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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
8/38

彬 3

 毎日が楽しい。

 俺は、充実した日々を送っていた。


 美乃利ちゃんは女子高育ちと言うだけあって、とても女の子っぽい女の子だった。

 男との距離感が、正直あれっ?と思うこともあったけど、美乃利ちゃんの親友だという例の黒髪ロングの

彼女(谷岡美由紀さんというそうだ)が、「ああ、教室でもそんな感じよ」と笑っていたので、そういう人なんだと思うことにした。


 今まで料理したことなかったという美乃利ちゃんが、お母さんと一緒に作ったというお弁当を持ってきてくれた時は、感動してしまった。

 「見た目が悪いんだけど、味はママにみてもらったから大丈夫だと思うの」

 ちょっと巻きが甘い卵焼きとか、濃い焦げ目の付いたハンバーグとか、まあ、見た目はともかくその気持ちに俺は感動したわけですよ。


 大学のキャンパス内には広い芝生の広場があり、カップルや女の子のグループのランチスペースとして人気がある。

 今日は梅雨の晴れ間で、久しぶりの晴天になったので結構混雑してる。

 俺たちもぶらぶら歩いて空いているベンチを探して腰を下ろした。


 早速広げて「いただきます」と手を合わせ、食べ始めた。

 うん、すごく美味いよ!と言うと、美乃利ちゃんは嬉しそうに「ホント?ありがとう!」とはにかんだ。

 可愛いなあ。

 隣にこの笑顔があれば、何でもおいしいよなぁ。なんて。


 「夏休み入ったら、どこか行こうか。海とか?」俺は言った。

 いつもは近場しか行けないからな。バイト増やしてるし。

 

 そう。彼女ってお金がかかる。

 高校時代の彼女は「お互いお金ないし、割り勘にしよ」って言ってくれてたけど、大学生になってこっちのほうが年上となると、そうもいかないようで。

 未衣に豊島さんはどう?って訊いたら、殆ど割り勘だけど、たまに強引におごってくれると言っていた。

 きっと未衣が、頑として割り勘を主張してるんだろう。

 そういう女の子だ、あいつは。


 「うん!嬉しい」美乃利ちゃんはぱっと笑顔になった。

 「彬くん、あまりお出かけしたがらないから、外出嫌いなのかと思ってた」

 「いや、そんなことはないよ」金がないだけで。


 「え、じゃあ、今度日曜日にディズニーランド行こうよ!」美乃利ちゃんは茶色の大きな瞳を輝かせる。

 「パパのお勤めしてる会社で、ディズニーランドのチケット安く手に入るの。

 ね?私、彬くんとディズニーランド行きたい」

 と可愛らしく見上げてくる。


 こんな顔されたら「いいよ」って言うしかないじゃん。

 「わあ、ありがと~大好き!」

 抱きついてくる。わっ、俺、箸持ってんだけどっ!

 危ないよほんと…

 

 この、抱きつき癖。

 女子高ならではの愛情表現なんだそうで。

 クラスメイトの男子連中は、ドン引きするか下心で喜ぶか。

 美乃利ちゃんは小学校から女子ばっかりの学校に通っていたせいで年季が入ってるから、気を付けててもなかなか抜けないらしい。


 何故大学は女子大に行かなかったの?と訊いたら、パパの教育方針だそうで。

 どうも、結構なご家庭のお嬢さんぽい。

 こんな貧乏学生と付き合ってると知ったら怒り出すんじゃないかねえ…


 「パパにチケット頼むね~」と言って、嬉しそうにニコニコしている。

 良かった。

 怒ってないみたいだ。

 俺はホッと息をついた。


 先週の日曜、彼女が見に行きたいと言った映画を観に行ったんだけど、これが失敗した。

 『あなたの腎臓が食べたい』とかいうタイトルだったので、てっきりホラーかオカルトだと思った俺は、へえ~美乃利ちゃんそういうの観るんだ、と2枚チケットを買った。

 観ながらいつ殺人のシーンになるのかなあ、と思っていたんだけど、いつまで経っても甘々の会話劇みたいな感じで、気づいたら眠ってた。


 揺り起こされて目を覚ましたら、美乃利ちゃんが目に涙を浮かべて怒っていた。

 人が死ぬことは死ぬけど、難病で恋人と死に別れるっていうラブストーリーだと聞いて、ああそうだったんだ、と間抜けな声を出したのが、美乃利ちゃんの感情に火に油を注いでしまったようで。

