古の都11
ナジェルは一畳の間をあけて、ヒュウガと対峙していた。一度剣を交えて、改めてヒュウガの強さを感じる。武者震いだろうか。体が震えている。少なくとも、ヒュウガは自分が戦った誰よりも強い。
ヒ ラ リ と 、 葉 が 舞 い 落 ち て き た 。 そ れ が 合 図 だ 。
「だぁー」
一飛びで二人の間を縮めると、大きく剣を振りかぶる。受け止められた手応えがあった。ナジェルは退かず、剣を降り続ける。
ガン。ガン。ガン。
ヒュウガは軽く受け流していた。受けてばかりで、攻撃をしてこない。
「ナジ、気い付けいや。ヒュウガは相手の流れを読んで、攻撃してくるで」
コタロウが叫んだ。だが、それが逆に命取りとなった。コタロウの声に気を取られた一瞬、ヒュウガの攻撃が決まった。ナジェルは上手く避けて致命傷には至らなかった。が、それは右目の横を掠った。
……。
ぱさりと音を立てて眼帯が落ちる。少し血が出ているが、たいした傷ではない。ナジェルは片膝を地に付けた体勢で、ヒュウガに剣を向けた。
そ の 闇 色 の 瞳 に 、 ヒ ュ ウ ガ は 見 入 っ て い た 。
「これで、愛しい彼女が還ってくる」
ヒュウガは呟く。ナジェルの体が動かなくなった。干渉魔法が一、金縛り。
「コタロウ。あの術を解け」
ジルフォートが叫ぶ。
「無理や。金縛りは結界と同じやで。術者以外は解かれへん」
「ちくしょぉ」
ジルフォートが地に拳を叩きつける。レイラが人体干渉を試みるが、霊体のヒュウガには効果がない。ヒュウガがナジェルを連れ去ろうとする時、最後の手段とばかりにコタロウが叫んだ。
「ヒュウガ、アイツはそげなことをして、喜ぶと思ってんのか。アイツはそげなこと、望んどらへんで」
「それは違うよ。愛しい彼女はこれを望んでいる。だって、一緒に永久を約束したんだから」
ヒュウガはナジェルを連れて消えた。後に、ナジェルの剣が残される。
セルフォードが目を覚ました時、二人と一匹はナジェルの剣を中心に座っていた。
「ナジェルはどうした」
「俺たちの前で、連れ去られた。それで今は、作戦会議中だ」
レイラが応える。それにしても、ジルフォートの落ち込み方は酷かった。離れた所に聖銀の剣が落ちているのを見つけ、セルフォードが言う。
「ジル。地に墜ちたもんだな。それぐらいのことで、自分のすべきことも忘れたか」
「……それぐらいとは何だ。アイツとの付き合いが短いお前に何が分かる」
地獄の底から這い上がってきたような声で、ジルフォートが言う。セルフォードは涼しい顔で、それを受け止めた。
「少なくとも、落ち込んで欲しいなどとは思っていないだろう」
さすが兄妹。容赦しない。
「コタロウ。今僕たちがすべきことは」
セルフォードが言う。かなりの知恵者だ。余計なことを考えさせないようにしている。
「滅びの村へ行くことや。向かうんは、神殿やで。ヒュウガはそこにおるさかい」
「分かっているのなら、行こう。ここの風渡りの詩を知っているのは、コタロウだけだ。コタロウ、いいな」
コタロウは頷く。レイラは荷物の中からローブを取り出し、ナジェルの剣を包んだ。セルフォードが聖銀の剣を拾って来る。そして、無理矢理ジルフォートを立たせた。
「我は、道を造りし者。我こそが、道の生みの親。シルフの使者よ。我等を我の作りし道の果てに誘え。応じよ」
コタロウは唱えた。




