禁断の扉2
レイラはいつものように寮裏にある森のテラスに向かった。いつも使う日当たりの良いベンチには、真っ黒な猫が丸くなって寝ている。黒猫はレイラの足音を聞きつけ、めんどくさそうに目を開けた。
「ふわぁ。なんや、レイかいな。今日は遅かったんやな」
「あぁ。今日は、小テスト試験があったんだ。いつもサボる、俺への当てつけらしい」
黒猫を地に降ろし、その椅子にレイラが座る。そして、長いローブの内から一冊の本を取り出した。黒猫はその膝の上にピョンと飛び乗ると、また丸くなって目を閉じ、すぐに寝息を立て始める。
ペラリ。ペラリ。辺りには鳥の囀りの他は、レイラが本のページを捲る音しか聞こえない。……。……。そのハズだった……。
ガッシャーン
ものすごい音と共にガラスの破片と人が降ってくる。が、本に夢中になっているレイラは気付かない。黒猫がパッと目を開くと、レイラは不思議な光に包まれた。上から降ってきた人は、長い金色の髪をなびかせ、軽く机の上に着地すると、またすぐに跳躍した。
「待て。今日こそ、私と勝負しろ」
怒号と共に緋色の閃光が走り、机が砕かれる。だが、やはりレイラはまったく気が付かない。
「二人とも、どないしたんや」
黒猫は光を消すと言った。だが、この二人も膝の上の黒猫には、まったく気が付かない。結局二人は、一人の教師に見つかるまで、レイラの周りをクルクル回っていた。
理由も良く分からないまま、レイラは当別な部屋に連れて行かれ、シェレス・エリザラン・ムスカにくどくど怒られることになった。シェレスは良い教師なのだが、怒り出すと止まらないという欠点がある。少なくとも、アンジェよりずっと……何万倍もマシな先生だとレイラは思っている。だが今は別だ。意味も分からないのに、大切な本を取られ、怒られるのは我慢が出来ない。レイラの頭中に『授業をサボるのは悪』とは載ってないのだ。
「話す口を持たじ」
レイラはシェレスの目を睨み付け呟くと、急にシェレスの口から言葉の羅列が止まった。
「動く身を持たじ」
今度はシェレスの動きが止まる。レイラは大切な本を取り返すと、長い鈍色のローブを翻し、颯爽と去って行く。その後ろ姿はあまりにも堂々としており、まるで王か、それとも神かという錯覚さえ起こした。二人は一瞬惚けていたが、長居は無用とばかりに、あわてて後を追った。誰も喜んで怒られはしないのである。




