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Under Walk  作者: 東雲 梨
一章 主人公地味とかありますか?
1/3

平凡な日常

1.平凡な日常


暑い日差しが照りつける夏のある日。

友達と水着を持って電車に乗って、街から離れて川へ遊びに行く。

都会暮らしの僕でも年に数回は体験する平凡な日常。

川沿いの大きな岩からダイブしてはしゃぎ合う。…はしゃぎすぎたんだと今更ながらに思う。今年の最高気温を記録した真夏日に僕は、岩から滑り落ち後頭部を強打して気絶した。

…それだけならよかった…まさか…


---人間を辞めることになるとは---



目を開けた先にあるのは真っ白な天井…よりも先に、目に涙をたっぷりと溜めている母親代わり基、華さんの顔があった。

少し頭が痛い。

状況把握も出来ていない僕に華さんが言った。

「もう!やめてよね、心配したんだから…」

こんな状況でも華さんの声を聞くなり僕の心は少し落ち着いた。そして、ゆっくり口を開いて一言、

「ごめんね、華さん僕は大丈夫だよ。」

そう言いながらゆっくり起き上がると、僕の足元に頭を預けて寝てしまっているおとうとが視界に入った。泣いてはいないものの目の下が腫れて赤くなってしまっていた。多分、相当泣いたんだろうな、そんなことを考えながら周りを見渡す。

どうやら病院のようだ、ラノベだとありがちな展開…こんなこと考えられるんだから僕は相当余裕があるみたいだ。我ながら流石に思う。

黒縁の眼鏡をかけた30代位の医者が言う、

「丸一日寝てしまっていたので心配しましたが、特に異常は無さそうですね。あと一日病院で様子を見て退院でいいでしょう。」

「えっ…僕、丸一日寝てたの?」

「えぇ、頭部を打ったときに脳に強い振動が与えられたせいですよ。お友達がすぐに病院に連れてきてくれたおかげで軽傷で済みました。」

手を頭の後ろに伸ばす。包帯越しでもわかる…これは、縫ってあるんだろう。先程からの頭痛の原因はきっとこれだろう。一日様子見と言われたし、明日には治るか。

「では、これで失礼」

気がつくと医者は出ていってしまった。

「じゃっ、あたしも退院の手続きしてくるわ」そこには、いつもの明るい華さんがいた。「隼斗のこと、よろしくね」

僕は小さく頷いた。隼斗というのは僕の弟でのことである。

そういえば、僕の紹介をしてなかったね。

僕は緑川(ミドリカワ) (カケル)高校一年。

生まれてまもなくして実の母親に捨てられる、というなんとも普通じゃない人生のスタートだった。3歳になるまでは保育施設で育てられたらしい。実際の記憶はほとんどない。そこで緑川華、通称華さんが僕を家族にしてくれた。

華さんはこの街一番のパン屋《flowerBAKERY》(最初に聞いた時はパン屋なのか花屋なのかよく分からなかった)のオーナーをしていて2人のアルバイトと一緒に経営している。実を言うと夫が亡くなっているのだ…水難事故らしい。だから、華さんは川辺や海が苦手で、僕が川沿いの岩に頭をぶつけた時は魂が抜けるかと思ったみたい…悪いことしたなぁ。

そして、華さんの実の息子である隼斗(ハヤト)中学二年、今は二つ下の弟である。今はこの三人で仲良く生活してる。

…華さん遅いなぁ、もう少し話をしようか。

じゃあ、僕の趣味について話すよ。ここまでの喋り方で分かる通り僕は、ライトノベルやアニメが大好きだ。

でも、実際自分が味わうとなると話は別だね。僕は親に捨てられてること、保育施設で育てられた事があったと説明した通り…僕は平凡な日常が欲しいのだ。あんな、周りと違う能力も要らない。華さんと僕と隼斗の三人で普通の家族のように生活していたいのだ。

しかし、この世界ではそうはいかない。僕の住んでる地域はちょっと変わっているというか、化け物が住んでいるんだ。

…デンへと呼ばれる人間離れした能力が使用できるようになるウイルスが数年前にばら撒かれた事があったらしい。しかし、感染者(デンヘス)は見つからず終わった。だが、数ヶ月後のことだった、この国の三大都市の一つである(ツェルラバー)職人の多く集う街にヘドロのような何かが街に住む人口の約三分の一である一千人を殺すという事件が起こった。これが発生した後に、デンヘスが次々と現れ暴走を繰り返す歴史上最も最悪な事件が起こったのだった。

