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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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未衣2

 あたしと彬は、昨年同じ大学に入学した。今は2年生。

 

 学部学科が同じでなぜかサークルも一緒、最初から気が合ういい奴じゃんって思ってたんだけど、一緒にいるうちに親友というより悪友って感じに近くなってしまった。

 

 周りには付き合ってんの?とかよく訊かれるけど、お互いに「勘弁してよ~」と本気で返してる。

 同性で仲の良い人たちに「付き合ってるの」なんて訊かないでしょうよ。

 

 どちらかと言えばあたしの性格が男に近いのかなあ。

 内緒話の内容とか記念日とかすぐ忘れちゃうし、幼いころから男友達の方が多い。

 

 以前に付き合った彼氏からも「なんか、女の子と付き合ってる感じがしない。友達に戻ろう」と言われて別れたし。


 ともかく、あたしと彬はずっと仲のいい友達だと思ってる。

 お互いに彼氏彼女ができても、仲良くやっていける。


 あたしは、そう思ってる。


 *******************


 学校にすっごい早く着いちゃって、開いたばかりのカフェテリアで所在なくコーヒーを飲んでいると、千佳と美南が来た。


 「あれー?未衣!早いね~」二人でにぎやかに言ってあたしの向かい側の席に座る。

 パンと缶ジュースを持ってるところを見ると、レポートだな。


 「彬くんは?」美南が周りを見まわして言う。

 「家でレポート書いてる。池田先生に昼まででいいからとにかく提出しろって言われたんだって」

 「ええー良いなあ。あたしもそれが良い~」きゃはは、と千佳が笑った。


 「あ、そうだ!千佳あんた、彬に言ったでしょ!」

 「え~?なに~?」可愛く首を傾げてもダメ、あたし怒ってるよ。

 

 「あたしが情報の3年に告られたって」あたしが身を乗り出して声を潜めて言うと

 「ああ!言った言った。彬くんの反応どうだった~?」逆に興味津々、といった感じで訊いてきた。


 「…別に。良かったな~って」くっそ腹立つ言い方だったけど。

 「えーっそうなんだぁ。意外だな~」

 パンの袋を開けて中身を取り出しながら、本当に意外そうに言う。


 「何が意外よ」

 「だって彬くん、あたしが言ったとき結構ショックって顔してたんだもん」パンをかじって、もごもごと咀嚼しながら言った。

 「だからてっきり、彬くんは未衣が付き合うの反対すると思ってた」

 

 「いや全然そんな感じなかった!むしろお勧め?みたいな」あたしが彬の態度を思い出しながら言うと「そりゃ、面と向かって反対とは言えないんじゃないの?」美南が缶コーヒー片手に割り込んでくる。


 「彬くんと未衣って、傍から見ると異様に仲いいけど、付き合ってるわけじゃないし。

 恋愛感情ないんでしょ?」

 「ないない!」あたしは大きく両手を振った。


 「だからさぁ。友達取られちゃうみたいで面白くはないんだろうけど、それを言ったら友達関係も終わっちゃうじゃない」訳知り顔に言ってコーヒーを飲む。

 

 「うーん。そっかあ…」

 あたしと千佳が同時に言う。

 あたしは納得して。

 千佳は語尾が疑問詞ふうにちょっと上がった。


 「で?どうするの未衣」美南が口調を変えて好奇心むき出しに訊いてくる。

 「え?彬を?」

 「ちっがうわよ!先輩とつきあうの?」

 「えー…まだ考えてる」あたしは頬をポリポリかきながら言った。


 「優しい人だとは思う。

 きっと本人も言ってたように、大事にしてくれるんだろうなとも思う。

 まだよく知らないけど、知れば好きになれるような、気もする。

 見た目イケメンだし、素敵な人だなと思う…」

 だけど!なんでそんな人があたしとつきあって欲しいなんて言ってきたのかが判らん。

 

