古の都9
滅びの村
土の民暮らす地、邪馬台国と呼ばれる国有り。だが、今は滅び、その国を知る者はなし。故に、滅びの村と呼ばれる。
女帝のみ、その国を治めることが出来た。中でも、壱与の代、最も安定していたという。だが、壱与の死後、長い時を待たずして滅びっていったという。
邪馬台国については様々な伝承があり、はっきりしたことは何も分かっていないのが現実である。
「始めに、滅びの村へ行きたいんやけど」
コタロウは言った。ヒュウガのことを一番知っているのは、コタロウである。反対する理由も見当たらない。
「でも、コタロウ。その位置を知っているのか」
レイラが尋ねる。
「もちろんや。わいらはそこで育ったんやで」
コタロウは言うが、すぐに元気がなくなってしまった。
「わい、言っとらへんかったことがあるやろ……。わいらがおったある組織ってのは、国崩しの組織、邪馬台国や。伝承じゃと、大きゅうて、立派な国のように言うとるが、ほんまは小国を崩して配下に加えとっただけなんや。立派なことあらへん」
溜まっていた何かを吐き出すかにように、コタロウは言う。
「でも、そこは今、滅びて存在しない。それでいいんじゃないか、猫」
「わいは、ただの猫じゃあらへん」
ナジェルが言うと、反射的にコタロウが言い返す。
「無知とはお気楽でいいものだ」
ジルフォートがため息と共に吐き出す。それでも、コタロウにいつもの元気の良さが戻ってきたのは事実だ。
ナジェル自身、無知なことを気にしていた。セルフォードと二人っきりになった時、ナジェルは最大の疑問をぶつけてみることにする。
「なぁ、下界の国の民は、どうして土の民って呼ばれるんだ」
「それは太古の昔、民と作った神に原因があるんだ。神は空気から僕らの先祖を作り出し、土から下界の民の先祖を作り出した。だから、下界の民は土の民なんだよ」
セルフォードは親切に答える。
「そうなんだ。ありがとな。それと、魔女には黙っといてくれるか。すぐに、笑い者にされるんだ」
ナジェルは手を合わせた。
「それはそうだろうな。少し気になったんだが、なぜ、ナジェルは名前を呼ばない」
セルフォードが言うと、ナジェルは困ったように頭を掻いた。
「制約なんだ。俺も良く分からないんだけど、俺が名前を呼ぶと、何かがやってくるらしい。お前のことは、そうだなぁ、太子。うん。それがいい。太子って呼ぶから」
セルフォードは、ナジェルの一部を垣間見た気がした。高すぎる魔力を持つが故の制約なのだろう。
「でも、それ、本当ことか分かんないんだよね」
「えっ」
セルフォードは、反射的に聞き返す。
「うん。だって、俺、魔力を封じられてたんだ。左右非対称の瞳は、悪魔の子だってさ」
セルフォードは顔を引きつられた。悪いことを聞いてしまったような気がする。だが、ナジェルは表情を変えてなかった。それが逆に痛々しく感じる。
「ごめん。僕、悪いこと聞いた」
「謝んなよ。もう慣れた。それに、あいつらの御陰で、自分を知ることが出来たんだ。悪魔と言われようが、俺は俺だ。魔女が言ってた用に、逃げずに受け止めないと」
ナジェルは微笑んでいた。その瞳に嘘はない。ナジェルは、根本的に嘘は付かないのだ。
太陽神はナジェルを呼んだ。興味本位で、皆も付いてくる。神座に御座す太陽神は、さっきまでの気安さがなく、厳格がある。自然とナジェルの、背筋が伸びた。
「これを渡そう。伝説の宝剣だ」
つい先日、ナジェルが語った伝説の剣である。何処にあるのかと思えば、太陽族の村にあったのだ。
「これがですか。これを俺に渡していいんですか」
ナジェルが尋ねると、太陽神は頷いた。
「いいか。心の臓を一刺しだ。それで、幽霊は滅びる」
太陽神は、情け容赦ない。それだからこそ、ナジェルは逆らえなかった。紛う事なき、畏怖の念だ。
「……。分かりました」
ナジェルは答えた。




