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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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彬2

俺はバイト中 、なんだか浮かれていたみたいで皆から気味悪がられた。

店長なんかあからさまに俺の額に手を当て「熱はなさそうだけど…今日は早めに上がっていいぞ」と心配そうに言っていた。

ここ最近、全然元気がなかったのに突然浮かれだしたら、そりゃ皆ビックリするよなぁ。

判っていても、ニヤニヤ笑いが止まらない。へへへ。


バイトが終わって外へ出ると、早速穂坂さんにLINEしてみた。

『お疲れ様です。バイト終わったよ』

すぐに既読になり、『お疲れ様』スタンプが送られて来て続いて『LINEありがとう♡待ってたからすごく嬉しい』というメッセージが来た。


それだけのことなのに、なんかすごく嬉しくて歩きながら一人でニヤケてしまった。

キモいぞ、俺。気をつけろ、今すれ違ったお姉さんがめちゃめちゃ引いてたぞ。

不審者一歩手前だ。


それから家に帰るまでずっとLINEで穂坂さんと会話していた。

駅のホームで何本も電車をやり過ごし、互いの誕生日や血液型、趣味とか好きな映画とか思いつく限りの個人情報を交換した。

彼女の自宅の最寄駅は大学から俺と反対方向だったので、明日は駅で待ち合わせすることを約束してやっと終わりにした。


帰ったのがすごく遅くなってしまったけど、なんだかとても充実した気分だった。


翌日、久しぶりにスッキリして目覚めた。

酒を飲まないで眠ると寝起きはこんなにさっぱりしているものだったか。

俺はここ最近の泥酔生活を反省しながら支度して、朝日の中を気持ちよく歩いて駅に向かった。


駅へ着いて改札を抜けると穂坂さんが居て、驚く俺の腕に抱きついて来た。

「おはよう♡待ちきれなくて来ちゃった!」俺を振り仰いで嬉しそうに笑う。

彼女の甘い香りが漂って、俺はドキドキした。未衣とは違う香り。


「ビックリしたよ、ずいぶん早く家を出たんじゃないの?」

「そう、ママに驚かれちゃった。どうしたの〜って訊かれて彼氏と行くのって言っちゃった」エヘヘと首をすくめて笑った。

そんな仕草も可愛くて、腕につかまられたままプラットホームへの階段を登る。

誰かに見られたら…そんな思いが一瞬よぎるけど、まいいかと思い直す。

カノジョと腕を組んで何が悪い?


そのまま大学へ行き、昼食を一緒に摂る約束をして別れた。

教室に向かっていると、千佳ちゃんがいつの間にか横に並んで歩いている。

「彬くん、今の娘誰?」目敏い…いつものことだけど。

「誰って…」彼女と言おうとして、千佳ちゃんの表情を見て言葉を飲み込んだ。


千佳ちゃんは怒っているような、悲しんでいるような、なんとも言えない表情で俺を見ていた。

「千佳ちゃん…?」

「彼女、できたんだぁ。良かったね〜」急にニコっと笑う。

「うん…」

「未衣とも普通にしゃべってあげてねっ!すごく気にしてたんだよ〜」


そう言って教室に走って行ってしまった。

何だろう…あの複雑な表情の意味を図りかねて、俺は立ち止まって見送った。

そしてはっとする。

っていうか、もう彼女ができたことバレた!未衣にも筒抜けだ…

早すぎるだろー!


その日の1限目は池田先生で、またレポートの課題が出た。

もう勘弁してくれーって感じだが、その分試験がラクなので文句は言えない。

っと。

パソコンないんだよ俺。

未衣に借りないと。


と考えて、はたと気がついた。

本当に俺って未衣に頼っていたんだなあ…

未衣と話せなくなってからの、この一週間くらいで何度こういう事があったか数え切れない。

情けない。

部室に誰かが置いてったパソコン、まだあるかなあ。

PCルームに空きがあればそれでもいい。


とりあえず部室に向かった。

2限目はサボりだ。未衣につきあって受講してただけで、昨年単位もう取れてるし。

レポートやってしまおう。


未衣に頼れないと思うと、自分でやるしかないという気持ちになった。

俺だってやればできる子なんだよ。


部室には珍しく誰もいなかった。

未衣の彼氏の豊島さんも、未衣とつきあいだしてからばったり姿を見せなくなった。

未衣会いたさに、部員でもないのに入り浸っていたみたいで。

泣かせるじゃござんせんか。


誰かが捨てるのを面倒がって置きっぱなしの古いパソコンはまだあった。

立ち上げてみると起動したので有り難く拝借する。

借金のカタに先輩に持ってかれた俺のパソコンは今何処…なんて考えてもしょうがない。

このパソコン貰っちゃおうかなぁ。


テキストと首っ引きになってパソコンに向かっていると、誰かが部室に入って来た。

顔を上げると、驚いた表情の未衣がいた。

「あ、入っていい?」とか訊いてくる。なんか久しぶりにまともに見る未衣の顔。

「どーぞ。別に俺の専用じゃないし」うわ、俺素直じゃない。


コピーの束をテーブルの上に置くと、未衣はおずおずと俺の向かい側の椅子に腰掛ける。

「それ、さっきの授業のレポート…?」

「そう」

「・・・・・・・」未衣が絶句しているのが判る。何だよ失礼な奴だな。


「そっちこそ何だよ、2限目出なくて良いのか」

「今泉くんと斎藤くんに頼まれて…レポートの資料を」コピーの束を持ち上げて見せる。

「アイツら…俺から未衣のノート借りられなくなったからって、未衣に直訴したのか」ずるい。

後で今泉から借りよう。


「未衣もさあ、お人好し過ぎるだろ。授業サボってまでやってやらなくても」

「急に今日は休講になっちゃったのよ」未衣はコピーに目を走らせ、マーカーでアンダーラインを引いていく。

羨ましい。


つい目で追っていると未衣はため息をつき「…見る?」と差し出して来た。

有難い。俺は恥も外聞もなく受け取った。

未衣はくすっと笑った。


「さっき千佳から聞いた。彼女ができたって?」

またコピーに目を落として何気なく言う。

「そうなんだよ〜」嬉しくてヘラヘラ笑ってしまった。

未衣は呆れたように俺を見て「昨日、教室に来てた娘?」と訊く。

「いや、あの娘は彼女の友達。俺を呼び出しただけ」穂坂さんの親友なんだって。昨夜聞いた。


「ふうん。まあ、良かったね。部屋ちゃんと片付けるんだよ。あんなの見せたら嫌われるよ」

「また始まったよ、未衣のお節介。わぁってるよオカン」

「その失礼な物言い辞めてくれる?19歳の乙女を捕まえてさぁ。このデリカシー欠如男」

「はあ?乙女って?あれ、俺にはオカン以外なにも見えんなぁ」

「一度眼科にお行き遊ばした方が宜しくてよ。ついでにデリカシーも手に入ると良いわね」


俺は久しぶりの未衣とのやりとりが嬉しくて、レポートのことなんか忘れてしまって昼になってしまった。

そうだ。この空気感。俺は大好きだったんだ。

未衣はやっぱり俺の親友。






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