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終焉1

 吟遊詩人は歌う。古の詩。古の物語。緋色の髪と瞳を持つ老人は、嗄れた、けれども美しい声で語る。子ども達がせがむまま。己の知る古い物語。己の経験した古い日々。一言一句に懐かしさが溢れていた。


「昔々、あるところに……」


 それは、誰もが忘れた物語でもあった。知る者は、自分を含めて四人。神々さえ忘れた物語だった。




    封印の泉


 世界の果て、全てを知る泉有り。太古の昔、太陽神はこの泉の水を、我等が祖先に飲まし、知識を授けたという。


 地図になき国のさらに奥深き森に、マナと共にある。彼の地、誠に彼の地を必要とする者のみ、入ること叶う。彼の泉、悪事に用いること叶わず。マナは全てを知っている。汝は、マナに膝を折るべし。




 雨は相変わらず降り続けている。四人と一匹はイヨの神殿に身を寄せることにした。


「熱がある。緊張の糸が切れたかな」


セルフォードは言った。


「ふん。まだ大仕事が残っているのに情けない」


眠らされ、事の成り行きをよく知らない、ジルフォートは怒っている。下界に来てからというもの、ジルフォートはいつも怒っていた。


「どちらにせよ、僕はもう少しここにいたかったから、願ってもない幸せだ。レイラ、コタロウを借りていくよ」


今、セルフォードは高い位置で髪を結んでいた。相変わらず、光の当たり方によっては、青い光が入っているが、もう風は嘆いていなかった。いずれ神の頂点に立つお方の素晴らしいこと、長い間行方知れずになっていた森羅万象の神が帰ってきたことを喜んでいた。セルフォードの力が開花したことに、自分が関係していたことを知り、今更ながら苦笑を隠せないレイラだった。


つまり、寝込んだのはナジェルだ。今は、コタロウが魔法で出した布団に包まり寝ている。どんな時でも、一番元気だと思っていたナジェルが、今はとても頼りなく見えた。


「やはり、こいつの熱が下がるまで、ここに居座るのか」


壁に縋って、ジルフォートは尋ねる。


「あぁ。今動かすのは得策でない。それに、コタロウに頼まれていることもある」


レイラはセルフォードの持ってきていた本から、顔を上げずに答えた。


「なんか、レイラとセルって似てるな」


ため息と共に、ジルフォートが呟く。レイラは顔を上げた。


「どこが?」


心当たりのないと言う顔に、ジルフォートは指を立てて一つ一つ挙げていく。


「ひとーつ。勉強好きなこと」


レイラが読んでいたのは、太陽族に纏わる文献だった。


「ふたーつ。その頭に、容量を超えた知識を持っていること」


レイラは苦笑を浮かべる。


「みーつ。人が居ようが居まいが、関係ないところ。よーつ。一人で抱え込むところ」


ジルフォートの指が四本立った。


「俺は本は好きだが、勉強は嫌いだ。それに、脳に容量など無い。残りの二つは論外だ。人がいないことを気付かないほど馬鹿ではないし、一人で抱え込んでいるつもりもない」


嘘だ……。ジルフォートは手を下げる。本を読んでいたら、どんなことがあっても気が付かないだろう。初めて会った時がそうだった。




 セルフォードはコタロウを肩に乗せ、大きな葉を雨除けにして歩いていた。四方八方を木々に囲まれ、川に挟まれ、崖があり、獣道すら見当たらなかった。神殿だけが異常に新しい。


「ここがわいらの家やった。穴を掘って暮らしとたんやで」


大きな横穴がいくつも並んでいるところに来た時、コタロウが言った。セルフォードは興味津々に中に入ろうとする。


「止めといた方がええで。何があるか分からへん。多分、ここで死んでいったヤツもおるハズや」


なぜだろう。コタロウは遠い目をしていた。これは、過去を懐かしんでいる目だ。


「コタロウ。邪馬台国はどんな国だったの」

「前、言うた通りや」


コタロウが素っ気なく答える。


「うん。そうだけど、コタロウにとっての邪馬台国……イヨさんはどうだったの」


コタロウは言葉に詰まった。ここは良かったことも、悪かったことも星の数ほどある。


「そぉやなぁ……。いいところやったで。わいは小さかった頃、上界でイヨに拾われたんや。わいの体は、こっちの時の流れについて行けへんでな。いつまで経っても小さいままやった。そんなわいを受け入れてくれたんは、イヨとヒュウガだけやねん。……あん頃は、大人もこどもみんな笑うとって、色んな稽古や、農業に勤しんどった。わいはイヨの元で魔法を習うたんで。イヨはわいの知っとる限り、嫌、ちゃうな、世界中探しても最高の魔女や。そんで、最高の王や」


コタロウはうなだれた。セルフォードはコタロウを抱き締めると囁いた。


「みんなのところへ戻ろう。でも、忘れないで。僕たちには、コタロウが必要だってこと」




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