終焉9
終焉
全ての終わりまたは死を意味する。だが、次なる始まりを求める言葉でもある。
古来より終わりと始まりは同一視されてきた。だが、近年になって、別視されるようになった。我々は思い出さなくてはならない。終わりと始まりが同じ物であることを。
迷いの森の入口で、シェレスとアンジェは三人と一匹を向かえた。
「みなさん。よく頑張りましたね」
出発時、あんなに頼りなかった子どもたちは、みな様々な思いを抱え、大人の顔となっている。アンジェはそっと微笑んだ。
「ガハラ先生。これはお返しします。それから、俺の荷物はどこですか?」
レイラは出発時にアンジェから渡された剣を差し出し、言う。
「フランディットの部屋に運んでいますよ。それでは戻りましょうか。そろそろあちらも目を覚ます頃です」
アンジェはレイラから剣を受け取ると、唱った。
「迷いの森よ。扉を開け。全ての始まりに、宴を開け。応じよ」
眠り病にかかった者は、シェレスとアンジェの魔法によって、各々の部屋に運ばれていた。気が付けば、一週間の時が流れていたという状態に陥ることになっていた。当初は不思議がっていた生徒達も、単位認定試験を終え、学年の節目となる夏休みが近づくにつれ、忘れていった。ちなみに、単位認定試験を一番の成績で通ったのは、もちろんレイラだった。
「明日には村に帰るんだろ」
「ああ。レイラはどうするんだ」
「俺が帰る訳ないだろ。第一、森羅万象の神は太陽神の側にいるものと決まっている。自分の居場所に戻るさ」
彼らは森のテラスにいた。いつものようにサボりである。曰く「集会なんてめんどくさい物に出れるか」だそうだ。旅に出る前はいつも一緒にいたレイラとコタロウだが、最近は一緒にいることは珍しい。コタロウは禁断の扉の前にいることが多くなった。きっとヒュウガのことを思い出しているのだろう。
「じゃあ、猫も太陽族の村か?俺だけ離ればなれかよ」
「わからない。コタロウに任せる」
レイラはパタンと本を閉じた。ずっと読んでいたが、文字が頭に入っているのか怪しい。
「俺はコタロウにどんな言葉をかけれてやればいいのか分からない。あそこを焼いたことも良かったのかわからない。あいつと会って十年以上になるが、あいつがここまで落ち込んだのは初めてなんだ」
レイラは吐き出すように言う。ナジェルもジルフォートも言葉を失った。出会ってから一月以上経つが、こんなレイラは見たことがない。レイラもそれだけ参っているということだろう。
「レイラ。一度コタロウを連れ、ルベリアに帰れ。大丈夫だ。何も言わなくても側にいてやればいい」
ジルフォートがレイラの頭にポンと手をやった。飾らない言葉ほど、スッと胸に入ってくる。
「……本当か…?」
「レイラは、私たちがいるだけでは不満か?」
フッと微笑むジルフォートを、レイラは目だけで見た。確かに多く語っていないが、この手の重さは心地よい。
「……そう、だな……」
レイラは目を伏せ微笑んだ。
「俺の村にも遊びに来いよ。魔女は太子も連れて来いな。秘密の基地に連れて行ってやるよ」
落ち込んだレイラを見たくなかったナジェルは、態と明るい声を出す。
「ガキか。そんなことより、勉強しろ。剣技以外は追試ぎりぎりの剣士君」
「なっ!魔女だって同じだろうが!」
「貴様よりは上だ」
「たかが五点だろ!」
「五点もの間違いじゃないのか?」
どちらもどちら。五十歩百歩。レイラを元気付けようとしているのか、素で言い争っているのかは不明だが、なんとも低レベルな会話にレイラはたまらず吹き出した。
「くっ……ふっ…ははは。ちなみに、何点からが追試なんだ?」
「三十点以下。問題はナジェルが持っているだろ」
「ああ……これだ」
ナジェルはポケットの中から、ぐしゃぐしゃの用紙を取り出し、レイラに渡す。それを見て、レイラは眉を潜めた。
「魔法幼学校位じゃないか。満点取れないのがおかしい」
「ちょっと待て!それは嫌味か!」
「事実だ」
