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禁断の扉9



福音の書


 世界の危機に、我等が太陽神は、自らの御子を我等の元に使わしむなり。太陽神は、決して我等を見捨てはしないなり。


 我等の悲しみは、神の悲しみ。我等の苦しみは、神の苦しみ。汝が神を信ずれば、必ず神は、汝が為に現れるなり。我等を救うために、神子はいるなり。


 この書を以て、それと証明す。




「次は、コタロウだな」

「……わかってるねん……。……わいとヒュウガは、今は壊滅したある組織で知り合ったんや。あいつは、一匹狼でな……よく一緒におることが多くて……。でも、わいはヒュウガのやり方が許せへんで、そこの壊滅と同時に別れたんねん。わいはヒュウガが何をしたいんか分からへんけど、ここに来た理由は分かるねん。この学校は特別なんや。ここにはパンドラ禁忌があるねん。あいつはそれを開けに来たんや」


だんだんコタロウの声色が焦ってくる。レイラは力無い瞳でコタロウを見ていた。


「その禁忌って何だ。その調子から、かなりヤバイ物だってことは分かるけど」

「封印の扉や。地下で、ドワーフ達が守っとるで」


ジルフォートが、ビクンと体を震わせた。


「魔女、どうしたんだ。やっぱり、何処か悪いんだろ」


ナジェルは気が付いて尋ねる。


「あ……いや……。ちょっと……。私がこの学校に送られた理由が分かった……」

「送られたってどういうことやねん。太陽神は、絶対唯一の存在や。そげなことをする理由はないはずやで」


コタロウが叫ぶように言うと、ジルフォートが悲しそうな顔をした。


「福音の書って知っているだろ」

「あたりまえや。世界の危機に、太陽神が子どもを使わすっちゅうヤツやろ」

「ああ。その子どもというのは、決まって巫女のことだ。それに今回は子どもではなく、孫を使わしている。自分を継ぐ者、神格化した者を村から出したくないらしい」


ジルフォートの瞳に憎しみの色が現れる。ナジェルは目をそらした。


「!こうしちゃおれへん。早よお扉に行くで。レイ!」


コタロウは叫んだ。だが、くぐつ傀儡のようになっているレイラの動きは鈍い。


「ナジ。さっきの呪文、覚えとるやろ。一発ぶちかましてくれぇな」


ナジェルは頷くと、レイラの真似をして唱えた。


「我が聖なる血に従いし、ニンフの使者よ。我が詩に応え、我を示し、我に力を貸したまえ。応じよ」


レイラは頭から水をかぶる。


「レイ、目を覚ましいや。行くで」


目をパチクリさせているレイラに、コタロウが言う。ナジェルは初めて成功した魔法を、単純に喜んでいた。



 レイラが結界を解くと、コタロウが先に立って走り出した。




 三人と一匹が封印の扉につながる地下通路の入り口に辿り着いた時、警護の者と思われる二人のドワーフは倒れていた。どうやら、眠り病にやられたらしい。今や、学院中が不気味な静けさに包まれていた。


 コタロウは迷うことなく、確固たる意志を持って進んでいく。広間に辿り着き、三人と一匹は足を止めた。


「遅かったんだね。あまりにも遅かったから、もう来ないかと思ったよ」


ヒュウガは閉じられた扉の前に立っていた。


「主達は追憶者なんだから、全てを見てもらはなくてはね」


ホッとしたのも束の間、ヒュウガはニコリと笑って、扉に手を掛ける。


「待ちいや。ヒュウガ、なんでそげなことをするんや」


コタロウが叫ぶ。


「愛しい彼女が闇に囚われてしまったんだよ。一緒に永久を約束していたのに」


ヒュウガは悲しそうな顔をして、力一杯扉を押した。ギーと嫌な音を立てて、扉が開く。




「 … … も う 少 し … … も う 少 し で 、 愛 し い 彼 女 が 還 っ て く る … … 」




ヒュウガは狂ったように叫んだ。


「ちっ。よけいな物が来た」


急に冷めた目になると、ヒュウガの姿は消えた。



 バタバタと足音を立てて、シェレスとアンジェが広間に入ってきた。開かれた封印の扉を見るより、中にいたメンバーを見て驚く。




 無機質な瞳で扉を見つめるレイラ。




 よく理解出来ない様子で扉を見つめるナジェル。




 憎しみに燃える瞳で扉を見つめるジルフォート。




 悲しそうな顔でうなだれるコタロウ。




 二人には何も理解出来なかった。


「何があったか話しなさい」


シェレスが言う。ナジェルが振り返った。


「ヒュウガというヤツが、眠り病とか言うのを使ったことから始まるんだと思う。俺たちは魔術師が、一早く気が付いた御陰で助かったんだ。さらにヒュウガは『愛しい人』を帰らす為、封印の扉を開いた。って、帰ってくる意味が分かんないんだけどな。先生方はどうして、無事なんだ」


「ガハラ先生は出張で、私には抗体があって助かった」


シェレスは顔色を変えずに言う。


「エリザラン先生。扉を閉めるには、私たちには無理です。太陽神の加護の掛かっているレイチェルに泉まで行かせ、私たちは黄泉の花を求めた方がよいように思われます」


アンジェに顔には「誠に不本意ながら」と書いてある。シェレスは頷いた。


「それが最善の策だろう。それより、フランディットの様子が気になる。何があったんだ」


「レイラは地に落ちた神という事実を、受け入れられないだけだ」

「フランディット。お前は、たかが前世のために、自分の定めを忘れたか。とんだ見込み違いだったな」


わざとシェレスはきつい言葉を投げつける。


「……。地に墜ちた神は罪人だ。……俺は神の癖に、罪を犯した……」

「レイラ。神だからと言って、万能な訳ではないぞ。神は気まぐれだし、失敗や間違いも起こす。ただ、誰よりも長く生きているから神なだけだ」


ジルフォートは言った。レイラはその言葉に救われた。生気のなかった瞳に光が宿る。シェレスは微笑んで、三人の背を押した。


「定めを知ったようだな。さぁ、行け。己が心の指す方へ」


みんなで、小さく一歩踏み出す。


「フランディット。待ちなさい。これを。あなたにも必要でしょう。さぁ、行きなさい」


アンジェは腰に帯びていた剣をレイラに渡す。そして、唱えた。


「迷いの森よ。扉を開け。全ての始まりに、宴を開け。応じよ」


三人と一匹は学院の外……森の外にいた。律儀なことに、必要最低限の旅荷もある。


「さぁ。行こう」


三人と一匹は、揃って夕日に向かい大きく一歩、踏み出した。




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