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禁断の扉3


 レイラは森のテラスへ向かう。事の成り行きを知るためだ。見る影もなく壊れ果てたテラスに向かい、両手を広げて立った。肩に黒猫が飛び乗ってくる。割れた窓から見ても分かるように、二人は二階から降ってきた。


「……独眼の豪剣士……紅蓮の魔女……」


レイラはボソリと呟いた。


「お前が鈍色の魔術師だよな。おまえに頼みがあるだ。俺は、ナジェル・エリオット・ユーリアン。独眼の豪剣士って言った方が分かり易いかな」


二人はレイラの後を付いて来ていた。その内の一人。明るい金色の髪で、緑青色の瞳をしたエルフの少年は言った。右目を覆う眼帯が痛々しい。レイラはコクリと頷いた。


「で、こっちが紅蓮の魔女」

「ジルフォートだ」


緋色の髪と瞳の少女が言った後を、ナジェルが継ぐ。


「訳があって、家名と族名は言いたくないらしい」

「レイラ・フランデェット・ルベリア。で、この猫はコタロウ。変な口調で話すのが特徴だな」


レイラが言うと、黒猫――コタロウは牙をむいた。


「変とはなんや。これは土の民の言葉っちゅうとるやろ」

「たしかに変な猫だな」


ナジェルは呟く。


「わいは、ただの猫じゃあらへん。聖なる御神の黒き従者や」


だが、誰も、そんなコタロウの話を聞いていない。ジルフォートは長丁場になると覚悟したらしく、体に合わない大剣を地に下ろした。




 不意にナジェルは地に両膝を着いた。


「魔術師、お願いだ。俺に魔法を教えてくれ」

「なぜだ。剣の部は術を教えてくれないのか」


必死で頼み込むナジェルに、レイラは不思議そうに尋ねる。いや。その目はナジェルを通りこし、森を見ていた。


「いや。そいつが特別なだけだ。それより、さっきのヤツはいいのか」

「あぁ。あれは言霊だ。あいつ…エリザラン先生なら、気力でどうにか出来る程度の、弱い魔法だからな。心配することもない」

「そうか。しかし、言霊は難易度が高いぞ。だてに“魔術師”と名乗っているわけではないようだな」

「俺は一度も、自分から“魔術師”と言った憶えはない」

「なぁー。結局、教えてくれるのか、くれないのか、どっちなんだよぉ」


レイラとジルフォートが話し込んでいることに、疎外感を感じたナジェルは叫ぶ。


「どうして、魔法を教えてもらえないのか、それをとって説明してやればいい」


ジルフォートは顎で眼帯を指していった。ナジェルはキッと唇を噛むと、眼帯に手を掛けた。




「コタロウと、どっちの色が深いだろうか」


レイラは呟く。


「突っ込みどころがちゃうやろ。その瞳はどないしたん」


コタロウは長い尻尾で、レイラの背を叩く。眼帯の下から現れた瞳は、深い闇色だった。ナジェルは眼帯を付けると、静かに語り始めた。


「族名からも分かるように、俺はユーリアンというエルフの村に生まれたんだ。どうしたわけか、生まれつき右目はこの色で“悪魔の子”とか“災厄の子”って、言われた。


 生後二週間にも満たない時、俺は森に捨てられた。幼い嬰児は獣の餌食になるか、餓えですぐに死ねと思ったんだそうだ。だが俺は、次の日、銀鼠色の狼に連れられ、村に戻ったんだ。村人達は、すぐに俺を殺そうとしたよ。でも、その狼は俺を守るかのように立ちはだかったんだ。そこへ、長老様が出て来て言ったんだ。『その銀狼を殺めてはならない。彼はこの森の主であり、この村の御獣神だ。それを主が殺すなと言うのなら、我々はそれを殺めてはならない』。それを聞いたら、銀鼠色の狼は森に帰って行ったよ。


 そして、俺は“決して魔法を教えない”という制約の下で生かされているんだ。俺がここへ入れたのも長老様の御陰だけど、その制約は生きていて、俺には魔法を教えてもらえないという訳」


ナジェルは、だんだん自嘲気味になっていく。コタロウは、ピョンと地に下りた。


「なぜ、お前は魔法を使いたいんだ。お前が魔法を使えると知ったら、今度こそ殺されるぞ」


レイラは、ハッと胸を突かれる。ナジェルの独眼は、静かな光をたたえていた。


「魔術師、俺はその覚悟をしている。でも俺は、知らなければいけないんだ。あの銀鼠色の狼は、俺に言ったんだよ。『いつか大きくなった時、力を持った魔術師があなたの前に現れる。その人に教えを請いなさい』って。その力を持った魔術師は、お前のことだと思う」


コイツハホンキダ。レイラはクスリと笑った。きっとナジェルは、この言葉が心の支えだったのだろう。


「いいだろう。俺が力のある魔術師とは思わないが、おもしろそうだ」


ナジェルの瞳が輝く。


「やったぁ。魔女、お前はどうする」


ウキウキ。聞いている二人と一匹が呆れるくらい、ナジェルの声は喜びに満ちていた。


「ああ。制約は必要ないが、言霊は教えていただきたい」


苦笑を噛み殺しつつ、ジルフォートも言う。


「ほな、ナジは、どれが使いたいんや?」

「へっ?どれって、魔法だけど」

「精霊魔法が良いだろう。剣術にも応用出来る」


無知なナジェルをほっといて、ジルフォートは言う。レイラは頷くと、ローブの内から色々な物を取り出し始めた。


「……これは、魔法大辞典……。……こっちは香か?……この変なナイフ小刀は何だ……。おい。魔術師。そのローブの中はどうなっているんだ」


目を丸くしてナジェルは言う。祖父から聞いた世界最高峰と謳われた、魔法使いと同じ事をしている。ジルフォートが笑いだした。


「レイのローブは、魔法のローブや。望めば、どんな物でも出してくれるで」


コタロウがからかう。


「マジかよ!魔術師は凄いな」


どうやら、ナジェルは本気にしている。ジルフォートとコタロウは腹を抱えて笑いだした。


「……。コタロウ、変なことを教えるな。ナジェル。そんなことあるわけないだろう。ただ、必要な物を持ち歩くだけだ。さぁ。行くぞ」


それが、いつでも必要になるのか……。ナジェルは、心中でため息をついた。いつもそんなに持ち歩いていたら、隠密に教えて貰うことが出来ないではないか。よほどナジェルがおかしな顔をしていたのだろう。ジルフォートは笑いを堪えるのに苦労していた。


「置いて行くぞ。早く来い」


レイラはローブから出した沢山の物を抱え、森に入っていく。コタロウは、ナジェルの肩に飛び乗った。


「おいっ。猫、自分で歩けよ」

「わいは、ただの猫じゃあらへん。それに、わいが歩いたら、時間が掛かるさかい。早よぉ、行きいや。迷子になるで」


そう言う間にも、レイラはずんずん進んでいく。仕方なしに、ナジェルはコタロウを肩に乗せたまま、森へと足を踏み入れた。



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