終焉8
シェレスとアンジェは無事純白のロウタスを手に入れ、学園に戻ってきた。外は相変わらず雨が降り続いていたが、時の流れを止めてある学園は何とも幻想的だった。迷いの森を抜けると、雨の雫は重力に逆らい空に浮いている。触れるとそれは柔らかいが、すぐに元あったように戻ってしまう。
「ガハラ先生。始めましょう」
シェレスは懐から、魔法で小さくしたロウタスを取り出した。
「はい、エリザラン先生」
アンジェは頷き、シェレスが地に置いたロウタスから少し離れて唱う。
「あるべき姿。汝、今戻らん。応じよ」
元の大きさに戻ったロウタスに、シェレスは火打ち石で火を付けた。魔法では、火加減が難しいのだ。ロウタスは美しい炎を上げて燃えていく。
「彼らは大丈夫だろうか……」
「今更何言っているんですか。先生が太鼓判を押したんでしょう」
シェレスの呟きに、アンジェは呆れて言った。
ルベリアから道形に進むこと、およそ数刻。何か見えないカーテンのような物を潜った気がした。
「……マナの気まぐれかな?普通はあそこで足止めされるはずなんだけど…」
「そうだな。でも、セルはアイツから好かれていただろ」
「そうかなぁ。嫌われてはないと思うけど……」
辺りを見回しながら、ジルフォートとセルフォードは歩く。マナ本人とは会ったことはあるが、泉に来たことはなかった。また、必要もなかった。
「ようこそ、お客人方」
マナ
封印の泉に住みし精霊なり。アテナと共に生まれ、アテナと共に世界を創造した。世界のカオスであるなり。世界の悪事を全て知るなり。真を求める者を祝福し、汝に幸溢れる。汝、マナを愛するべし。
泉の手前に青年はいた。
「マナ、お久しぶりです」
ジルフォートとセルフォードは声を揃えて言った。月の生まれ変わる日にソレイユを訪れるとは言え、実は、ここ何年も擦れ違っていた。レイラは軽く頭を下げ、ナジェルはポカンと口を開けている。アテナと同時に生まれた精霊だと聞いていたので、マナも同じような老人と思っていたのだ。
「森羅万象の神よ、よくぞお戻りになられた。ジル、セル、大きくなったな。それから、印を持つ子よ。よくぞ参られた。願いを聞こう」
「えっ!あ…。えっと……。マナアリア大魔法学院にある禁断の扉を封印したい…です……」
ナジェルは声をかけられ、我に返った。どもりながら、本来の目的を思い出す。
「理由は?」
マナは間をおかず尋ねた。
「あそこが俺の帰る場所だからです。俺はガキの頃に捨てられ、みんなから嫌われていましたけど、それでも、この世界が好きなんです。授業なんてサボってばかりでしたし、大半は魔女に追いかけ回されていましたけど、楽しかったんです。初めてダチもできました……。こんな理由はダメですか?」
ナジェルの言葉にマナは笑う。綺麗事のような気もするが、それが紛う事なき本心だった。
「いいだろう。泉に入り、願いを思え」
マナは道の脇に避け、ナジェルが泉の縁に立つ。剣士の法に則り、片膝を地に付けると、恭しく剣をおいた。それから、左手は柄を、右手は刀身を掴み頭を垂れる。剣を下がった頭より高くあげる姿は、その剣を神に捧げているようだ。何かを念じているのか、ナジェルはそのまま動かない。どんな音もしなかった。ナジェルを見守るレイラ達も、身じろぎ一つしなかった。それから、ナジェルは剣を下げ、頭を上げる。剣を腰に戻すと、立ち上がった。そして、ブーツも脱がず、ザブザブと泉に入っていく。服が濡れるのも構わず、泉の中心まで進んだ。
「封印の泉よ。俺の願いを聞いて下さい。世界の禁忌を閉まっている扉を封印して下さい。この思いは、どんなモノよりも強いと誓います」
ナジェルは叫ぶ。
― ― 辺 り 一 面 、 白 い 光 に 包 ま れ た ― ―
「これでよかったんだろうねぇ」
アテナはベランダから空を見上げ、呟いた。
「……コタロウさん……」
「……ああ……わかっとる……。ヒュウガ……本当に終わったんやな」
コタロウは項垂れ、呟いた。太陽の巫女がその背をそっと撫でる。
「彼らは上手くやったみたいですね」
「そうだな。こっちも後少しだ」
シェレスとアンジェは、燃え盛るロウタスに水をかけた。
「……終わったんだよな」
ナジェルは振り返って言った。マナは頷く。
「学校のほうも終わったみたいだ」
「……そっか。よかった」
「ガハラ先生は、教師としては最低でも、魔女としては高位だからな」
レイラは不本意と書いてある顔で言った。
今まで降り続いていた雨が止み、空に七色の橋が架かる。
これにて全て終わりを迎えた。地に降りた神、次期太陽の巫女、印を持つ子の出会いから、全ては始まった。世界の危機は光となって、終焉を迎える。美しい物語を残して。




