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古の都5



 二人を見たとたん、ジルフォートはぽかんと口を開けた。笑われる覚悟をしていたナジェルは気が抜ける。違和感が、全く無いのだ。


「これらは、女将の見立てか」

「えぇ。さすが巫女様。よお分かりましたなぁ」


二人を着せ替え人形にしていた仲居たちより、上等な着物を着た女性は言う。緋色の髪と瞳。彼女も太陽族のようだ。


「二人とも、お掛けんなさい。そげなところに居りましたら、折角の夕餉も食されませんよ」


女将はニコニコしている。二人は、言われた通りに席につく。



 久しぶりにまともで温かい食事にありつけた。と、言えども、まだ学校を出て1日経っただけである。それでも、飛んだり、歩いたり……。ほんの一日の出来事が何ヶ月にも感じられるのだ。


「ここから村までは、磐戸を通って行く。明日は、ゆっくり寝るがいい。昼にここを出よう。女将、それまでに、私たちが着ていた服と荷物の用意を頼む」

「はい。仰せのままに」


女将が膝を付く。みんなに傅かれて育てられたのだろう。我侭と言う訳ではないが、言動に『当たり前』と滲み出でいる。


「ジルフォート。太陽神と太陽の巫女。それから、セルフォードさんのことを知りたい」


三人と一匹になったところで、レイラが尋ねた。


「……聞いたんだな……。それなら、私が話すことも無いだろう」

「よく分からなくてな。それに、ナジェルは全く知らないだろう」


ジルフォートは大きく深呼吸した。


「太陽神……。お祖父様は良く分からない人だった。話したことも両手足りるほどだ。お父様は、いつもお祖父様の側にいた。そうだなぁ。まるでそこにいない誰かの穴を埋める為みたいに……。私はアイツ……セルと一緒に剣技を習っていたが、お父様はそれを嫌っていた。その所為か分からないが、私には厳しい人だ。お母様は、反対に優しい人だ。……。いや、違うな。お母様は偽善者だ。全ての人に幸せを……と、偽善ばかり唱える。セル……。あいつは嫌いだ。お母様と同じで偽善ばかり。……。私が言えるのは、これくらいだ。私にとってだから、実際会うと違う印象を受けるだろう」


素っ気なくジルフォートは話を終える。ジルフォートの脳裏に数少ない会話の中で太陽神が言った、世界最高峰の魔術師である神の話が甦る。しかし、ナジェルは違うことを考えて聞いていなかった。


「……。なぁ。猫。何か、あいつのことで俺たちに隠し事をしてないか」

「わいはただの猫じゃあらへん。……。はぁ。隠し事は何もしてへんけど、どないしないたんや」


この遣り取りは、お約束事になっている。いつものようにコタロウは牙を向く。でも、今回はすぐに真剣な顔に戻った。


「ヒュウガは、幽霊かもしれない。本当に心当たりはないのか」

「わいがヒュウガと別れたんは、上界の時にして五年以上も前のことや。……。っ!そうや!アイツ、五年前とほとんど変わっとらへん」


何もかも笑い事では済まされなくなっていた。もしそうなら、事は大きくなる。重い現実に押しつぶされそうだ。


「何処でそれを知った」


お互いの知っていることは、全て知っておこうと誰もが考えた。情報は多い方がよい。


「ヒュウガの着ていた服、白装束って言うらしいんだ。死人に着せる服らしい。仲居さんに聞いたんだ」

「それはちゃうで。白装束は凶事に用いられるんや。それに、ヒュウガは昔っから好んで白装束を着とった」


三人と一匹は、頭を合わせて考える。はっきりしない情報に、誰もが頭をゴチャゴチャにしている。可能性だけなら、数えきらないほどあるのだ。


「何か書く物を貰ってこよう」


ジルフォートは立ち上がった。あの特別な魔具小刀がなければ、次元溝を開くことが出来ない。それに、今はコタロウの知識も必要だ。まさに、猫の手も借りたいとはこのことだろう。ジルフォートは、すぐに、手帳とペンを持って戻ってきた。


「まず、ヒュウガのことだ。幽霊の時と、そうではない時にことを考えよう。レイラ、幽霊はどうしたらいい」

「幽霊は目的を果たしたら自然と滅するが、アイツの目的がはっきりとしない今、自然消滅は考えられない。それに幽霊は、グールやゾンビとも違う。解魂の術は効かない」


ジルフォートは、スラスラ紙に書いていく。


「そうか……。ナジェルとコタロウも知っていることは教えてくれ」


ナジェルもコタロウもレイラもジルフォートも何も言わない、嫌な沈黙の時が流れた。どれくらいたっただろう。ナジェルは心当たりが見つかったらしく、顔を上げた。


「そう言えば、ばぁちゃんが言ってた気がする。……。幽霊だけじゃない。全ての獣魔に言えることなんだけど、銀に弱いんだって。あと、この世界の何処かに聖銀の剣があるらしいんだ。でもその剣は、剣が認めた特定の人しか使えないんだ」

「それは伝説か」


藁にも縋る思いなのだが、役に立ちそうもない伝説の話をされ、ジルフォートはイライラする。一応書き留めているが、言葉は冷たい。


「銀器かいな。そげなもん、どうやって用意するんや」


コタロウが尋ねると、レイラは一つの簪を抜いた。


「これは銀の簪だ。女将さんに頼めば、何か用意してもらえると思うんだが。ジルフォート、どうだ」

「あぁ。頼んでみよう。それにしても、二人はいつまでその格好でいるんだ」


ナジェルが、パッと赤くなる。


「だっだってよぉ。魔女、この服、一人じゃあ着替えられないんだよ」




 結果的に、話の腰を折ることになってしまった。その日の会議は続行不可能となる。いくら重き定めを持ち、大人ぶっていっても、まだまだ子どもだ。だんだん変な方向へ話が向かう。しまいには女将達も巻き込んで、くだらない話ばかりすることになった。




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