古の都6
三人と一匹が目を覚ました時、まだ雨は降り続いていた。すでに、女将達は働きだしている。
「夕べはよおけ眠れましたか」
朝餉の席で元気一杯の仲居達に、何度も同じことを聞かれる。そのたびに三人は、曖昧に微笑むだけだ。コタロウだけは、日頃食べることの出来ない、上等な魚を貰い上機嫌だ。
「そう言えば、磐戸を通ると、どれくらいで太陽族の村へ着くんだ」
ナジェルは尋ねる。
「本当に何も知らないんだな。磐戸は太陽族の村へつながる、唯一の風渡りの道だぞ。何分も掛からないに決まっている」
ジルフォートが冷たい目を向ける。レイラはまだ半分眠っていて、コックリコックリ船を漕いでいた。
「ジル。磐戸のことを知っとんは、ごく一部しかおらんで」
コタロウは苦笑いを浮かべた。ジルフォートがそっぽを向く。
昼過ぎ、三人は元着ていた服に着替えると、女将から小さな銀の守刀を貰った。そして、盛大に見送られ、磐戸へ向かう。宿の地下にある磐戸への道は、ジルフォートと女将……太陽族しか知らない。グネグネした道を僅かな光を頼りに進んでいく。
「巫女様、お気を付けて行ってらしゃいませ。あたしらは、ここで巫女様のお帰りを待っております」
女将はもう少しで磐戸に着くという、最後の曲がり角に付いた時言った。寂しそうな、切ない微笑みを浮かべている。
「私はいくつになってもここへ来る。それだけは、忘れないでくれ」
ジルフォートはポンと女将の肩に手を置き、優しい瞳を向けた。だが、すぐに踵を返し、二人の背を押して角を曲がる。
女将はジルフォートの触れた肩に手を置き、ギュッと握りしめた。どうしようもない、不安の波が押し寄せてくる。
「亡き太陽神様。どうか巫女様をお守り下さい」
「ここの詩は特別なんだ」
磐戸に手を掛け言った。ジルフォートの顔は見えないが、何か強い覚悟が感じられる。ジルフォートは戸を開けると唱った。
「我が父なる太陽神よ。我が詩を捉え、我を父の御前に導きたまえ。我が声に応じよ」
一 同 は 知 ら な い が 、 な ぜ か と て も 懐 か し い世 界 を 漂 っ た 。
気が付けば、磐戸は閉じられ、三人と一匹の後ろにあった。
「……ここが太陽族の村だ」
ジルフォートは呟くと、歩き出した。ここまで来た道と同じような、グネグネとした道を行く。本当に太陽族の村まで来たのか分からない。




