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終焉4


 太陽族の村に戻った。下界で過ごしたのはおよそ五日だが、上界ではほんの十分にも満たない時しか流れていなかった。だからだろうか。天の磐戸の入口には、カイトが控えていた。


「お帰りなさいませ。太陽神様がお待ちです」


カイトは片膝を地に着け言った。セルフォードの顔から、サーと血の気が引いていく。


「……やはりな…。父上に何を言われるか……。少々怖いな」

「少々どころではないだろ。私も何があったかは知りたいが、お父様のあの姿だけは見たくないな。心の臓に悪い。だが、客人もいることだし、それはないと願っておこう」


ジルフォートの顔も青かった。本当に太陽神は怖いらしい。わずかな希望を胸に、カイトの案内で太陽神の元へ赴く。だが、カイトはすぐに姿を消してしまった。どこかの警護にでも行ったのだろう。




「父上、ただいま戻って参りました」


セルフォードは顔も上げずに言った。その肩は緊張のため小さく震えている。なにせ、生まれてこの方反応か疎か、自分の意見すら言ったことはなかった。反発ばかりしているジルフォートが怒られる姿を何度も見ている。何を言われるかわかったものではない。だが、そんなセルフォードの気も知らずか、太陽神は内心喜んでいた。これでいつでも神座を譲れると思っていた。


「セルフォード」


太陽神は言う。セルフォードだけではない。レイラを除く全員が体を強ばらせた。嫌な間だ。


「……良くやった」

「……えっ…」


セルフォードはポカンと口を開く。ジルフォートもだ。レイラはクスクス笑いだした。


「貴方は本当に父上に似ていらっしゃいますね」

「心外だな。私のどこが父上に似ている?」

「そうやって要らぬ不安を掻き立てるところがですよ。貴方も今の彼らと同じ顔をしていたではありませんか」


前世の記憶が戻った今、レイラは最強かもしれない。セルフォードは思った。それに、あのお方の元で育ったのだ。並大抵の神経ではやっていられない。


「……お叱りにならないのですか?」


セルフォードは少し固い声で尋ねた。


「なぜだ?方法は違えど、あの悪霊は滅した。それとも、セルフォードは叱られたかったのか?」


ブンブン首を振ったセルフォードの頭に、太陽神は手を置く。それは、幼い子どもに対するようだ。セルフォードは頬を朱に染め、俯いた。


「それで、これからどうするつもりだ?」


太陽神は尋ねる。それにジルフォートが答えた。


「ルベリアへ行こうと思っています。泉は彼の国の奥です。そこならば、色々とわかるでしょう」

「そうか。そこまで私が送ってやりたいのだが、生憎今はここから離れられない。すまないな」

「いえ、ですが……」


太陽神の言葉に、レイラは苦虫を噛み潰したような顔になる。それを見て、太陽神と巫女は笑った。


「アテナ様のことですね。あのお方のことですから、私たちのすることなど、全てお見通しのことでしょう。気休めにしかなりませんが、彼をお呼びしました」


レイラは驚いて目を見張る。彼が易々と治める村を去ることができるのだろうか。否、太陽神とこの子どもがいるならあり得るだろう。


「ケヴァンなら、不可視の術より強力な魔具を持っています。お祖母様には無理でも、お母様なら誤魔化せるかもしれません。ですが、彼がいない間、村はどうするんですか?」

「彼が移動魔法に長けていることを忘れたのか?彼の前ではどんな距離も無となる。ほら、もう来たようだ」


太陽神の言葉が終わると同時に、銀の髪をそよがせ、一人の少年が現れた。齢は十歳頃だろうか。青味かかった黒い瞳のかわいらしい少年だ。少年はナジェルを見ると嬉しそうに微笑む。


「あの時のガキが大きくなったなぁ。うんうん。良い師に巡り会えたようだ」

「えっと……。どちら様ですか?」

「あ、そっか。この姿で会うのは初めてだよな。オレはケヴァン。一応、ユーリアンの獣神をやってる」


少年――ケヴァンは言う。ナジェルを見る目は、父親が我が子を見ているようだ。悪魔の子と罵られ、親からも、村からも捨てられた子どもを助けた時より十数年。いつも、その安否を気にしていた。いくら、守護者をつけているからと言って、その不安がぬぐえるわけではない。だからケヴァンにとって、ナジェルは子にも似た存在なのだ。ただ、人形(ヒトガタ)のケヴァンは、幼い子どもの姿だが。それでも、そう思っているので、違和感が拭えない。


「えっ?あの時の狼?ガキじゃん」

「なっ!失礼な!これでも、民より先に生まれたんだぞ」

「そうだ。天地創造の時と同じくして、守護神や精霊は生まれたんだ。わかったか、ナジェル」


ケヴァンはニコリと笑ってレイラに目を向けた。


「おう。森羅万象の神か。久しぶりだなぁ。元気そうで何よりだ。っと、無駄話はこれくらいにしておこう。ルベリアに行くんだろ。リオナ……おっと、今は太陽の巫女か。頼まれた物を持ってきたぞ」


そう言って、ケヴァンは翡翠の首飾りを懐からいくつも引っ張り出す。適当に持ってきたのだろう。そんなところは子どもみたいだ。レイラ、ジルフォート、ナジェルは一つずつ手に取った。


「セルは行かないのか?」


動かないセルフォードにジルフォートは尋ねる。セルフォードは困ったように笑った。


「僕が行ってしまえば、ここはどうなる。父上はしばらく殯の室だし、母上も同様。外界を見る者がいなくなってしまうんだ」

「そげなこと、心配せえへんでええ。わいはここに残るさかい」


コタロウは言った。レイラの顔が憎々しげに歪む。


「なんでだよ。猫は魔法に長けてるじゃないか」

「わいはただの猫じゃあらへん。って、そげなこと、理由は一つしかあらへんやろ」

「お前もかよ。実はオレもなんだ」


コタロウの言葉に、ケヴァンは親近感が湧いたようだ。嬉しそうに笑って同意する。


「貴様だけ狡いぞ。俺だって同じだ」


レイラも吐き出すように言う。話が見えないのはナジェルだけのようだ。ジルフォートも、セルフォードも、太陽神や巫女でさえも、納得して頷いている。


「訳わかんねぇよ。俺にも分かるように説明してくれ」

「簡単に言うとね、人は自分よりも強い……力のある者を羨望し、心酔するか、反対に苦手とするものなんだよ。たいていは、その人物の性格によるんだけどね。僕たちが言ってるのはアテナ様のことなんだけど、あのお方は喰えない狸なんだ」


セルフォードの言葉に、一同そろって頷く。


「……たっ、狸なんだ…」


ナジェルはレイラと似た白いローブを纏った狸を想像していた。レイラの祖母であるのに狸はおかしいと思う。だが、性格のことを言っているとは思っていなかった。だから、一人、頻りに首を傾げる。


「おっと、話がそれてしまった。セルフォードはどうしたい。ここに残るか、それとも彼らと一緒に行くか」


太陽神の言葉に、セルフォードはおずおず頷いた。せっかくここまで来たのだ。あのお方には会いたくなくても、最期まで見届けたい。


「お許しがでるのなら」

「そうと決まれば、行くぞ。近くまで送るから」


ケヴァンはセルフォードに首飾りを投げ渡す。セルフォードが慌てて付けるのを見届けると、ケヴァンは印を組んだ。次の瞬間、その場には太陽神と巫女、そして、コタロウだけになった。


「……もうすぐ、終わりやな…………」


コタロウは誰にも聞こえないように呟いた。




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