「じゃあ、答えてみろよ」
ナジェルはムキになって言う。スラスラとレイラが正答を答える中、ジルフォートはそっと抜け出した。レイラはもう大丈夫だ。問題はコタロウ。やはりヒュウガの存在は大きかったようだ。
ジルフォートは封印の扉の元へ来た。ドワーフ達はジルフォートの名前を聞いただけで通してくれる。今も自分に巫女の器があると思えないが、もうそのことを隠そうとは思わなかった。時が来れば、器に関係なく巫女になるのだ。太陽神の子に生まれた時点で、ジルフォートの人生は決まっている。最近そう考えるようになった。
「……コタロウ…」
コタロウは扉の前に座っていた。
「……なんや…。ジルかいな」
振り返ったコタロウには、元気が、生気がない。ジルフォートは隣に座った。
「ヒュウガはコタロウに謝っていたそうだ」
驚いたコタロウは、ジルフォートを見上げる。それもそうだ。ヒュウガは死んでいるのだ。霊体も消滅した。それも、コタロウの目の前で。
「驚くこともないだろう。私たちは太陽神の子どもだぞ。黄泉の神々とも知り合いだ。コタロウがそんなだから、セルが会いに行ったんだよ。それから、イヨが自分たちのことは忘れてくれて構わないと言たようだ。彼女はな、コタロウを下界に連れていったことを悔やんでいた。時の流れに付いていけない体だったから、何度も上界に戻そうと考えたらしい。だが、結局自分の我が儘でそれができなかったと」
コタロウの目尻から、光る物がこぼれ落ちる。
「……馬鹿や…。……イヨは…ほんまに……」
小さく震えるその小さな背を、ジルフォートは何も言わずに撫でた。下手な慰めはない方がましだ。
「ジル。二人に伝えてな。わいがそこに逝くには何年かかるかわからへんけど、そこで待っといてぇとな」
コタロウは言った。その顔は晴れ晴れとしている。もう、大丈夫そうだ。
一ヶ月以上もの休みが終わり、それぞれ一つずつ学年が上がった。その始まりの日。召喚の部、第二学年に転入生がやってきた。
「転入生を紹介します」
休み明けでざわつく教室に、アンジェの声が響き渡る。ますます煩くなった教室に、緋色の髪と瞳の少年が入っていた。髪はただの緋色ではなく、少し青味かかっている。
「セルフォード・レイチェル・ソレイユです」
レイラは微笑んだ。アンジェの隣に立つセルフォードも、レイラを見つけ微笑む。
風 が 凪 ぎ 、 そ れ ぞ れ の 門 出 を 祝 福 し て い た 。
大地の詠唱
太陽神の側におわす、森羅万象の神による大地の言葉の代弁なり。大地の祝福の祝詞なり。祝福された大地は、未来永劫の繁栄を約束されるなり。神は森羅万象と声を、心を合わせ、大地を祝福する。
だが、美しくも寂しい森羅万象の神は、太陽神の側で生を全うすることを誓い、太陽神に忠誠を誓っている。そのため、大地の詠唱は美しくも寂しい唄なり。
「これで、この物語はお終いだよ」
緋色の髪と瞳を持つ語り部の老婆は、そう言って分厚い本を閉じた。幼い子どもたちを諭すような優しい声で。その瞳にも優しい光を宿している。子どもたちは、この語り部が大好きだった。語り部の語るこの話が大好きだった。せがまれる度、語り部は優しい声で唱う。
――昔々、この世界は三つに分かれていました。一つに、神々や精霊、風の民暮らす上の世界。また一つに、土の民暮らす下の世界。そしてもう一つに、死者暮らす黄泉の世界――
A Happy End
こちらは10年前に描いた作品を一部修正したものです。
久しぶりに文章を書こうとすると、意外と難しいものですね。
よって、この作品を出させていただくことにしました。
この作品は一部の友人や後輩に見せただけの作品で、こうやって多くの方の目に触れる機会のなかったものです。
少々、恥ずかしく感じます。
拙い文章ですが、楽しんでいただけたなら幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




