警官や軍人が何かを探している。


 その内の軍人の一人が、胸に銀色の鷲の階級章を付けた人物に歩み寄った。


「大佐、目撃によるとこのすぐそこの歩道で、茶髪で中背の男が自転車を勢い良く漕いでいて黒いバンに撥ねられたとか」

「うーむ、もう一時間も調査しているのに血痕一つ見つからないとは……」

「あと現場で気絶していた人物達の容態がすっかり安定したらしく、訊いてみますか?」

「一応訊くとするか。しかし「向こう」の黒幕がこちらに嗅ぎ回られるのを嫌っているだろうし……」


 大佐と呼ばれた白髪の男は自信なさげに返す。兵士が二人現場で包帯を頭に巻かれて座り込んでいる人物に駆け込んだ。そして部下の一人が大佐と呼ばれた人物へ更に問う。


「何かお考えがあるんですか?」

「……現場に残されていた奴ら、訓練されているようでもなかった。そこらのチンピラと同じレベルだ。普通そんな奴らが軍の機密を知って計画的に襲いかかる事なんて出来ると思うか? どうやら向こうは我々の素性に詳しいとみた……」


 白髪の男は眉間に皺を寄せながら深くため息をついたのだった。






「起きろ」


 仰向けのまま瞼を開ける。視界がぼやけている。


「麻酔だよ。本当なら殺してやりたい所だったが、命令でね。しかしお前も大分衰えたんじゃないか? やっぱ女か?」


 そうだ、マリアを助けようと、それで撃たれて……


「まあ「仕事」をするには問題無えし、すぐ勘も戻るだろう」


 仕事? そのために俺を捕らえたってのか? 仰向けのまま左端に無精髭の男が見えた。しかし声がまだ出ねえ。


「心配すんな。「同僚」達も待っているぜ」


 同僚だと?


「この前から軍の退職者達が次々に殺害されるニュースがあったろ? あれは俺がやったんだ。と言ってもただ死んだように見せ掛けただけだがな」

「……なるほど、殺しが得意なのは相変わらずか」


 やっと声が出た。ベンの奴得意げな顔してやがる。


「お前は逆に救出作戦が得意だったがな」

「ところで、お前さっき「仕事」と言ったが、どういう意味だ?」


 尋ねながら起きようとする。しかし手足は縛り付けられているらしく、起き上がれなかった。見下ろすと、病人搬送用の簡易パイプベッド。


「残念だが、それは出来ない。俺は雇い主の代理として来ているまでだ」

「何だと……それよりもマリアは何処だ?!」


 結婚前だってのに許せねえ。だがベンは涼しく笑っている。


「教えるかどうかは雇い主が決める事だ」

「クソッ……やけに忠実だな、見違えた」


 あいつ、昔は良く命令に背いたりしていた癖に、そこが何か引っかかる。


「世の中には変わるもんと変わらんもんがあるってこった。まあ命令があるまでここで待機しとけ」


 六畳程度の倉庫みたいな部屋にあった唯一のドア、そのの向こうへベンは消えた。


 ちくしょう、トイレどうすりゃあ良いんだよ。良い年してお漏らしなんてしたくねえよ。






「ベン、ご苦労だったな。しかしあんな奴がそう簡単に言うことを訊くだろうか」

「そのために恋人まで攫ったんでしょうが。奴にはそっちの方が効果的だ。それに今回はわざわざ偽の死体を用意するまでも無かったでしょうに」

「良い兵士は手間が掛かるなあ、ベン? お前達は軍が五千万ドルも掛けて作った「最高傑作」だったのだからなあ」

「しかしあんたがまさか「計画」を知っていただなんて驚きでしたがな。本当に何者だ?」

「ただ金が欲しいだけのそこらの愚民と同じさ。さて、必要な人間は揃った。今度もまた一働きさせて貰うぞ」

「了解。次は何です?」

「一つ、大がかりな虐殺と行くぞ。殺しは得意なんだろ? 失望させるなよ」

「なあに、腕が鳴りますぜ。平和な日常に飽き飽きしてたんだ。俺からその平穏を潰せるだなんて最高だね」

「自信満々なのは良い事だ。ただし今回は手強くなりそうだぞ。専門家相手にどうやれるか、お前達の腕の見せ所だ。五千万ドルの価値を見せておくれ」

「ほう、そいつは面白そうだ」






「残念だが俺は何も知らねえ。名前も、目的もだ」


 廃車修理工場で取り調べに掛けられていた男は、そう言った。その顔は半分怒りが籠もっていると同時に、何故か泣きそうでもあった。


「その雇われたという人物の特徴は分からないか?」

「散々な目に遭ったんだ、覚えているとも。短めの黒髪で、身長は百八十と少し、顎髭を生やし……」


 問いかけている人物の隣の警官がバインダーに何かを書き込んでいく。目の前の証言を頼りに、一つの顔が出来上がった。


「目には細めのサングラス、服装は俺みたいな感じだったが、どうせ奴の事だからすぐ変えるだろう。奴はただの代理人とだけ名乗っていたが、きっと裏に別の奴が居るんだろ。あ、あと首に軍のチェーンを巻いていた」


 バインダー上の紙に更に書き足し、隣の男が更に訊いた。


「そうだ、お前達が誘拐しようとしていたという人物の特徴は?」

「ああ、そっちもただ顔だけ知らされて他は何も分からなかったが、顔だけなら。茶髪、青目、身長は百七十後半……」


 別の紙に警官が似顔絵を描いた。そして、訊かれた人物は何かを思い出したらしく、口を開いた。


「そういや、奴ら名前を喋ってたな。しかも二人ともお互いを知っているみたいだった。俺達が雇われた方がベンとか言ってて、誘拐しようとしていた方はジョンとか言ってた。そうそう、あと一人、誰かも誘拐していたみたいだぜ。金髪の女が、名前はマリアとか言ってた。青目で……」


 警官が早口に対して忙しく書き込む。向こうが喋り終わった時には疲労で息を軽く切らしていた。


「これは有力な情報かもしれん。早速大佐に伝えよう!」


 書記係の方が頷き、二人は早足で去ろうとした。が、尋ねられていた方が呼び止める。


「なあ、俺はどうなる?」

「今回は許すとも。しっかり反省しておけ。ご協力感謝する」

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