 真美ちゃん先輩は「豊島くんの気持ちに気づいてないのって、未衣ちゃん本人と彬くんくらいだと思うよ~」と笑ってた。

 結構前から、皆は気づいていたらしい。

 やっと告ったの~?って感じだったんだって。


 彬みたいにガサツじゃなさそうだしなぁ。

 去年のクリスマスパーティをサークルの皆でやった時、豊島さんが持ってきてたプレゼントは結構センスが良かった。

 彬なんて、金がないとか言って家にあったメモ帳の束かなんか持ってきてたんだよ!最悪…


 つらつら考えていると、千佳と美南はPCを立ち上げレポートに取り掛かっていた。

 「ちょっと!あたしの相談乗ってくれるんじゃないの?」あたしがテーブルをばんと叩いて言うと

 「それよりレポートが大事」にべもない返事が返ってくる。


 「っていうかさあ、もう未衣の心は決まってるっぽいじゃない」顔も上げずに美南が言う。

 「つきあってみたいんでしょ、その先輩と」

 うっ…そ、そうかも。


 「あーあ。彬くんかわいそ」千佳はなぜか彬に同情的。

 「何でよ」

 「でもこれで未衣に彼氏ができれば、今まで彬くんに言いたくても言えなかった子たちが来るだろうね」ニヤリと笑って千佳は言う。


 「彬くんて意外に人気あるんだよ。未衣は知らないだろうけど」

 「知らなかった」奇特なお嬢さんたちがいるものだ。


 「彬くんに彼女できたら、未衣はどう思うんだろうね。ふふふ」不気味な笑い。

 「別に…どうってこともないでしょ。今までと一緒だよ」

 「さあね。それはどうかな」


 それきり二人ともレポートに没頭してしまったので、あたしは手持ち無沙汰になってしまった。

 彬に彼女ができたら…か。

 考えたこともなかった。


 でも。たぶんあたしと彬は変わらないと思う。

 親友というより悪友。

 そのポジションは永遠。


 その日の2限目の授業に彬は来なかった。

 まあ、約束通りあたしが高橋に代返頼んどいたから、来られても困るけど。

 レポートちゃんと終わったかな。

 お昼ごろには会えると良いけど…


 朝の千佳と美南との会話のおかげで、あたしの心は決まった。

 とりあえず、豊島さんとつきあってみよう。

 豊島さんも気軽にお試しでいいから、って言ってくれてたし…

 その言葉に甘えるのもどうかとは思うけど。


 『今日、お話できる時間ありますか?』LINEを送ると、すぐに既読がつき

 『今日は4限までだから、3時半なら大丈夫だよ』と返ってきた。


 『私も4限まで』送信すると

 『じゃあ、終わったらカフェテリアで』と速攻返ってくる。

 

 はや…

 彬だったら既読スルーどころか、未読でスルーしたりするからなあ。

 豊島さんの律儀で誠実な性格が伺えるわ、うん。


 その日の3限、4限とも彬と同じ授業を選択していたので会えると思っていたんだけど彬は教室に姿を現さなかった。

 

 ぼーっと歩いてる今泉くんを見かけたので捕まえて訊く。

 「彬は?レポートだしたの?」

 「あー、何とか間に合ったよ彬も俺も。

 何か、彬、調子が良くないとか言って俺に代返頼んで帰った」

 「え、、、そうなんだ」


 朝のパンケーキ、牛乳がやっぱしヤバかったかな。

 心配になってLINEを送る。

 

 『今泉くんに聞いた。具合どう?』

 珍しくすぐに既読がつく。


 でも、待てど暮らせど返事がない!

 イライラして『お腹痛いの?薬あるの?』と送信すると、スタンプが送られてきた。


 熊?みたいな絵柄で『余計なおせわ~』と言ってる!

 あんにゃろう~~~~

 もう知るか!


 急いでカフェテリアに向かう。

 コーヒーを買って広いカフェテリア内を見回すと、窓際の席で豊島さんが手を挙げているのが見えた。


 「すみません、お待たせしちゃって」謝ると、にこっと笑って横の椅子を引いてくれる。

 「大丈夫。終わるの遅かった?」

 「いえ…彬が授業来なくて、具合悪いって友達から聞いたからLINEしたんです」

 「え、大丈夫なの?」


 「さあ。余計なお世話とかってスタンプだけきたから、大丈夫なんじゃないですか」

 砂糖とミルクをコーヒーに入れながらツンとして言う。

 豊島さんは苦笑いして、持っていたコーヒーを飲んだ。


 「それで、話って?」眼鏡のブリッジを中指で押し、穏やかに微笑んで言う。

 「あ…」

 自分で呼び出しといて用件忘れてた。

 

 口を開こうとすると、途端に心臓がバクバクしてくる。

 良いんだよね?あたし…


 「あの…、あたしで良かったら。お願いしますってことで…」

 なんだかしどろもどろで言いかけると「本当に?!」と被せてきた。


 「つきあってくれるってこと?」

 「あ、はい…豊島さんのことよく知らないから、悩んだ、んですけど…」

 「それはこれから。お試しで構わないよ」

 すごく嬉しそうに笑って言ってくれる。

 

 ああ、なんか良かったなぁ。喜んでもらえて。

 あたしは豊島さんの笑顔を見ながら思った。



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