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禁断の扉8


封印の扉


 マナアリア大魔法学院にある、この世の最悪・不幸を閉じこめるためパンドラ禁忌のことなり。また、亡き者の魂もここに閉じこめてある。


 決して開けることなかれ。亡き者が一度逃げ出せば、世は不幸に見舞われるなり。太陽は二度と顔を見せることが無くなり、世に悪鬼が蔓延(はびこ)ることになりける。


 命惜しくば、ここに近づくことなかれ。平和望むなら、近づくことなかれ。




 だが、ジルフォートはそれよりもずっと顔色が悪かった。膝を抱え、真っ青な顔をして、結界の外を見ている。


「ジルフォート。調子が悪いのか」


レイラは尋ねる。魔道書を読み終えたナジェルも顔を上げた。ジルフォートがブンブン頭を振る。


「私は、一度も族名を言った覚えはない。どうして驚かないんだ」

「そう言われてもねぇ。今更驚けないし」


ナジェルは苦笑いを噛み殺しながら言う。


「わいは太陽族に会ったことがあるさかい。驚くようなこともあらへん」


コタロウは長い尻尾でピシャリと地を叩く。


「俺は知っていたから」


レイラはさらりと言う。これには、反対にジルフォートが驚く。


「なぜだ。太陽族は、土の民以外交流はない。それに、外見は赤のホビットと大差ない。何処でそれを知った」


レイラは顔を伏せ、何も答えない。コタロウが、仕返しとばかりにウィンクした。


「レイ。今、話といた方がええで。その間わいは寝るさかい」


コタロウはゴロンと横になり、丸くなって目を閉じる。レイラは大きく息を吸った。そして吐き出すと同時に言葉を紡ぐ。


「先に聞く。ジルフォートはなぜ、太陽の巫女が嫌なのか」


レイラの言葉に、ジルフォートは目を閉じ、大きく息を吸い込いこんだ。


「……太陽の巫女は、いずれ神となり、太陽神の妻となる。妻となった巫女は太陽神と通じ、二人の嬰児を生む。一人は男児。後の太陽神。もう一人は女の巫女……」

「近親婚に近親婚を重ねる、愚行だな」


ナジェルが顔を歪める。


「私には神たる器がない。巫女たる器がない…」


ジルフォートは目を開いた。


「心配はいらない。森羅万象は、お前に従う。自分を信じろ」


ジルフォートは息を詰める。今にも泣き出しそうだ。


「なぜ、そんなことが分かる。でたらめを言うな」

「でたらめなんかじゃない。俺は……。……俺は、大いなる自然の代弁者だ。……。物心付いた時には、もう聞こえていた。初めは大地の声だけだったんだが、いつの間にか風や植物の声も聞こえるようになっていた。それを知ったお祖母様は、大いなる自然の代弁者、世界最高峰の召喚師にするべく俺を育てた」


レイラは、ポツリポツリと落ち着いた調子で話す。


「それで、地に落ちた神なんだな」


幾分顔色のよくなった、ジルフォートが言う。


「どういう意味だ」


レイラは真っ直ぐジルフォートを見た。


「土の民が暮らす、ある小さな島国に『シノビ』と呼ばれる人々がいる。彼らの中には『読心術』という、人の心を読む力を持つ者がいるが、どんなに鍛練を積めども、森羅万象の心を知ることは出来ない。なぜならば、それは神にも等しい力だからだ」

「神にも等しい力ねぇ。まぁ、俺の知っている話だけど、ルベリアは地図にも載ってない村だってことは知っているだろ。その訳は、ルベリアの国交がないからで、その必要がないから。なぜならば、ルベリアの民は全て、地に落ちた神だから」


二人の言葉に、レイラは考え込む。自分の立場が分からなくなってきた。


「レイラの前世が神だとしたら、土神か森羅万象の神だ。特に、森羅万象の神は、私たちが生まれる少し前に、自ら地上に降りて行っている。アイツなら、はっきりと分かるんだがな」


ジルフォートは言う。レイラは自身が遠くへ行ってしまったように感じ、自分という概念が分からなくなった。


「……霧が晴れたみたいだ……。……コタロウなら……すぐに、ナジェルの封印を解けるだろ……。頼む……」


レイラはふらりと立ち上がった。コタロウはナジェルと向き合うと、パッと目を開く。ナジェルは不思議な光に包まれ、そして光は弾けた。



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