終焉5
一同は森の中に出た。目の前に大きな樫の木がある。どこにも国らしき物は見当たらなかった。
「じゃあ、オレはここで帰るな。後は森羅万象の神に任せる。ナジェル、またな。帰ったら、オレのとこに来いよ。待ってるから」
言うが早いが、ケヴァンの姿は消える。レイラはため息をついた。できることなら、今すぐ回れ右をして帰りたい。あのお方だけには、天地がひっくり返っても会いたくなかった。
「……魔術師…」
「ああ」
心配そうに呟いたナジェルに、レイラは首肯する。そして、一度目を閉じ、唱えた。
「我、ここに還りたる。古の法に従い、我ここに集いたる。我等、太陽神の下に生まれ、太陽神の下に死するなり。これを以て、誓いの言葉とす。応じよ」
レイラの詠唱が終わると同時に、背の高い門が現れた。ナジェルは目を見開く。ここがルベリアの入口だ。門を潜ると、のどかな風景が視界に映る。
「ケヴァン、感謝する。丁度、集会の時間だ。図書館に急ごう」
レイラはニヤリと笑って言った。一同が頷くのを見留めると、小さな声で唱う。
「我が友なる風、シルフの使者よ。我が詩に応え、我を誘いて、我を汝の元へ導くべし。応じよ」
木 々 が 風 に 吹 か れ て 揺 れ た 。
アテナ
天地創造の時、全てを創った女神なり。今現在、地図になき国を治め、そこから全てを視ておられるなり。又、初代太陽神、太陽の巫女の母となり、現在の基盤をお造りになられたなり。
唯一無から有を生み出すことがおできになるなり。彼の太陽神ですら、アテナに頭の上がることはないなり。汝、世の理を知りたいならば、神々知りたいならば、アテナを知るべし。
図書館は石造の立派な建物だった。中は迷路のように本棚が並んでいる。レイラはその中をずんずん進んでいった。
「なぁ、太子。俺たちのことは誰も見えてないんだろ。なんで、俺たちはお互いの姿が見えるんだ?」
ナジェルは前を行くジルフォートに聞こえないように、セルフォードに尋ねた。
「それは、不可視の術でないから。これらを作っている魔法石は、同じ原石から取れた物なんだよ。同族……自分の分身から姿を隠さなくてもいいだろ。少なくとも、自然や人を除く生き物はそうだ。不可視の術を使う時でも、同じ原石から取った魔法石を持っているとお互いの姿が見えるんだ」
「えっと、同じ石から取れたから、姿が見えるってことか。なんかめんどくさいなぁ」
「それが自然の成せる技だよ」
ナジェルは難しい顔をしていた。自分は知らないことが多すぎる。これでは、ジルフォートに笑われても仕方ないのかもしれない。
「ここが、禁書を置いてある書庫なんだが……」
「ああ。人の気配がある」
二人が追いつくと、一つの扉の前で、レイラとジルフォートは立ち止まっていた。どうしたのか尋ねる前に、なんだか嫌な予感が心中を駆け巡る。
「なんかさぁ、めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど……」
「あはは。本当だ」
四人の脳裏に、同じ人物の名前が浮かび上がる。自分たちは完璧にその姿を隠しており、この魔具は僅かな気配すら消しているのだ。
「レイちゃん。そこにいるのはわかってるんだよ。早く入ってきなさい」
「……正答だ…」
扉の向こうから聞こえてきた声に、レイラは心底嫌そうな顔した。そして、ゆっくり扉を開く。
そこには色とりどりの花が咲き乱れる庭園が広がっていた。