そして、手も足も出せず政府は国の滅亡の危機に晒された。すると…片手が大きな刃の青年が、暴走し人を維持出来ていないデンヘスを倒し一躍有名になる。所謂、英雄になったのだ。

けど、現実は甘くなくて…能力をコントロール出来ていた彼も人間を裏切る可能性があるとされて…処刑されてしまう。

これが能力を操ることの出来る化け物…ディスピールの誕生だった。しかし、このデンへは遺伝性だと分かり暴走してない感染者の一家などが抹消されていくうちに、事件や化け物の存在は薄くなっていっていた。しかし、さいき((


「…兄貴?目ぇ覚めてたんだ…」

「お、隼斗〜怪我人の僕より起きるのが遅いってどういう事だよ〜」

「夜遅くまで起きてたんだからしょうがないだろ…大丈夫?」

相変わらず心配症だなぁ…この親子は。

「うん、ありがとう。華さんそろそろ帰ってくると思うよ」

「隼斗〜手続き終わったから帰るわよ〜」

ビンゴ!ベストタイミングじゃん!

「華さん、隼斗、心配かけてごめんね」

「いいのよ!…安静にしてなさいね?」

「はいはい…」

「兄貴!また明日来るからな!」

…そして、病室はまた静まり返った。少し寂しい気もするな…また明日…か。


---そんな日は来なかったけど---



話の展開は突然だった。病院と言えど夏は暑く寝返りを打とうとした時だった。おかしい…手が動かない。金縛りみたいな、痺れのせいとかじゃなくて、拘束されたように固定されている。固定された部分からは金属特有のひんやりとした冷たさが、余計背筋を強ばらせる。

慌てて起き上がろうとした。しかし、腕は愚か足すらも固定されていて動かない。叫ぼうとしたその時だった。

「叫ぶのはよしてくれよ、ここはよく響くからね」

そう言って、コツコツと革靴であろう靴で歩く音がする。よく響くこの部屋で足音が誰のものかはすぐ分かった。

そこに居たのは、昼間の黒縁眼鏡だった。

(ここは、どこだ。僕に何する気だ…)

姿を見るなりここの場所そして、固定されている理由を聞こうとしたが声が震えてしまって一言も言えていない。僕の横たわる実験台?であろうものに無表情でコツコツ近づいてくる。冷や汗が頬をつたる。

よく見ると後ろにもサングラスをかけ顔のよく見えない男が二人いる。白衣を着てるから医者かと思った。眼鏡が言った

「華さん?だっけか?君の保護者には悪いけど、君は100%デンヘスなんだよ」


え?


顔から血の気が引くのが良くわかる。けど何もわからない…。口からポロリと

「え?」

その一言が漏れた。

「あのねぇ…信用ないなら頭触ってごらん?」黒縁がそういうから、昼間に縫われたあとをすっ…とゆっくり撫でてみた。


ない?

傷口は?縫い跡は?あれ?ない?


「なぁ、今お前、手錠外してないのにどうやって手で頭を触った?」





あ…





気づいた瞬間だった。体の奥底から電流が頭にビリリッと駆け巡った。全身が溶けるように熱いあ、ぁぁ熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い…痛い…い、たい……ぃ


「うぁ…っ…あぁあああああ」

僕が声を上げた刹那、きっと黒縁は後ろのふたりに命令しようとしたんだと思う。彼らの動きがゆっくりに見える。

僕は黒縁の頭を殴ろうと右手の拳を握りしめる。忽ち手はまるで砂のようにスルスルと形が変わって先の鋭い槍へと変形したのだ。そして、頭から標準は変わり見事心臓を一突き。深く深く刺さったであろう槍は、ターゲットを変え残りの2人を同時に串刺しにする。

当然僕に戦闘経験はない。デンへが本能的に体を動かしたんだと思う。槍はスルスルと拳の形に戻る。血で真っ赤っかだ。

今だから、当時の様子を冷静に思い出せるけれど、当時は何も考えず流されるまま華さんと隼斗のことだけを考えていた気がする。頭がはっきりしてきたのは血塗れの手を隠しながら走っている最中だった。

あ、あれ?僕…人を殺したの?あれ?どうしたらいいの?急に不安がどっと押し寄せた。不安、恐怖、嫌悪、その他もろもろ。

気づけば僕はディスピールの溜まり場と言えるルヴェラムの森へ来ていた。


手足はフラフラ、意識は朦朧体は砂のようにホロホロと崩れてこのままでは倒れてしまう…

いや、もう、この際死んでも華さんにも隼斗にも迷惑かけないよね…

朦朧とする意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。

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