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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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彬 14

 豊島さんの憔悴しきった姿を見て、俺は正直なところ同情を禁じ得なかった。

 未衣に酷いことをしたという事実は置いといても、これだけの情熱を一人の女性にそそいで心から愛せるものなのかと、少し感動すらした。

 

 だけどそれとこれとは話が違う。豊島さんの愛し方は間違ってる。

 未衣がどれだけ苦しんだかを知っている俺は、やはり豊島さんを糾弾せざるを得なかった。

 

 著しく体力を消耗しているのだろう(それにしちゃ、未衣を組み敷く力はあったみたいだけど)、よろけながら部屋を出て行った豊島さんの後ろ姿はなんだか哀れだった。

 未衣も豊島さんを愛せなかった自分を責めているのだろう、ひどく悲しそうな声で泣き出した。

 俺は未衣が可哀相でならなかった。

 未衣は努力したよ。頑張ったよ。偉かったよ。


 未衣から今日のお礼のリクエストを訊かれて未衣のメシが食いたいと言ったのは、実際に未衣の作る料理に飢えていたという側面はあったけど、俺が帰った後に豊島さんがまた現れないかと心配したからだった。

 待ち合わせ場所に時間になっても現れない俺に、泣きながら電話してきた美乃利ちゃんには本当に申し訳ないと思ったけど、俺は今日一日未衣の傍から離れるつもりはなかった。

 

 思いつく限りの料理をあげ、ワガママ言って全部作ってもらった。

 俺もこき使われたけど一日かかって二人で、芝居の話や秋の公演の話、読んだ本や見た映画、クラスメイトや演劇部員の噂のあれこれ、など話しながら大量のご飯を作った。

 互いの彼氏彼女がいた、2か月間の溝を埋めるように。

 

 深夜に近い時間になり俺がもう大丈夫かなと、やっと重い腰を上げると未衣が「三田さんにもお礼に持って行って」と様々な料理をパックしてくれた。

 俺が戸締りやセキュリティ、身の回りについてくどくど注意していると、未衣は笑って「判ったわよ、オトン」と言った。


 「なんだと~?!」驚いて問い返すと「彬だっていつもあたしのことオカンって言うじゃない。結構傷つくのよアレ」と拗ねたように言う。

 あ、そうだったんだ。俺は思わず手で口を塞いだ。

 「いや、あれは…」感謝の気持ちを素直に言えなかっただけで…親愛の情を示す言葉というか…

 俺はあれこれ言い訳を考えたが、結局「ごめん」と頭を下げた。

 うーん。俺って無意識に、いろいろ無礼だったかな。


 未衣はふふっと笑って「もう言わないでくれればいいよ。ご忠告ありがとう。ホント、気を付けないとね」と最後は真顔になっていった。

 

 一緒に住もうか?と喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 おかしいぞ俺。何言おうとしてんだこら。


 それからは未衣の顔を見られなくなってしまって、逃げるように部屋を出た。

 未衣が施錠する音を聞いてから階段を駆け下りて、バイクに乗る。

 

 三田さんにメットとキーを返し、未衣からお礼として持たされた種々のおかずパックを渡すと、三田さんはすごく喜んでくれた。

 「今の彼女、料理しなくてさぁ。家庭料理に飢えてたんだよね。

 ありがとう、お礼言っといて。

 彬、良いなあ。こんなのいつも食ってんの?あの小っちゃくてゆるふわな感じの子だろ?」


 「いや…」俺は頭を掻いた。

 「あの子とは別れて…。

 これ作ったのは未衣です」


 「未衣ちゃん?え?本当につきあってんのお前ら」

 三田さんは驚いたように言う。

 以前、未衣がよく俺の部屋に来てご飯作ったり掃除したりしてくれてた時から、三田さんとは結構顔を合わせて話したりしてたから、未衣のことをよく知ってる。


 「いえ、つきあってないです。今まで通りの友達で」

 と言いかけると

 「ああ、そうかあ。良かったなあ。彬と未衣ちゃんってあんなに仲いいのになんでつきあわないのかなって不思議だったんだよね」と被せてきた。


 「いや、友達ですって」俺が言うと「ええ?今日ぶっ飛んでったの、未衣ちゃんの処なんだろ?」三田さんはしつこく食い下がる。

 「未衣が彼氏と別れるのにモメてて…仕方なく…」と俺は言い淀む。

 「いやいや。仕方なくって感じじゃなかったぞ~めちゃ必死だった」と三田さんはニヤニヤする。

 「とにかく、俺と未衣はこれからもつきあったりしないです。じゃおやすみなさい」

 俺は強引に話を切って部屋に戻った。

 


 未衣はケーキ屋さんのバイトは結局、約束だからと休んでいたスタッフが復帰してくるまで辞めずに続けた。

 未衣らしい律義さだ。

 俺はすごく心配したけれど、さすがに豊島さんは姿を見せなかったそうだ。

 最後の日、オーナーパティシエールで豊島さんの叔母でもある小百合さんという人が、深々と頭を下げて甥っ子の不始末を謝罪してくれたと、三茶の駅から未衣が泣きながら俺に電話してきた。


 叔母さんの話によると、豊島さんはあの日家に帰って倒れて、入院したそうだ。

 未衣に別れると言われて錯乱状態の彼と両親は医師の勧めで心療内科を受診し、秋からは外国の大学に編入することが決まったんだと。

 

 うーん。話がでかいなあ。

 金持ちだ…。

 あの日、未衣のアパートの外に停まってた車、ハリアーだったもんな。

 大学生が乗り回す車じゃないよね。

 

 俺が言える台詞じゃないかもしれないけど、豊島さんがまた誰かを好きになって、あんなやり方じゃなくてちゃんと恋愛して、幸せになって欲しいと思う。

 余計なお世話かな。



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