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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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未衣・彬 20

 本番前日の午後にはなんとか設営や設定も終わり、予定通りゲネプロを行った。

 稽古は深夜まで及び、とりあえず役者には予約してあった学内の宿泊施設で休養を取らせて、裏方は徹夜覚悟で最後の追い込みに入る。

 本番は二日間、合計3公演の予定で明日は午前と午後に1公演ずつ。


 滝沢と彬と未衣は舞台上のバミリの確認や、音響・照明・大道具・小道具のスタッフとともにキャスト抜きでの合わせをして、全部動かしてみる。

 思ったよりスムーズに時間通りにできたため演出は稽古を終了にし、朝方4時頃にはいったん解散になった。

 

 「うぁー…ねみい…」彬が大きく伸びをして、明け方の寒いロビーの椅子に座り込んだ。

 「昨日もほぼほぼ徹夜だったんだぜ…もう、本番まで動けねえよ~」


 「それは裏方は皆同じなんだから。彬だけが寝てないわけじゃないでしょ」未衣は自動販売機で買った温かい缶コーヒーを彬に手渡しながら言う。

 「飲んだら少しでも寝ておいたら?時間になったら起こしてあげるから」


 缶コーヒーのプルトップを開けて一気に半分ほど飲み干した彬は「未衣は?寝ないのか?」と立ったままコーヒーを飲んでいる未衣に声をかけた。

 「あ…うん。眠くないっていうか…」

 

 昨日キャットウォークで聞いてしまった、茜の彬への告白を思い出すたびに胸がドキドキしてしまって未衣は全く眠れる気がしなかった。

 宿泊施設は男女別だけど雑魚寝だから、茜と同じ部屋で寝むのもなんとなく気が引ける。


 彬はさらっと断っていたけれど…

 良かったのかな。

 茜、あのあと泣いてた。祥子も慰めようがないって感じで「だから言ったでしょ…彬は未衣のことしか見てないよって…」と一緒に涙声になっていた。


 ため息をついて缶を捨てに行った未衣を眺めて、彬は寄りかかっていたベンチから身を起こしながら声をかける。

 「どうした?一昨日くらいから元気ないじゃん。何かあったのか?」


 彬の方へ戻りかけていた未衣は思わず立ち止まる。

 一昨日…鋭い。

 その前の日の午後にとある事件があったのだ。

 事件、というのは語弊があるが…未衣の中では大きな転機になる出来事であることは間違いない。


 未衣は立ち止まったまま微笑み「別に何も。本番が近づいて緊張してるんじゃない?」強いて何気ない感じを意識して答える。

 彬は不自然に無理に微笑む未衣の姿を見て「何もって顔じゃないぞ。話してみろよ…」と眉をひそめて立ち上がり、未衣の手首をつかんでベンチに座らせ、横に腰かける。


 未衣は俯き「今はまだ話せない。学祭が終わったら…話すから」と声を絞るようにして言った。

 ぎゅっと目を瞑っている未衣の表情を見て彬は何も言えなくなり、未衣の肩を抱いて「判った。学祭終わったらな。今日明日の本番、もう俺たちにはあまりできることもないけど頑張ろう」と言って未衣のこめかみのあたりに軽く唇を触れる。


 未衣は彬の優しい仕草に、零れそうになる涙を堪えた。

 茜、ごめんね…

 あたし、彬に茜のこと聞く勇気ないよ。

 もし茜のこと気になってるなんて言われたら…あたしもう二度と立ち上がれなくなる。


 

 学祭は、晴れ渡って11月にしては暖かい天候に恵まれた。

 学内全体がすごい人出になり、演劇部の公演も盛況で2日間の公演は大成功と言ってよかった。

 楽日の公演後に報道部が取材に来て、部長と滝沢が我先に喋っているのを部員たちは苦笑いしながら見ていたが、そのうち「本当に頑張って成功させたのはこいつらだろう」と彬と未衣を前に押し出した。


 え?え?と驚く未衣と彬を中心にして報道部のカメラマンと演劇部OBに写真を撮ってもらい、部員たちは「お疲れさん、今回本当に楽しかった」「来年もよろしくね」「今度は校外で演りたいな」などと二人に声をかけながらバラシにかかった。


 二人はともかく無事に公演が終わったことにホッとしつつ、舞台袖で簡単に撤収の打ち合わせをしていた。

 そこへ真美がやってきて二人に「お疲れ様。二人のおかげで大成功だったね」と温かく言いながら握手を求めた。

 未衣と彬は「お疲れ様です。真美ちゃん先輩、マジで格好良かった!」と笑って握手する。


 「豊島くんのこと乗り越えて、本当によく頑張ってくれたと思う。

 辛いときもあったでしょ。二人で書いたスクリプトだものね。

 豊島くん、カナダの大学に留学してここは休学したって聞いたわ。いずれ退学するみたいだけど…」


 未衣は、はい、と頷いて持っていたバインダーで顔を隠した。

 真美は未衣の肩に手を置いて「未衣ちゃんが自分を責めることないんだからね。未衣ちゃんはすごく頑張ったし被害者なんだから。そういうこともあったって過去にして、未来を考えて」と優しく諭した。

 そして彬の方を向いて「未衣ちゃんを頼んだよ。しっかりしてよね!」と笑いながら睨む。


 彬は思わずはい!と返事してしまってから、うつむく隣の未衣を見おろした。

 良いのかな?頼まれて…

 イヤ俺は嬉しいけどさ。


 真美は彬の表情を見て笑いだす。

 「なんて顔してんのよ。彬くん、うかうかしてるとまた誰かに取られちゃうよ!

 未衣ちゃん結構人気あるんだから」

 さてバラシ手伝おう、また後でね~と手を振りながら舞台に出て階段を下り、客席の方へ去っていった。


 彬は何と言っていいか判らず、未衣の肩をポンポンと叩くと「あともうちょっと、頑張ろう」と声をかけてインカムのスイッチを入れ「東京舞台照明からレンタルの器具とケーブルは、講堂入口に段ボール出すからそこに入れて」と指示を出し『了解』という返事を聞いて動き出した。


 未衣も沈む気持ちを振り払うように大きく息をついて、とにかく無事にすべて終わらせたあとに彬と話をしようと動き出した。


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