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古の都7


 しばらく歩くと、急に明るい所に出た。見たこともない作りの建物の中である。コタロウは懐かしそうに、喉を鳴らした。


「殯の室へ行くぞ。そこに、皆がいるはずだ」


ジルフォートは険しい顔をしていた。



 このような回廊を渡殿というらしい。コタロウが教えてくれた。土の民の住む、下の世界で育ったコタロウは、三人の知らないこともよく知っていた。コタロウの育った国では木造建築物が多いのだが、セイヨウと呼ばれる地方ではマナアリア大魔法学院のような、石造建築物が多いなど、たわいない話をしていく。ジルフォートの足が止まるまで、コタロウの土の民についての講義は続いた。




 ガキン




 ものすごい金属音がして、レイラはジルフォートが剣を受け止めたのだと気付く。何時少年が出てきたのか分からなかった。相当の手練れのようだ。


「ジルフォート様。今はお引き取り下さい」

「カイト。私たちはお父様に話がある。通せ」


二人とも、一歩も下がる気配がない。激しい剣のぶつかり合いが生じる。


「覚えているな、カイト。お前では私に勝てない」

「えぇ。もちろん分かっております。七歳の時に龍狩りに勝手に付いて行き、大人顔負けの腕を振るっていたことも、覚えております。それでも、太陽神亡き今、セルフォード様の命により、何人たりともここを通すわけにはいかないのです」


ジルフォートは昔からこの性格だったらしい。それにしても、七歳の女童が大人並みの腕とは……。呆れてしまう。そんな二人と一匹をよそに、ジルフォートとカイトは勝負を続ける。


「カイト。腕を上げたな」


ジルフォートは楽しそうだ。本能で戦いを楽しんでいる。


「いぇ。ジルフォート様には及びません。三分の一の力でこれですから」


それに引き替え、カイトは真剣だ。受け止めるのがやっとのようで、顔を引きつらせている。


「気付いていたのだな」


ジルフォートは一瞬、剣を持つ手に力をこめた。カイトの剣が跳ぶ。勢いを殺せず、カイトは尻餅をついた。鼻の先に、ジルフォートの剣が現れる。


「もう一度言う。ここを通せ」

「いけません」


武器を失ってなお、その澄んだ瞳は変わらない。


「通せ」

「ダメです」


幼い、痴話喧嘩のようだ。誰も止めに入る気力はなかった。


「カイト。止めなさい」

「セ、セルフォード様。見苦しい物をお見せし、申し訳ございません」


さっきまでの威勢は何処へ行ったのやら、カイトは急に現れたセルフォードに膝を折る。それだけ、心酔しているのだ。それと引き替え、ジルフォートは親の敵を見るように、セルフォードを睨み付けた。


「ジル。血臭が酷い。そっちの方と、身を清めてきなさい。カイト、二人を案内するように。それから……!」


セルフォードはレイラを見て驚く。


「どうされましたか?」


レイラが尋ねると、セルフォードは恭しく膝をついた。


「貴方様は、我が父なる太陽神の右へ鎮座しておられた、森羅万象の神でございますね」

「っ!ちょっとお待ち下さい。私は、そのような記憶を持っておりません」


そんな二人の遣り取りに驚いたにはカイトだ。


「セルフォード様。森羅万象の神とは、お二方が生まれる少し前に、禍を断ち切る為、地に降りたという、あの神のことでしょうか」

「えぇ。さぁ、早くお祖父様の元へ向かいましょう。ジルと貴殿は、よく身を清めてからいらして下さい」


セルフォードはレイラの手を取ると、レイラ諸共消えてしまった。


「お二方はこちらです」


カイトに連れられ、湯殿に向かった二人は、数人の者によって、真っ赤になるほど強く洗われる羽目になった。それでも、体に染みついた妖魔の血臭は落ちず、香りの強い香で誤魔化した。




 レイラは殯の室へと向かう。自然と前を行くセルフォードの髪に目が向いた。ジルフォートと違い長いそれは、光の当たり方によっては青味を帯びて見える。


「セルフォードさん。その髪は、太陽族の中では珍しくないですか」

「貴方様は、私より格上の存在でございます。そのような、お言葉使いをなさらないで下さい」


セルフォードは足を止め、振り返る。


「そう言われましても、私にはその頃の記憶がないのです」


レイラは頭を下げた。セルフォードはため息をついて少し考える。


「それでは友として、互いを敬うことなく、対等な立場になりませんか?」

「それなら遠慮なく」


セルフォードは、パッと顔を輝かせる。


「では、質問に答えよう。たしかに、僕の髪は珍しい。緋色の中に、青い光が混ざっている。その所為か分からないが、僕は魔法に関する能力が低い」

「風が嘆いていた理由はそれか。セルフォードの人柄はいいのだが、星が欠けているらしい」


レイラの言葉に、セルフォードが首を傾げる。


「星が欠けている……?星宿が欠けていると言うことだろうか。ここが殯の室だ。父上はここにおられる」


セルフォードは扉を押した。




 何万……。いや、何億もの、拳大の太陽のように真っ赤な石があった。それは、太陽神の亡骸だった。




「父上。森羅万象の神が戻って参りました」


その中でも一際赤い石の前に座る男性に、セルフォードは膝をつき言う。男性――太陽神は振り返った。


「森羅万象の神よ。よくぞ戻って参られた。さぞ亡き父神も喜ぶであろう」

「太陽神様。申し訳ございません。そのように申されましても、私は前世の記憶を持っていないのです」


レイラも同じように膝をつく。


「知っておる。主は地に降りる際、一切の記憶を置いていったのだ。おや。早いな。娘達が来た」


言葉の終わらない内に扉が開いた。堰を切ってジルフォートが飛び込んでくる。その向こうにはナジェルとコタロウ、カイトもいた。


「ジルフォート久しぶりだな。元気にしていたようだが、なぜ剣の部に進んだ。精霊の部へ進むハズだったが。……。まあ、いい。亡き父神の御前で、このような話をすることもない」

「私はもう逃げない。お父様に従ってばかりにもならない。私は己の信じた道を行く」


今回のことで変わったのは、レイラだけではなかった。ジルフォートも変わっていた。ただ憎むだけでなく、ぶつかることを覚えた……。太陽神は微笑んだ。今のジルフォートは、本当にいい顔をしている。


「大きくなった。よい友に恵まれたのだな」

「父上。感傷にふけるのは構いませんが、時間がないことはお忘れにならないで下さい」


セルフォードも微笑んでいた。


「そう言えば、お母様の姿が見えない」

「母上は、ある物を取りに祭壇へ行っている。僕たちも広間へ行こう」


セルフォードが言う。ジルフォートは心当たりがあるらしく、頷いた。似ていないように見えても、二人はよく似ていた。




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