古の都8
一同が広間に着いた時、すでに太陽の巫女の姿はあった。手には七色の宝玉を乗せた、高坏がある。
「森羅万象の神よ。これをあなたにお返しします」
これが自分の物のハズがない。しかし、本能が受け取れと言う。
「たしかにお受け取りしました」
レイラが恭しく受け取った。
……。……。……。
現太陽神は、今よりずっと若い。まだ幼かった。その隣に、亡太陽神の姿があった。
「……よ。本当にそれでいいのか」
「はい。私が行っても何か役に立つとは思いませんが、印を持つ、重き定めの少年を助けることは出来るでしょう」
亡太陽神は悲しそうに笑った。
「もう心は決まっているのだな」
「申し訳ございません。何時までも、お側にいたかったのですが。その代わりに、私はここに全ての記憶を置いていきます。次にお会いした時、返していただけると幸いです」
「……。嫌だよ。行かないでよ」
現太陽神が腕にしがみついてくる。
「息子よ。あまり困らせるではない。……よ。印を持つ重き定めの少年と、息子の子ども達が生まれる年に、この地に身を宿す。迷いがないのなら行け。世界最高峰の魔術師である神よ」
そ れ が 亡 太 陽 神 を 、 見 た 最 後 の 時 と な っ た 。
「おい、魔術師」
肩を揺さぶられ、レイラは気が付いた。目の前にナジェルの不安げな顔がある。
「大丈夫か?」
「あぁ。どれくらいの時間がたった」
「十分程度だ。どうだ、思い出したか」
レイラは頷いた。あの七色の宝玉は、森羅万象の神の記憶だった。レイラの手の中の宝玉は、光を失い、そして消えた。
「では、森羅万象の神よ。我々はあなたのことを何とお呼びしたらよいでしょう」
太陽の巫女が問う。
「そんな言葉遣いは止して下さい。今の俺は神ではありません。レイラ・フランディット・ルベリアと言う太陽神の民です」
太陽神も巫女も笑った。
「あなたは昔から変わらない。我々は何度も同じことを言われた」
「昔は昔です。俺と森羅万象の神は全くの別人ですよ」
プーッと膨れてみせるレイラに、一同は笑った。レイラもつられて笑う。
「無駄話はこれくらいにしよう。お前達の行く道はまだ長い。カイト、鏡を持ってきてくれ」
「はい」
カイトはタッと走っていった。そして何処からか特別な銅鏡を持ってくる。それを一同の中心に置いた。
「質問は後で受け付けよう。まずはこれを見て欲しい」
太陽神が鏡に手をかざすと、像が浮かび上がる。そこに映ったのは、マナアリア大魔法学院だった。
「ここはシェレス・エリザラン・ムスカによって、時の流れを止められている。この魔法は己の命を削る。三月が期限だ」
次に泉が現れた。
「これは封印の泉だ。特別な封印を掛ける時、この泉まで行かなければならない。その中でも、あの扉は特別だ。印を持つナジェル・エリオット・ユーリアンのみ、扉の封印を掛けることが出来る」
そして、次に現れたのは、他でもないヒュウガだった。
「その前に、この悪霊を倒さなければならない。これは、死者を蘇らすという、世の理に反する所行をしようとしているのだ。だから、食い止めなくてはならない。何か質問はあるか」
像が消えた。ナジェルは手を挙げる。
「俺は封印の呪文なんか知らない。それなのにどうして封印が出来るんだ」
「その瞳が知っている。生まれ持った宿命だ」
それども、太陽神の言葉が納得出来ないようで、ナジェルはしきりに首を傾げる。
「太陽の神、一つお聞きしたいんやけど、ヒュウガが生き返らそうとしてんのは、イヨなんやろうか」
コタロウが尋ねると、太陽神は頷いた。
「……やっぱり……」
コタロウが小さく呟く。
しばらく思案した挙げ句、ジルフォートは口を開いた。
「お父様。セルを連れて行ってもいいか」
太陽神は微笑んだ。セルフォードが驚いて目を丸くする。
「セルフォードの意志だ」
ジルフォートの目が、セルフォードに向く。
「ジル。なぜ、僕を連れて行こうと考えた。僕のことをあんなに嫌っていたのに」
「今でも嫌いだ。だが、今は一人でも多くの知識人が欲しい。それに、レイラに魔法を使わせすぎる」
そこでコタロウが口をはさんだ。
「魔法が使えんのは、レイだけやないで。わいもおるねん」
ジルフォートは微笑んで、コタロウの頭を撫でた。
「そうだったな。で、セル、どうするんだ」
セルフォードは目を閉じた。父はすでに先を知っているのだ。本当のところ、自分はジルフォートが羨ましかったのだ。運命に逆らい、気の向くままに生きてきた、書物では分からない、広い世界を知っているジルフォートが……。静かに目を開いた。
「……僕は……、行きたい」
ポンと背を叩かれた。見ればレイラが微笑んでいる。肘で小突かれた。ナジェルである。コタロウが肩に乗って来た。カイトは涙を流している。太陽神も、太陽の巫女も微笑んでいた。セルフォードは初めって、自分の意志を両親に言ったのだ。
「今日はもう遅い。明日、出発しなさい」
太陽神は言った。




