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禁断の扉7


「ほう。面白い」


 急に人の声がして、三人と一匹は体を強張らせた。特に二人の剣士の顔が堅い。それもそのハズ。声を掛けられるまで、気配に気が付かなかったのだ。決して油断していたわけではない。その男は森と同化していた。


「コタロウ。久しいな」


また声がした。コタロウはナジェルの肩からピョンと飛び降りると、毛を逆立てて叫んだ。


「出て来いや。ヒュウガ、そこにおるんは、わかっとるんやで」


コタロウが見上げた先の木に、真っ白い男が現れた。いや、瞳だけはナジェルの闇色の瞳よりなお深く、暗い色をしていた。世界の……、いや、地獄の果ての色……。誰もがそう思った。


「誰だ」


硬い表情でナジェルが言う。白い男――ヒュウガは口元に微笑みを浮かべ、ナジェルを見た。


「主は面白い体をしている」


ナジェルはさらに体を強張らせた。コイツハヤバイ。体中が警報を発している。


「主は地に落ちた神」

「なっ!」


ヒュウガはレイラに目を向けた。驚愕のあまり、大きく瞳が開かれる。


「前世の記憶はないな」


コタロウが今にも飛びかからんばかりに低い唸り声を上げているが、ヒュウガは気にしない。こんどは、その瞳をジルフォートに向けた。


「それから主は太陽の巫女。コタロウ、実に面白いな。その面白さに免じて、主達に楽しいことを見せてあげよう」


ヒュウガの姿がだんだん薄れていく。


「楽しい物やて。!お前、まさか……」

「コタロウ。そのまさかだよ」


ヒュウガの姿は消えた。


「幻影かいな。レイ、ナジ、ジル行くで」


コタロウはくるりと振り返った。だが、三人とも動こうとしない。いつの間にか、レイラの傷は治っていた。


「どないしたんや。早よお行かんと、大変なことになるで」


コタロウは大慌てで三人を促す。それども、誰一人として動こうとしなかった。


「今の俺たちであいつに勝てない。優先すべきことは、ナジェルの封印された魔力を取り戻すことだ」


キッパリと言い切るレイラに、コタロウはさらに慌てる。あいつがなぜここに現れたのか。ここにはアレがある。アレガ……ソレヨリヤバイコトハナイ……。


「そげなことあらへん。どげなことをしても、ヒュウガを止めなあかん」


レイラは下を向いた。そこにナジェルが口をはさむ。


「魔術師。俺のことは、気にしないでいいよ。でも、猫。お前の言うその“まさか”や、あの白い男のことを聞かないと、魔術師も魔女も動けないと思うんだ」

「わいはただの猫じゃあらへん。そげな時間ないさかい。行きながら話すってことはだめかいな」


コタロウがそう言った時だ。


「っ!息を止めろ!」


急にレイラが叫んだ。二人と一匹はぐっと息を詰める。レイラはもう一度、両手の人差し指に傷を付ける。そして、パッと両手を広げた。レイラを中心とした、血の円が出来る。トントンと足踏みをすると、円の上に不可視の壁が浮かび上がり、三人と一匹を包み込んだ。


「ふぅ。もういいぞ」


レイラが言うと、コタロウはレイラを睨み付けた。


「レイッ。結界を解きいや。こんな所におられへん」


コタロウが叫ぶと、レイラは少し顔をしかめて唱った。


「我が聖なる血に従いし、ニンフの使者よ。我が詩に応え、我を示し、我に力を貸したまえ。応じよ」


コタロウの上に、ザァと水が落ちる。


「何をするんや」

「まだ分からないのか。ちょっと頭を冷やせ」


珍しくレイラが声を荒げる。


「コタロウ。私たちが外に出たら、多分死ぬぞ」


ジルフォートが悲しそうな顔をした。コタロウはフンと鼻を鳴らすと、体を震わせた。水滴が辺りに飛び散る。そして、ドカリと腰を下ろした。


「でっ、レイ、これは何や」

「眠り病」


レイラも腰を下ろす。ナジェルも、ジルフォートもそれに続いた。


「じゃあ、死ぬ事なんて無いじゃないか」


ナジェルは安心して、結界の壁に体を預ける。


「そうでもないんだ。SS級の、危険魔法だ」


レイラはローブの内から、使い古した魔道書を取り出した。とあるページを開くと、ナジェルの眼前に差し出す。



 ナジェルは魔道書を読み進めていくうちに、だんだん青ざめていった




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