終焉2
アンジェはイライラ歩き続けていた。下界がここまで不便なところだと思わなかったのだ。衣服が違う。言葉が違う。さらには、大半の魔法が使えない。一応、精霊魔法が一、不可視の術を使っているが、ザアザア降り続く大雨の中、分厚いローブは動きづらいし、風渡り・水渡りの詩が使えないため、歩くしか移動手段がない。もちろん、土の民が乗る変な汚れた煙を出す乗り物に乗ることも出来るが、乗った直後に気分が悪くなってしまい諦めて歩くことにしたのだ。そのような苦労も、洞窟に入った今は、少々解放されている。
「エリザラン先生。本当にここに純白のロウタスがあるんですか」
「ある。ムスカの村行事で、毎年ここに来ているからな」
シェレスは自慢げに言う。
「では、先生は来たことがあるんですね」
「ない」
アンジェは転けた。元々、頼りない光で、足下が覚束ないのだ。それ以前に、シェレスのあの自慢気な態度が気になる。
「ムスカの村では、その年に生まれた子どもを眠り病に掛ける慣わしがある。その時、黄泉の花を取りに行くのは、その子ども達の父親だ」
「それなら尚更では?先生には、二人のお子さんがいらっしゃるでしょう」
アンジェは横目で睨み付けた。
「ああ。だが私は、運がいいのか悪いのか、籤で当たった試しがない。まさかと思うが、全員でゾロゾロ行くと思っていたのか」
アンジェは言葉に詰まったことを誤魔化すため、溜息をついた。そんなことで大丈夫なのだろうか。いや、それより、ふと思いついた。自分たちが村へ帰れるのは、長期休暇で家である。なんだか、子どもたちが可哀想だ。
「何を考えている」
「先生のお子さんが可哀想だと」
アンジェは態とらしく目頭を押さえた。
「父親がほとんどいないことか?それなら、心配に及ばない。村には私の分身がいる」
反応に困ってしまった。用意周到と言うか、徹底しているというか……。何と言って良いのやら、答えが出せない。
ふいに、シェレスの足が止まった。
「見ろ。あれが黄泉の花。純白のロウタスだ」
そこには泉があった。そして、その中央。大人でも一人では抱えられそうにないほど、大きく真っ白な蓮に似た花があった。全く光の差さない洞窟中、その花は白く光り輝いている。