 その日はそれからどんなに謝ってもなだめてもすかしても口をきいてくれなかった。


 翌日、気まずい思いでいると美乃利ちゃんから連絡があって、美乃利ちゃんの所属するアニメサークルの部室に呼び出された。

 行ってみると、谷岡美由紀さんと美乃利ちゃんがいて「ほら、謝るんでしょ」と促されて美乃利ちゃんは泣きながら謝ってくれた。

 「いや…俺こそごめんね、くだらない勘違いで…」と言うと谷岡さんがくすっと笑って「ナイスボケでしたね」と言いながら、泣いている美乃利ちゃんの背中を押した。

 

 美乃利ちゃんはうつむいて泣きながら俺の前に立ち、そのまま俺の胸に頭をつけた。

 俺が戸惑っていると「じゃあ、あとはよろしく」と谷岡さんは微笑んで部室から出て行った。

 俺はおずおずと美乃利ちゃんの背に腕を回し、ぎごちなく背を撫でた。

 それから俺はまた謝り倒し、なんとか笑顔を引き出すことに成功したのだった。


 もうあの轍は踏まないぞ、と俺は新たに決心した。

 「彬くん、サラダも食べて~」と言われ、ポテサラを頬張る。

 ちょっと具が大きいな、とはもちろん言わない。

 美味しいよ、と微笑むと、胸の前で手を打ちあわせ、わあいと喜ぶ。


 俺たちが仲良く座っているベンチの向こうで、わあっという歓声が上がった。

 なにごとかと振り向くと、あ、、、未衣だ。

 あと豊島さんと、知らない人が3人。


 5人で弁当を囲んでいるようだ。

 恐縮しているような様子の未衣と、なんか嬉しそうで得意げな豊島さん。

 あ、未衣の髪と頬を撫でた。愛しそうに微笑んで。


 「…彬くん」美乃利ちゃんが低い声で言う。

 「美乃利の方を見て。中野さんは見ないで」

 「え?未衣を見てた?そんなことないよ」俺はとぼけてハンバーグを食べる。

 「おいっしー!美乃利ちゃんが焼いてくれたんでしょ」と大袈裟に言ってにっこりする。

 

 美乃利ちゃんの、ヤキモチは嬉しい。

 相手が未衣っつうのがちょっとね。困るんだけどね。

 あいつは俺の友達だから、美乃利ちゃんにとっての谷岡さんみたいなもんだから、と言っても理解してもらえないらしい。

 拗ねたり怒ったり、相手が未衣だとなだめるのが大変だ。

 他の女の子だと、別にそこまで激情を露にする感じではないんだけど…


 ああでも。俺はこっそりため息をついた。

 未衣の弁当、バラエティ豊かで美味いんだよなぁ…菓子作るのも上手だし。

 いいなあ豊島さん。

 未衣のやつ、俺にもまた作ってくれねえかな。


 俺は美乃利ちゃんの弁当を平らげ「ごちそうさまでしたっ!美味しかったっ」と大きな声で言った。

 美乃利ちゃんはにこっと笑って「また作ってくるね」と片付ける。

 「お腹いっぱいで午後の授業、眠くなっちゃうな」と笑うと「一緒の講義が取れたら良かったのに…」と寂しそうに言う。


 授業中、離れているのが嫌だ、と可愛いことを言ってくれる。

 俺が授業終わったら即バイト、っていうのもあるんだろうけど…

 まあそこは受け入れてもらうしかないなあ、と俺は申し訳なく思う。


 今日の夜、バイト終わったら電話する、と言って別れた。

 今日は美乃利ちゃんはアニ研に行くそうだ。

 なんか意外な気がしたんだけど、高校時代まで2次元の男にしか興味なかったそうで。

 お嬢様学校で、単に出会いがなかったのでは…という気もするけど。


 だから、何というのか…どこまで手を出していいのか。

 正直なところ測りかねている。

 無理体なことして嫌われたくないしさ。

 あまりにおぼこなお嬢さんに変に手を出して、おっかないパパに結婚しろとか迫られたらとか。

 まあそれは冗談だけど。


 

 

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